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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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光の勇者の末裔?
新たな存在に太陽は素直に驚いた。
先程までのチャラい優男は一気に雰囲気が変貌した。豪華で美しい巻き髪のせいか、どこか品を感じさせる男だった。
「セーヤよ。この男は最後の勇者に似ている。末裔というのは事実だろう」
空の言葉に太陽は驚きを隠せない。夢で会った勇者はストレートの金髪に鋭い眼だった。目の前の男には全く似てないからだ。
「セーヤ君。私も勇者の末裔で間違いないと思う。元王族は金の者の怒りを買った。だから彼が次の代表と見て問題ない。私らが証人になるから、君の要望を人間側に伝えるといい」
アキエスは跪いたまま「何なりと」と答えた。
「え、と。俺は誰かに将来を決めつけられるのは嫌です。だから結婚相手とか、そういうのはやめてください」
「承知しました」
「あと、王族復活とか、それは勝手に俺のいないところでやって下さい」
「王族は復活させません。他には?」
「えーと…」
この人、今サラリと復活させないって言ったけど、大丈夫なのかな?何だか太陽の方が心配になった。
「あの…西の鳥族は俺を助けてくれました。それに東の銀狼も南のエルフもです。だから彼らを嫌う事はしないでください」
「御意」
太陽の言葉に鳥の長が感動して、セーヤと呟いているのが見えた。
「では北へはどうお考えか?」
「北…」
アキエスがジッと太陽を見つめた。
彼だけじゃない。各地の長達も、空も悪男も太陽の返事を待っている。
ちなみに、悪男は先程からショーキにおバカ発言をさせない為、ずっと自分の口を押さえている、それがちょっと和んだ。
「北…魔王は…」
魔王のした事を考えると腑が煮えくり返ってまた腹の中から怒りの熱が沸いて来そうだ。
魔王は絶対に許さない、という気持ちと。
それではこれまでの繰り返しになるからどうにかしなければいけない、という気持ちがせめぎ合う。
その時、大きな四角の窓から飛び込んで来た者達がいた。エルフと鳥族の男だった。
「長…大変です…」
「死ぬぅ~」
部屋に入るなり2人はグッタリと力尽きている。
「何だい!?また敵襲かい!?」
鳥の長が力尽きている鳥族の男をぶんぶん揺さぶった。鳥族の男が目を回す。
「うげげ、長、死ぬ、死ぬぅ。エルフ乗せて南まで往復して来たんす~」
もしかして。
鳥族の言葉に、太陽は期待と不安を込めてベイティを見た。
ベイティも頷き席から立ち上がると、床に座り込んだエルフに歩み寄った。
「南に確かめに行ってくれたんだね。ご苦労だった。結果を教えてくれるか?」
エルフの男がフラフラとしながらも、ベイティの前に跪いた。
「申し上げます!神樹の花は…咲いていませんでした!」
「咲いていない…。そうか、よく知らせてくれた」
ベイティが目元を手で覆った。堪え切れずに頬を涙が伝っているのが見えた。
「ベイティさん…ルースさんは」
「…生きている。良かった…本当にっ…悪運の強い子だよ」
ベイティが肩を振るわせた。報告したエルフも同様にその場で涙を流している。
ルースさんが生きている?
本当に?
化け物に喰われて、腕を噛みちぎられて、それでも生きてるの?
嬉しい筈なのに、信じられない。
思わず後退った太陽に悪男が抱きついた。
「良かったな!ルース兄貴、スッゲーな!あの状況で生き延びたんだ!」
「ヨカッタ!」
「悪男…」
縋る様に太陽は悪男を見た。
これは現実?夢じゃなくて?
そんな太陽の不安を吹き飛ばす様に、悪男とショーキが笑顔で言った。
「迎えに行こうぜ!きっと北でセーヤが迎えに来るの待ってるぜ!」
「イコウ!ムカエニ!」
太陽の中の不安を、悪男とショーキの言葉が吹き飛ばした。
ルースさんが…生きている!
