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第六章 運命を壊す者
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良かった。何とか新しい名前を受け入れてもらえた様だ。
周囲の群衆の大歓声を聞いて、太陽はホッと安堵の息を吐いた。
皆、口々に「トワ!」と叫んでる。中には子供につけると叫んでる人もいた。
とりあえず、どんな形でもいいので語り継いでもらえればありがたい。
役目は終わったとばかりに、太陽はソソクサとその場を降りた。あとはアキエスと妖精王に任せる予定だ。
金の者がいなくなれば、実質、次の実力者は妖精王しかいない。しかも長年この世界を守る為に我が身を犠牲にしてくれた人だ。それを知った今、世界の人々はきっと彼を英雄視してくれるだろう。
「あとはお願いします」
頷いて妖精王とアキエスが壇上に上がっていく。この後は2人から、この世界でこれから起こり得る自然災害に対応する組織について話をしてもらうつもりだ。
新しい組織には金の者は関わらない。
あくまでこの世界でこれから生きていく者達で立ち向かうべき問題だからだ。
「セーヤすっげーカッコ良かった!」
「ヒカリがパー!」
悪男が興奮しながら近寄って来た。ショーキの言葉が意味不明だが、とりあえず、ありがとうとお礼を伝えた。
その後ろからルースと空も近寄って来た。
「セーヤ。とても素敵だったよ」
「ありがとうございます」
恋人の賛辞に、太陽が照れた様に笑った後、ルースの背後にいた空に話しかけた。
「空」
「何だ?」
太陽が天に向かって指を指す。その先には雲一つ無い青空が広がっていた。
「な?お前の瞳の色!綺麗だろ?」
明るい陽射しの中、太陽の金の髪が煌めく。風に乗って金の者特有の香りが空の鼻をくすぐった。
「あぁ…とても綺麗だ」
光の中で笑う太陽を空は眩しそうに見つめた。
◇◇◇
太陽はこの後、ルースと一緒に南のエルフの里へ向かう予定だ。そこで伴侶の儀を行い、2人は正式に伴侶となる。
太陽は純粋な人間では無くなるから、金の能力を使えるのは、きっと今日が最後だ。
大きな事を成し遂げたという誇らしい気持ちと、少しの寂し様を抱えて、太陽はラリエスやルース達と共に足早に控え室へ向かった。
その途中にソレは目に入った。
控え室より更に奥へ向かう廊下に何かが落ちていた。
「あれ何?」
「セーヤ様はここに。私が見てきます」
太陽の言葉に反応したのはキャスだった。
廊下の先に落ちていた物を拾い上げ、「う!」と呻いてそのまま廊下にうずくまった。
「キャス!」
ラリエスがキャスに駆け寄り触った瞬間、同じ様に呻き声を上げて膝をついた。
その様子に空が叫んだ。
「瘴気か!?何故?」
キャスとラリエスに向かって走る空に、太陽、ルース、悪男も続いた。
キャスの手にした紙が禍々しい気配を帯び、それがキャスを蝕んでいる様だった。そのキャスに触れたラリエスにも伝染している。
「ちっ!」
空が手の平に青と銀の光の粒を集め、2人の身体に聖気を流した。身体に巻きついていた瘴気が浄化されていく。
反動でキャスが手にしていた紙が床に落ちた。
白い紙には人物の様な絵が描かれている。
「あ!あれセーヤの紙じゃねえか」
「オレかいたヤツ」
悪男がその紙を手に取り、同じく聖気を流して紙についていた瘴気を祓った。
紙についた瘴気は大した事は無かった。瘴気の元はその紙から落ちた小さな物体だったからだ。
ソレは床に落ちるとコロコロと床を転がった。濃い瘴気をまとったまま。
ソレに見覚えのあった太陽は、慌ててソレを追いかけた。
「セーヤ!ダメだ!それは瘴気の塊だ!」
ルースが太陽に追いかけるのをやめるよう引き止めたが、構わず追いかけた。
何故なら転がったソレは、太陽が左の薬指にしている緑の指輪とお揃いの物だったから。
太陽の指輪は今自分でしている。
なら、目の前を転がっていくソレは無くした筈のルースの物。
ソレを手にした瞬間、太陽は派手に転んだ。それでも手にした指輪は離さない。手の平から禍々しい瘴気が太陽に襲いかかってきた。
「うぐ…」
激しい痛みや吐き気が襲ってくる。瘴気に包まれる前に、早くこの指輪を浄化しないと…。
「セーヤ!危ない!」
少し離れた所からルースの声がした。
指輪に集中しすぎていた太陽は気づかなかったが、ちょうど倒れたすぐ側の角から人影が出て来たのだ。
いきなり目の前に影が差した。
見上げるといつの間にか目の前に大男が立っていた。
濁り澱んだ目が太陽を捉えていた。
『よお…かわい子ちゃん』
「…そんな…まさか」
