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第六章 運命を壊す者
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銀狼に乗って、太陽とルースは少し離れた山へ向かった。
冷たい風が首元をすり抜けていく。防寒着の中に入った小鳥の悪男がピィと鳴いた。風が入らない様に少し首周りを締めた。
後ろから大陽を抱きしめる形で同乗しているルースが、太陽の耳元に口を寄せて囁いてきた。
「セーヤ寒くない?」
「…大丈夫です」
耳にルースの息がかかり、何だか恥ずかしくてルースの方を向けなかった。
太陽が目覚めてから、目にみえてルースは太陽を大事に扱う様になった。常に寄り添って、手や腰など、どこかしらを掴まえて離さない。
それが嬉しくて、ちょっと照れくさい。
「そろそろ着くぞ」
空の声に、慌てて視線を上げると北の山の木々が見えて来た。東の森で見た木とはまた種類が違っていた。木の上には白い雪が載っていた。
山の麓で降ろしてもらい、ザクザクと音を鳴らして雪を踏み締めて歩く。すぐ後ろからルースと狼のままの空がついてくる。
「山に登りたいの?」
「はい、上までは行けなくてもいいので、どんな植物が生えてるか見たくて」
「わかった。念の為、はぐれるといけないからこれつけるね」
ルースが手の平から緑の蔦を生じさせるとそれぞれの端を太陽と自分の腰に巻き出した。伸縮性があるから、そんなに邪魔にならない植物だそうだ。
「ルースさん、俺子供じゃないです」
「当たり前だよ。君は僕の大切な伴侶だよ」
そう言ってルースにチュッとキスされた。
「……」
「さあ、行こうか」
腰を緑で繋いだだけでなく、更に太陽の手を引いて、ルースが山道を先導して歩き出した。
空と悪男も見ている中でキスされた太陽の顔は真っ赤だ。
今のルースに好きになってもらいたいと願ってはいたが、ここまで溺愛される様になるとは思わなかった。
今や人目に憚らずイチャイチャしてくるルースの行動に翻弄されるばかりだ。
そんな太陽の焦りを気にする事もなく、ルースは太陽の手を引きながら雪の山道を歩いて行く。
「セーヤ、何が見たい?北だと今の状態だと花や草木は難しいけど」
「ルースさんが普段回る場所が見たいです」
「僕が回る場所?」
不思議そうな表情のルースに、そういえば今のルースとは話してなかったと気づく。
先を行くルースを必死に見上げる。寒さで口元から白い息が漏れた。頬も冷たい。
「俺、ルースさんと一緒になったらルースさんの旅について行きたいんです」
「旅って…エルフの?でもいいの?結構大変だよ」
「それでも一緒に行きたいんです。ルースさんと離れている方が辛いから」
「セーヤ…」
太陽の必死さにルースが感動した。前にそんな約束をした記憶がない分、ひとしおだ。
「嬉しいよ」
ルースは微笑むと、じゃあこの辺りからこの近くを見て周ろうと再び太陽の手を引いて歩き出した。
◇◇◇
「北は雪の時期は普段避けて、暖かい時に来る事が多いんだ」
ルースが木の幹に手を置いて、何かを探る様に触っている。そして、うん大丈夫そうだと頷いた。
「今、もしかして聖気を流したんですか?」
「そうだよ」
ルースの言葉に太陽は驚いた。何も感じなかったからだ。そういえば、以前感じていた植物から伝わる聖なる気配も感じ取れない。
「どうしよう、俺、聖気が見えないです」
不安そうな太陽に答えたのは、後ろからついてきている空だった。
「王女と共に金の能力が無くなったからだろう」
「そうなの?」
「あぁ、お前は今は普通の人間だ」
「そうなんだ」
この世界で何とかやって来れたのも、金の能力のお陰だった。そう考えると、この先この世界でうまくやっていけるか不安になる。
「元の世界に戻りたくなった?」
ルースの声に振り向くと、寂しそうな緑の瞳が太陽を見つめていた。
元の世界。きっとただ生きていくだけなら、そっちの方が楽だろう。だけど。
「戻りたくないです。俺はルースさん無しじゃ生きていけない」
「セーヤ嬉しいよ。もう離さない」
「あ、ルースさん、ん」
感激したルースに抱きしめられそのままキスされる。今にもあの緑の籠を展開しそうだ。
「やれやれ、ワルオ、こっちこい」
2人の様子を見た空が、太陽の懐に入っている悪男を呼んだ。状況を察した悪男もピィと鳴くと太陽の懐から飛び出して空の頭の上に乗った。
「2人でも危険は無いだろう。オレ達はそこら辺を見てから戻る」
「空、悪男、ごめん!あり…」
全部は言えなかった。
案の定、ルースの足元から緑の光が放たれたと思ったら、すごい勢いで緑の蔦達が飛び出て来たからだ。