やっとその喜びが胸に溢れて来て、太陽は涙が溢れ止まらなかった。
「光が…」
誰の声かは分からなかった。太陽の身体が優しく金色に光り、ふわふわと金色の粒が部屋に広がっていく。
「これは…聖女の祝福?」
「なんと」
「すごい。初めて見たよ!」
金色の光の粒が部屋を満たし、そのまま窓から壁からと外へ通り抜けていく。少しして、窓の向こうに柔らかな小雨が降って来た。
「セーヤよ。心は決まったか?」
「空…うん。俺行くよ北に、今すぐ」
涙を拭って太陽はみんなにしっかり意志を示した。
「俺は北へ向かいます。魔王に会って来ます。北に対してどうするかは、それから決めます」
空と悪男に向かって顔を向ける。
「2人とも俺について来てくれる?」
「もちろんだ」
「おう!飛ぶ時は任せろ!」
「イッショにタビスル!」
ルースさんが生きている。
ならきっと魔王に囚われている筈だ。もしかしたら、太陽に対しての人質なのかもしれない。
「空、悪男。お願いルースさんを助ける為に力を貸して」
もう太陽の瞳に迷いは無かった。
新たな存在に太陽は素直に驚いた。
先程までのチャラい優男は一気に雰囲気が変貌した。豪華で美しい巻き髪のせいか、どこか品を感じさせる男だった。
「セーヤよ。この男は最後の勇者に似ている。末裔というのは事実だろう」
空の言葉に太陽は驚きを隠せない。夢で会った勇者はストレートの金髪に鋭い眼だった。目の前の男には全く似てないからだ。
「セーヤ君。私も勇者の末裔で間違いないと思う。元王族は金の者の怒りを買った。だから彼が次の代表と見て問題ない。私らが証人になるから、君の要望を人間側に伝えるといい」
アキエスは跪いたまま「何なりと」と答えた。
「え、と。俺は誰かに将来を決めつけられるのは嫌です。だから結婚相手とか、そういうのはやめてください」
「承知しました」
「あと、王族復活とか、それは勝手に俺のいないところでやって下さい」
「王族は復活させません。他には?」
「えーと…」
この人、今サラリと復活させないって言ったけど、大丈夫なのかな?何だか太陽の方が心配になった。
「あの…西の鳥族は俺を助けてくれました。それに東の銀狼も南のエルフもです。だから彼らを嫌う事はしないでください」
「御意」
太陽の言葉に鳥の長が感動して、セーヤと呟いているのが見えた。
「では北へはどうお考えか?」
「北…」
アキエスがジッと太陽を見つめた。
彼だけじゃない。各地の長達も、空も悪男も太陽の返事を待っている。
ちなみに、悪男は先程からショーキにおバカ発言をさせない為、ずっと自分の口を押さえている、それがちょっと和んだ。
「北…魔王は…」
魔王のした事を考えると腑が煮えくり返ってまた腹の中から怒りの熱が沸いて来そうだ。
魔王は絶対に許さない、という気持ちと。
それではこれまでの繰り返しになるからどうにかしなければいけない、という気持ちがせめぎ合う。
その時、大きな四角の窓から飛び込んで来た者達がいた。エルフと鳥族の男だった。
「長…大変です…」
「死ぬぅ~」
部屋に入るなり2人はグッタリと力尽きている。
「何だい!?また敵襲かい!?」
鳥の長が力尽きている鳥族の男をぶんぶん揺さぶった。鳥族の男が目を回す。
「うげげ、長、死ぬ、死ぬぅ。エルフ乗せて南まで往復して来たんす~」
もしかして。
鳥族の言葉に、太陽は期待と不安を込めてベイティを見た。
ベイティも頷き席から立ち上がると、床に座り込んだエルフに歩み寄った。
「南に確かめに行ってくれたんだね。ご苦労だった。結果を教えてくれるか?」
エルフの男がフラフラとしながらも、ベイティの前に跪いた。
「申し上げます!神樹の花は…咲いていませんでした!」
「咲いていない…。そうか、よく知らせてくれた」
ベイティが目元を手で覆った。堪え切れずに頬を涙が伝っているのが見えた。
「ベイティさん…ルースさんは」
「…生きている。良かった…本当にっ…悪運の強い子だよ」
ベイティが肩を振るわせた。報告したエルフも同様にその場で涙を流している。
ルースさんが生きている?
本当に?
化け物に喰われて、腕を噛みちぎられて、それでも生きてるの?
嬉しい筈なのに、信じられない。
思わず後退った太陽に悪男が抱きついた。
「良かったな!ルース兄貴、スッゲーな!あの状況で生き延びたんだ!」
「ヨカッタ!」
「悪男…」
縋る様に太陽は悪男を見た。
これは現実?夢じゃなくて?
そんな太陽の不安を吹き飛ばす様に、悪男とショーキが笑顔で言った。
「迎えに行こうぜ!きっと北でセーヤが迎えに来るの待ってるぜ!」
「イコウ!ムカエニ!」
太陽の中の不安を、悪男とショーキの言葉が吹き飛ばした。
ルースさんが…生きている!
やっとその喜びが胸に溢れて来て、太陽は涙が溢れ止まらなかった。
「光が…」
誰の声かは分からなかった。太陽の身体が優しく金色に光り、ふわふわと金色の粒が部屋に広がっていく。
「これは…聖女の祝福?」
「なんと」
「すごい。初めて見たよ!」
金色の光の粒が部屋を満たし、そのまま窓から壁からと外へ通り抜けていく。少しして、窓の向こうに柔らかな小雨が降って来た。
「セーヤよ。心は決まったか?」
「空…うん。俺行くよ北に、今すぐ」
涙を拭って太陽はみんなにしっかり意志を示した。
「俺は北へ向かいます。魔王に会って来ます。北に対してどうするかは、それから決めます」
空と悪男に向かって顔を向ける。
「2人とも俺について来てくれる?」
「もちろんだ」
「おう!飛ぶ時は任せろ!」
「イッショにタビスル!」
ルースさんが生きている。
ならきっと魔王に囚われている筈だ。もしかしたら、太陽に対しての人質なのかもしれない。
「空、悪男。お願いルースさんを助ける為に力を貸して」
もう太陽の瞳に迷いは無かった。
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