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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 いつの間にか外の雨は止んでいた。

 部屋にいた太陽達は気づかなかったが、その頃、この世界に住む多くの者が同時に目撃したある一つの奇跡があった。

 太陽が放った光の祝福は西の館から外に出て、そのまま上空に昇って行った。

 それにより一瞬、世界を覆っていた雲が晴れ、数百年ぶりの太陽が天に現れたのだ。

 突然明るくなった空に、世界の各地の幾多の種族達が何事かと外に出て天を仰いだ。

 美しく晴れ渡る青空と、空に輝く太陽にこの世界の人々は驚愕した。

 そして、彼らは西の空に大きく架かる美しい七色の橋の目撃者となった。

 それはこの世界の誰もが見た事の無い自然現象だった。

 それでも、その美しさに人々は感動し涙を流した。中央の瘴気を祓い、聖気で満たした方がいらっしゃる。そう感じさせる程の美しい光景だった。

 西の七色なないろの橋の奇跡。

 この日の現象はそう呼ばれ、西の地は聖女の聖地として知られる様になる出来事となった。



◇◇◇



 早速北へ向かうと決めた太陽に、アキエスが気になる言葉を発した。

「魔王をすぐ封印するのでは無いのですか?」
「今瘴気を抑えているのは魔王と勇者なんです。ただ魔王を封印するだけでは瘴気の解決にはならないんです」
「ですが、金の能力が発動したという事は貴方様は瘴気や魔王を憎んでるのでは無いですか?」

 ドキリとした。

 確かにルースを傷つけた魔王を許すつもりは無い。つい先程までは封印どころが引き裂いてやろうと思う気持ちもあった。

 でも何故それをアキエスはそれを知ってるんだろう。

 思わず顔を強張らせた太陽を庇う様に、悪男が太陽の前に出る。

「何で…お前が知ってるんだ?」
「アヤシイ!」

 心外だとアキエスは肩をすくめた。

「我が家では、金の力のみなもとは魔王や瘴気への怒りだと言い伝えられております。悪を憎み嫌う心が魔王を封印すると。なら、普通は金の者は魔王を憎み封じる筈だと思うでしょう?」
「魔王への怒り…」

 太陽は愕然と呟き、空と悪男は信じられないという様に互いに顔を見合わせた。

 成り行きを見ていた長達もアキエスの発言は初めて知った様で眉を顰めている。

「確かに魔王がキッカケでセーヤは聖女として目覚めたが…」
「…おかしいですね」
「何がだい?」

 空とガソルの言葉に、鳥の長が疑問をぶつけた。

「…わざわざ自分に不利になる状況にするか?」
「そんなの!ルース兄貴を人質にしたかったんだろ?」
「あれが、人質の為に攫うように見えたか?」
「!」

 空の言葉に悪男も言葉に詰まった。

 どちらかといえば本気で殺そうとしている様に見えた。だが、太陽の前でわざわざ口にしたくは無かった。

「何か複雑なご事情がお有りの様ですね。金の者よ。どうぞ貴方の御心のままに。我々人族は貴方の決定に従いましょう」

 アキエスは再び頭を下げた。



◇◇◇



 敵の本拠地にはきっとあの黒い化け物達がわんさかいるだろう。

 そこで急遽、共に北へ乗り込むメンバーが選出された。元々東も南も長と共に戦える者を同行させていたし、鳥族は基本好戦的でいつでも選出できる状況だった。

 その為、太陽が北へ向かうと決めてから、数時間で西の渓谷付近には多くの種族で溢れ返っていた。

 接近戦に優れた東の銀狼。
 後方支援に優れた南のエルフ。
 上空戦に優れた西の鳥族。

 そして。
 何故か多くの人間達が集まっていた。

 彼らは何も知らされていないにも関わらず、先ほど現れた美しい七色の橋に惹かれ、ただ集まって来ていた。

 そこに敬愛すべき女神の力を持つ者がいる筈だ。そう確信して。
 
 花も緑も咲かない荒れた地。そう噂されていたその西の渓谷は、幾重にも重なった様々な赤が独特の模様を作り出しているとても神秘的な場所だった。

 そこに一際大きく美しい赤い鳥に乗った一向がやって来た。その燃える様な赤い翼は人々の目を惹きつけた。ある者は目を奪われ、ある者は息を飲んだ。

 赤い鳥の飛んだ跡を、赤と紫の聖気がキラキラと光を放っている。聖気が見える銀狼やエルフは、なかなか見る機会の無い西の鳥族の聖気に見惚れた。

 西の鳥族は魔王の配下。女神に嫌悪された嫌われ者。そう考える者は、もうこの場には誰もいなかった。

 だって、ほら。その赤い鳥の背には金の髪と瞳を持つこの世界の救世主が乗っているのだからー。
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