【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
160 / 181
第六章 運命を壊す者

14

しおりを挟む
 銀狼に乗って、太陽とルースは少し離れた山へ向かった。

 冷たい風が首元をすり抜けていく。防寒着の中に入った小鳥の悪男がピィと鳴いた。風が入らない様に少し首周りを締めた。

 後ろから大陽を抱きしめる形で同乗しているルースが、太陽の耳元に口を寄せて囁いてきた。

「セーヤ寒くない?」
「…大丈夫です」

 耳にルースの息がかかり、何だか恥ずかしくてルースの方を向けなかった。

 太陽が目覚めてから、目にみえてルースは太陽を大事に扱う様になった。常に寄り添って、手や腰など、どこかしらを掴まえて離さない。

 それが嬉しくて、ちょっと照れくさい。

「そろそろ着くぞ」

 空の声に、慌てて視線を上げると北の山の木々が見えて来た。東の森で見た木とはまた種類が違っていた。木の上には白い雪が載っていた。

 山の麓で降ろしてもらい、ザクザクと音を鳴らして雪を踏み締めて歩く。すぐ後ろからルースと狼のままの空がついてくる。

「山に登りたいの?」
「はい、上までは行けなくてもいいので、どんな植物が生えてるか見たくて」
「わかった。念の為、はぐれるといけないからこれつけるね」

 ルースが手の平から緑の蔦を生じさせるとそれぞれの端を太陽と自分の腰に巻き出した。伸縮性があるから、そんなに邪魔にならない植物だそうだ。

「ルースさん、俺子供じゃないです」
「当たり前だよ。君は僕の大切な伴侶だよ」

 そう言ってルースにチュッとキスされた。

「……」
「さあ、行こうか」

 腰を緑で繋いだだけでなく、更に太陽の手を引いて、ルースが山道を先導して歩き出した。

 空と悪男も見ている中でキスされた太陽の顔は真っ赤だ。

 今のルースに好きになってもらいたいと願ってはいたが、ここまで溺愛される様になるとは思わなかった。

 今や人目に憚らずイチャイチャしてくるルースの行動に翻弄されるばかりだ。

 そんな太陽の焦りを気にする事もなく、ルースは太陽の手を引きながら雪の山道を歩いて行く。

「セーヤ、何が見たい?北だと今の状態だと花や草木は難しいけど」
「ルースさんが普段回る場所が見たいです」
「僕が回る場所?」

 不思議そうな表情のルースに、そういえば今のルースとは話してなかったと気づく。
 
 先を行くルースを必死に見上げる。寒さで口元から白い息が漏れた。頬も冷たい。

「俺、ルースさんと一緒になったらルースさんの旅について行きたいんです」
「旅って…エルフの?でもいいの?結構大変だよ」
「それでも一緒に行きたいんです。ルースさんと離れている方が辛いから」
「セーヤ…」

 太陽の必死さにルースが感動した。前にそんな約束をした記憶がない分、ひとしおだ。

「嬉しいよ」

 ルースは微笑むと、じゃあこの辺りからこの近くを見て周ろうと再び太陽の手を引いて歩き出した。



◇◇◇



「北は雪の時期は普段避けて、暖かい時に来る事が多いんだ」

 ルースが木の幹に手を置いて、何かを探る様に触っている。そして、うん大丈夫そうだと頷いた。

「今、もしかして聖気を流したんですか?」
「そうだよ」

 ルースの言葉に太陽は驚いた。何も感じなかったからだ。そういえば、以前感じていた植物から伝わる聖なる気配も感じ取れない。

「どうしよう、俺、聖気が見えないです」

 不安そうな太陽に答えたのは、後ろからついてきている空だった。

「王女と共に金の能力が無くなったからだろう」
「そうなの?」
「あぁ、お前は今は普通の人間だ」
「そうなんだ」

 この世界で何とかやって来れたのも、金の能力のお陰だった。そう考えると、この先この世界でうまくやっていけるか不安になる。

「元の世界に戻りたくなった?」

 ルースの声に振り向くと、寂しそうな緑の瞳が太陽を見つめていた。

 元の世界。きっとただ生きていくだけなら、そっちの方が楽だろう。だけど。

「戻りたくないです。俺はルースさん無しじゃ生きていけない」
「セーヤ嬉しいよ。もう離さない」
「あ、ルースさん、ん」

 感激したルースに抱きしめられそのままキスされる。今にもあの緑の籠を展開しそうだ。

「やれやれ、ワルオ、こっちこい」

 2人の様子を見た空が、太陽の懐に入っている悪男を呼んだ。状況を察した悪男もピィと鳴くと太陽の懐から飛び出して空の頭の上に乗った。

「2人でも危険は無いだろう。オレ達はそこら辺を見てから戻る」
「空、悪男、ごめん!あり…」

 全部は言えなかった。

 案の定、ルースの足元から緑の光が放たれたと思ったら、すごい勢いで緑の蔦達が飛び出て来たからだ。

 あっという間に2人の周囲を緑の蔦が飛び交い、2人の姿を覆い隠したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...