あっという間に2人の周囲を緑の蔦が飛び交い、2人の姿を覆い隠したのだった。
冷たい風が首元をすり抜けていく。防寒着の中に入った小鳥の悪男がピィと鳴いた。風が入らない様に少し首周りを締めた。
後ろから大陽を抱きしめる形で同乗しているルースが、太陽の耳元に口を寄せて囁いてきた。
「セーヤ寒くない?」
「…大丈夫です」
耳にルースの息がかかり、何だか恥ずかしくてルースの方を向けなかった。
太陽が目覚めてから、目にみえてルースは太陽を大事に扱う様になった。常に寄り添って、手や腰など、どこかしらを掴まえて離さない。
それが嬉しくて、ちょっと照れくさい。
「そろそろ着くぞ」
空の声に、慌てて視線を上げると北の山の木々が見えて来た。東の森で見た木とはまた種類が違っていた。木の上には白い雪が載っていた。
山の麓で降ろしてもらい、ザクザクと音を鳴らして雪を踏み締めて歩く。すぐ後ろからルースと狼のままの空がついてくる。
「山に登りたいの?」
「はい、上までは行けなくてもいいので、どんな植物が生えてるか見たくて」
「わかった。念の為、はぐれるといけないからこれつけるね」
ルースが手の平から緑の蔦を生じさせるとそれぞれの端を太陽と自分の腰に巻き出した。伸縮性があるから、そんなに邪魔にならない植物だそうだ。
「ルースさん、俺子供じゃないです」
「当たり前だよ。君は僕の大切な伴侶だよ」
そう言ってルースにチュッとキスされた。
「……」
「さあ、行こうか」
腰を緑で繋いだだけでなく、更に太陽の手を引いて、ルースが山道を先導して歩き出した。
空と悪男も見ている中でキスされた太陽の顔は真っ赤だ。
今のルースに好きになってもらいたいと願ってはいたが、ここまで溺愛される様になるとは思わなかった。
今や人目に憚らずイチャイチャしてくるルースの行動に翻弄されるばかりだ。
そんな太陽の焦りを気にする事もなく、ルースは太陽の手を引きながら雪の山道を歩いて行く。
「セーヤ、何が見たい?北だと今の状態だと花や草木は難しいけど」
「ルースさんが普段回る場所が見たいです」
「僕が回る場所?」
不思議そうな表情のルースに、そういえば今のルースとは話してなかったと気づく。
先を行くルースを必死に見上げる。寒さで口元から白い息が漏れた。頬も冷たい。
「俺、ルースさんと一緒になったらルースさんの旅について行きたいんです」
「旅って…エルフの?でもいいの?結構大変だよ」
「それでも一緒に行きたいんです。ルースさんと離れている方が辛いから」
「セーヤ…」
太陽の必死さにルースが感動した。前にそんな約束をした記憶がない分、ひとしおだ。
「嬉しいよ」
ルースは微笑むと、じゃあこの辺りからこの近くを見て周ろうと再び太陽の手を引いて歩き出した。
◇◇◇
「北は雪の時期は普段避けて、暖かい時に来る事が多いんだ」
ルースが木の幹に手を置いて、何かを探る様に触っている。そして、うん大丈夫そうだと頷いた。
「今、もしかして聖気を流したんですか?」
「そうだよ」
ルースの言葉に太陽は驚いた。何も感じなかったからだ。そういえば、以前感じていた植物から伝わる聖なる気配も感じ取れない。
「どうしよう、俺、聖気が見えないです」
不安そうな太陽に答えたのは、後ろからついてきている空だった。
「王女と共に金の能力が無くなったからだろう」
「そうなの?」
「あぁ、お前は今は普通の人間だ」
「そうなんだ」
この世界で何とかやって来れたのも、金の能力のお陰だった。そう考えると、この先この世界でうまくやっていけるか不安になる。
「元の世界に戻りたくなった?」
ルースの声に振り向くと、寂しそうな緑の瞳が太陽を見つめていた。
元の世界。きっとただ生きていくだけなら、そっちの方が楽だろう。だけど。
「戻りたくないです。俺はルースさん無しじゃ生きていけない」
「セーヤ嬉しいよ。もう離さない」
「あ、ルースさん、ん」
感激したルースに抱きしめられそのままキスされる。今にもあの緑の籠を展開しそうだ。
「やれやれ、ワルオ、こっちこい」
2人の様子を見た空が、太陽の懐に入っている悪男を呼んだ。状況を察した悪男もピィと鳴くと太陽の懐から飛び出して空の頭の上に乗った。
「2人でも危険は無いだろう。オレ達はそこら辺を見てから戻る」
「空、悪男、ごめん!あり…」
全部は言えなかった。
案の定、ルースの足元から緑の光が放たれたと思ったら、すごい勢いで緑の蔦達が飛び出て来たからだ。
あっという間に2人の周囲を緑の蔦が飛び交い、2人の姿を覆い隠したのだった。
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