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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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ーーー
もう世界とかどうでもいい。
ルースさんがいないなら、どうでも。
そう思えば思うほど、どんどん自分の気持ちや意識が沈み込んでいく。
セーヤ!と何度も自分を呼ぶ、空と悪男の声がする。聞こえているのに、聴こえない。心に入ってこない。
目を閉じて、耳を塞いでしまえば、ルースの声や表情が思い浮かんでくるから。だから、ここから出たくない。
なら、このまま奥底に沈んで寝てしまえと、自分の声が囁く。
それに従って、意識の奥深くに沈み込もうとした時、その声は聞こえてきた。
『ルースの腕を食べるのはもう少し待ってくれないか?』
その言葉が太陽の心に届くまで数秒かかった。
耳に入り、脳が意味を理解し、心で受け止めるのに、たっぷりと数秒かかったが、太陽の意識を向けるには充分だった。
自分の内側に落ちて行く意識を何とか踏み止まらせて、太陽は声の主に顔を向けた。
◇◇◇
ルースの腕を大切そうに持ったまま返事をしなくなった太陽に、空も悪男も必死で声をかけたが、太陽は全く反応しなくなった。
まるで生きる事を放棄したかの様にー。
そんな太陽の意識を、何とか引き戻したのはベイティの一言だった。
「ルースの腕を食べるのはもう少し待ってくれないか?」
ベイティが声をかけてから、数秒後、ゆっくり太陽がベイティに視線を向けた。
「…どうしてですか?」
ベイティの言葉が何を意図しているのか分からず、ぼんやり太陽は首を傾げている。
そんな太陽に、ベイティが迷う素振りを見ながら、言葉を続ける。
「本当はハッキリするまで言うつもりは無かった。でも、あまりにも君の様子が不安定だから仕方なく言う事にしたんだ。そこを踏まえて聞いて欲しい」
「…?よく分からないです」
「私はルースにエルフの宝である神樹の実という物を授けた。その時代で1番強いエルフに授けられる武器だ」
西で再会してからルースの使っていた黄緑の弓矢を思い出す。優美な造りでとてもルースに似合ってると思った武器だった。
見覚えがあると太陽は頷いて見せた。それを確認してからベイティが慎重に話を続ける。
「その実は、前の所有者が死ぬと同時に花をつける」
「……」
「今、それを私の部下に確認に行かせてる。それがハッキリするまで待って欲しい」
虚だった太陽の瞳がしっかりベイティを捉えた。
「ベイティさんは…ルースさんが生きてるかもしれないって思ってるんですか?」
「わからない。でもまだ新しい神樹の花が咲いてない限り、希望は捨てないよ」
「……あ」
再び太陽の目から涙が溢れた。
今度は絶望では無く希望の涙だった。
その願いは無駄かもしれない。とても小さな希望。
でも、それが太陽の精神を踏み止まらせてくれた。
「俺も…信じたいです」
「あぁ。今は希望を捨てずに、一緒に信じよう」
ーーー
もう世界とかどうでもいい。
ルースさんがいないなら、どうでも。
そう思えば思うほど、どんどん自分の気持ちや意識が沈み込んでいく。
セーヤ!と何度も自分を呼ぶ、空と悪男の声がする。聞こえているのに、聴こえない。心に入ってこない。
目を閉じて、耳を塞いでしまえば、ルースの声や表情が思い浮かんでくるから。だから、ここから出たくない。
なら、このまま奥底に沈んで寝てしまえと、自分の声が囁く。
それに従って、意識の奥深くに沈み込もうとした時、その声は聞こえてきた。
『ルースの腕を食べるのはもう少し待ってくれないか?』
その言葉が太陽の心に届くまで数秒かかった。
耳に入り、脳が意味を理解し、心で受け止めるのに、たっぷりと数秒かかったが、太陽の意識を向けるには充分だった。
自分の内側に落ちて行く意識を何とか踏み止まらせて、太陽は声の主に顔を向けた。
◇◇◇
ルースの腕を大切そうに持ったまま返事をしなくなった太陽に、空も悪男も必死で声をかけたが、太陽は全く反応しなくなった。
まるで生きる事を放棄したかの様にー。
そんな太陽の意識を、何とか引き戻したのはベイティの一言だった。
「ルースの腕を食べるのはもう少し待ってくれないか?」
ベイティが声をかけてから、数秒後、ゆっくり太陽がベイティに視線を向けた。
「…どうしてですか?」
ベイティの言葉が何を意図しているのか分からず、ぼんやり太陽は首を傾げている。
そんな太陽に、ベイティが迷う素振りを見ながら、言葉を続ける。
「本当はハッキリするまで言うつもりは無かった。でも、あまりにも君の様子が不安定だから仕方なく言う事にしたんだ。そこを踏まえて聞いて欲しい」
「…?よく分からないです」
「私はルースにエルフの宝である神樹の実という物を授けた。その時代で1番強いエルフに授けられる武器だ」
西で再会してからルースの使っていた黄緑の弓矢を思い出す。優美な造りでとてもルースに似合ってると思った武器だった。
見覚えがあると太陽は頷いて見せた。それを確認してからベイティが慎重に話を続ける。
「その実は、前の所有者が死ぬと同時に花をつける」
「……」
「今、それを私の部下に確認に行かせてる。それがハッキリするまで待って欲しい」
虚だった太陽の瞳がしっかりベイティを捉えた。
「ベイティさんは…ルースさんが生きてるかもしれないって思ってるんですか?」
「わからない。でもまだ新しい神樹の花が咲いてない限り、希望は捨てないよ」
「……あ」
再び太陽の目から涙が溢れた。
今度は絶望では無く希望の涙だった。
その願いは無駄かもしれない。とても小さな希望。
でも、それが太陽の精神を踏み止まらせてくれた。
「俺も…信じたいです」
「あぁ。今は希望を捨てずに、一緒に信じよう」
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