死んだ筈の大男ラドだった。
ーーー
次話、第六章の最終話です。
太陽、最大のピンチです。
周囲の群衆の大歓声を聞いて、太陽はホッと安堵の息を吐いた。
皆、口々に「トワ!」と叫んでる。中には子供につけると叫んでる人もいた。
とりあえず、どんな形でもいいので語り継いでもらえればありがたい。
役目は終わったとばかりに、太陽はソソクサとその場を降りた。あとはアキエスと妖精王に任せる予定だ。
金の者がいなくなれば、実質、次の実力者は妖精王しかいない。しかも長年この世界を守る為に我が身を犠牲にしてくれた人だ。それを知った今、世界の人々はきっと彼を英雄視してくれるだろう。
「あとはお願いします」
頷いて妖精王とアキエスが壇上に上がっていく。この後は2人から、この世界でこれから起こり得る自然災害に対応する組織について話をしてもらうつもりだ。
新しい組織には金の者は関わらない。
あくまでこの世界でこれから生きていく者達で立ち向かうべき問題だからだ。
「セーヤすっげーカッコ良かった!」
「ヒカリがパー!」
悪男が興奮しながら近寄って来た。ショーキの言葉が意味不明だが、とりあえず、ありがとうとお礼を伝えた。
その後ろからルースと空も近寄って来た。
「セーヤ。とても素敵だったよ」
「ありがとうございます」
恋人の賛辞に、太陽が照れた様に笑った後、ルースの背後にいた空に話しかけた。
「空」
「何だ?」
太陽が天に向かって指を指す。その先には雲一つ無い青空が広がっていた。
「な?お前の瞳の色!綺麗だろ?」
明るい陽射しの中、太陽の金の髪が煌めく。風に乗って金の者特有の香りが空の鼻をくすぐった。
「あぁ…とても綺麗だ」
光の中で笑う太陽を空は眩しそうに見つめた。
◇◇◇
太陽はこの後、ルースと一緒に南のエルフの里へ向かう予定だ。そこで伴侶の儀を行い、2人は正式に伴侶となる。
太陽は純粋な人間では無くなるから、金の能力を使えるのは、きっと今日が最後だ。
大きな事を成し遂げたという誇らしい気持ちと、少しの寂し様を抱えて、太陽はラリエスやルース達と共に足早に控え室へ向かった。
その途中にソレは目に入った。
控え室より更に奥へ向かう廊下に何かが落ちていた。
「あれ何?」
「セーヤ様はここに。私が見てきます」
太陽の言葉に反応したのはキャスだった。
廊下の先に落ちていた物を拾い上げ、「う!」と呻いてそのまま廊下にうずくまった。
「キャス!」
ラリエスがキャスに駆け寄り触った瞬間、同じ様に呻き声を上げて膝をついた。
その様子に空が叫んだ。
「瘴気か!?何故?」
キャスとラリエスに向かって走る空に、太陽、ルース、悪男も続いた。
キャスの手にした紙が禍々しい気配を帯び、それがキャスを蝕んでいる様だった。そのキャスに触れたラリエスにも伝染している。
「ちっ!」
空が手の平に青と銀の光の粒を集め、2人の身体に聖気を流した。身体に巻きついていた瘴気が浄化されていく。
反動でキャスが手にしていた紙が床に落ちた。
白い紙には人物の様な絵が描かれている。
「あ!あれセーヤの紙じゃねえか」
「オレかいたヤツ」
悪男がその紙を手に取り、同じく聖気を流して紙についていた瘴気を祓った。
紙についた瘴気は大した事は無かった。瘴気の元はその紙から落ちた小さな物体だったからだ。
ソレは床に落ちるとコロコロと床を転がった。濃い瘴気をまとったまま。
ソレに見覚えのあった太陽は、慌ててソレを追いかけた。
「セーヤ!ダメだ!それは瘴気の塊だ!」
ルースが太陽に追いかけるのをやめるよう引き止めたが、構わず追いかけた。
何故なら転がったソレは、太陽が左の薬指にしている緑の指輪とお揃いの物だったから。
太陽の指輪は今自分でしている。
なら、目の前を転がっていくソレは無くした筈のルースの物。
ソレを手にした瞬間、太陽は派手に転んだ。それでも手にした指輪は離さない。手の平から禍々しい瘴気が太陽に襲いかかってきた。
「うぐ…」
激しい痛みや吐き気が襲ってくる。瘴気に包まれる前に、早くこの指輪を浄化しないと…。
「セーヤ!危ない!」
少し離れた所からルースの声がした。
指輪に集中しすぎていた太陽は気づかなかったが、ちょうど倒れたすぐ側の角から人影が出て来たのだ。
いきなり目の前に影が差した。
見上げるといつの間にか目の前に大男が立っていた。
濁り澱んだ目が太陽を捉えていた。
『よお…かわい子ちゃん』
「…そんな…まさか」
死んだ筈の大男ラドだった。
ーーー
次話、第六章の最終話です。
太陽、最大のピンチです。
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