【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
113 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

しおりを挟む
 光の勇者の末裔?

 新たな存在に太陽は素直に驚いた。

 先程までのチャラい優男は一気に雰囲気が変貌した。豪華で美しい巻き髪のせいか、どこか品を感じさせる男だった。

「セーヤよ。この男は最後の勇者に似ている。末裔というのは事実だろう」

 空の言葉に太陽は驚きを隠せない。夢で会った勇者はストレートの金髪に鋭い眼だった。目の前の男には全く似てないからだ。

「セーヤ君。私も勇者の末裔で間違いないと思う。元王族は金の者の怒りを買った。だから彼が次の代表と見て問題ない。私らが証人になるから、君の要望を人間側に伝えるといい」

 アキエスは跪いたまま「何なりと」と答えた。

「え、と。俺は誰かに将来を決めつけられるのは嫌です。だから結婚相手とか、そういうのはやめてください」
「承知しました」
「あと、王族復活とか、それは勝手に俺のいないところでやって下さい」
「王族は復活させません。他には?」
「えーと…」

 この人、今サラリと復活させないって言ったけど、大丈夫なのかな?何だか太陽の方が心配になった。

「あの…西の鳥族は俺を助けてくれました。それに東の銀狼も南のエルフもです。だから彼らを嫌う事はしないでください」
「御意」

 太陽の言葉に鳥の長が感動して、セーヤと呟いているのが見えた。

「では北へはどうお考えか?」
「北…」

 アキエスがジッと太陽を見つめた。

 彼だけじゃない。各地の長達も、空も悪男も太陽の返事を待っている。

 ちなみに、悪男は先程からショーキにおバカ発言をさせない為、ずっと自分の口を押さえている、それがちょっと和んだ。

「北…魔王は…」

 魔王のした事を考えると腑が煮えくり返ってまた腹の中から怒りの熱が沸いて来そうだ。

 魔王は絶対に許さない、という気持ちと。

 それではこれまでの繰り返しになるからどうにかしなければいけない、という気持ちがせめぎ合う。

 その時、大きな四角の窓から飛び込んで来た者達がいた。エルフと鳥族の男だった。

「長…大変です…」
「死ぬぅ~」

 部屋に入るなり2人はグッタリと力尽きている。

「何だい!?また敵襲かい!?」

 鳥の長が力尽きている鳥族の男をぶんぶん揺さぶった。鳥族の男が目を回す。

「うげげ、長、死ぬ、死ぬぅ。エルフ乗せて南まで往復して来たんす~」

 もしかして。

 鳥族の言葉に、太陽は期待と不安を込めてベイティを見た。

 ベイティも頷き席から立ち上がると、床に座り込んだエルフに歩み寄った。

「南に確かめに行ってくれたんだね。ご苦労だった。結果を教えてくれるか?」

 エルフの男がフラフラとしながらも、ベイティの前に跪いた。

「申し上げます!神樹の花は…咲いていませんでした!」
「咲いていない…。そうか、よく知らせてくれた」

 ベイティが目元を手で覆った。堪え切れずに頬を涙が伝っているのが見えた。

「ベイティさん…ルースさんは」
「…生きている。良かった…本当にっ…悪運の強い子だよ」

 ベイティが肩を振るわせた。報告したエルフも同様にその場で涙を流している。

 ルースさんが生きている?

 本当に?

 化け物に喰われて、腕を噛みちぎられて、それでも生きてるの?

 嬉しい筈なのに、信じられない。

 思わず後退った太陽に悪男が抱きついた。

「良かったな!ルース兄貴、スッゲーな!あの状況で生き延びたんだ!」
「ヨカッタ!」
「悪男…」

 縋る様に太陽は悪男を見た。
 
 これは現実?夢じゃなくて?

 そんな太陽の不安を吹き飛ばす様に、悪男とショーキが笑顔で言った。

「迎えに行こうぜ!きっと北でセーヤが迎えに来るの待ってるぜ!」
「イコウ!ムカエニ!」

 太陽の中の不安を、悪男とショーキの言葉が吹き飛ばした。

 ルースさんが…生きている!

 やっとその喜びが胸に溢れて来て、太陽は涙が溢れ止まらなかった。

「光が…」

 誰の声かは分からなかった。太陽の身体が優しく金色に光り、ふわふわと金色の粒が部屋に広がっていく。

「これは…聖女の祝福?」
「なんと」
「すごい。初めて見たよ!」

 金色の光の粒が部屋を満たし、そのまま窓から壁からと外へ通り抜けていく。少しして、窓の向こうに柔らかな小雨が降って来た。

「セーヤよ。心は決まったか?」
「空…うん。俺行くよ北に、今すぐ」

 涙を拭って太陽はみんなにしっかり意志を示した。

「俺は北へ向かいます。魔王に会って来ます。北に対してどうするかは、それから決めます」

 空と悪男に向かって顔を向ける。

「2人とも俺について来てくれる?」
「もちろんだ」
「おう!飛ぶ時は任せろ!」
「イッショにタビスル!」

 ルースさんが生きている。

 ならきっと魔王に囚われている筈だ。もしかしたら、太陽に対しての人質なのかもしれない。

「空、悪男。お願いルースさんを助ける為に力を貸して」

 もう太陽の瞳に迷いは無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...