【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第六章 運命を壊す者

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 ルースの上に、上半身が裸の太陽が跨っていた。

「…なに」
「ルースさん」

 太陽が微笑んで、再びルースに口付けてきた。驚くルースが口を開けた瞬間に太陽が舌を差し込んできた。

「…ん」
「はぁ、ルースさん…」

 太陽の手がルースの手を掴んで、自分の胸に導く。ルースの手の平に胸を押し付けながら、切なそうに、触ってとねだって来た。

 テント内の柔らかい光が太陽の顔を照らす。切ない表情がルースを見つめていた。その瞳を見たルースは、太陽の両肩を掴んで自分から引き離した。

「君は…王女の方だろう?」

 その言葉に太陽の表情から、スッと感情が抜け落ちた。先ほどまでの切なそうな表情や甘い雰囲気はどこにも無かった。

「どうしてわかったの?」
「…君とセーヤは目が違うから」

 太陽の姿をした王女がつまらなさそうに、首を傾げる。

「どっちでもいいじゃない。身体は彼の物だし」
「どいて」
「…どうして?セーヤと付き合う前は誰とでも見境無く寝てたんでしょ?」

 王女の言葉に、ルースが言葉に詰まる。図星だったからだ。特定の相手を作るつもりも無くて、悪夢に悩まされていたルースは適当な相手さえいれば毎夜抱いていた。

「それに覚えてないんでしょ?」

 王女がルースの両手首を掴んで、その手の平に自分の胸の粒を擦りつけた。

「何度も何度も、この身体を抱いた事」
「…っ」
「私ごと愛すると言ったのは…嘘?」
「……」

 黙り込んだルースに再び王女が口付けようと顔を寄せて…動きを止めた。

「何で泣くの?」

 何を考えているか分からない表情のまま、ルースは静かに涙を流していた。

「…ごめん。君ごと愛するって言ったのに、僕はやっぱり…セーヤじゃないとダメみたいだ…」
「……何よそれ」
「セーヤが…ずっと僕を呼んでる気がするんだ。助けてって…」
「っ」

 太陽は王女の中でただ静かに寝ている。助けなんか呼びようが無い。ただ…王女が太陽と入れ替わる前まで、彼は自分が自分じゃなくなるんじゃないかと怯えていた。

 何故だかそれを思い出した。

 ルースの上から降りると、王女は服を着てテントの外に出て行った。

 後には声を押し殺して泣くルースだけが取り残された。



◇◇◇



「王女?どうした」

 話しながら酒を酌み交わす魔王とベイティの側を王女が横切った。様子のおかしいのに気づいた魔王が声をかけた。

 王女は足を止めたが、顔を伏せていてその表情は見えない。

「何でも無い」

 素っ気なく返して王女は自分のテントに入って行った。

 魔王とベイティが互いに目を合わせ、頷くと魔王が後を追った。

「入るぞ」

 断りを入れテントを覗くと、王女はこちらに背を向けて座り込んでいた。その背中が誰かが入って来る事を拒否している様にも見えた。

 仕方なく、入口から声をかける。

「何があった?」
「早く全部終わらせたい」
「…何?」

 全部終わらせる。
 それは彼女自身の自我が無くなる可能性が高い。何故そんな事を言うのか魔王には理解出来なかった。

「何故?」
「だって」

 うつむいていた王女が顔を上げて、魔王を振り向いた。その目は涙に濡れていた。

「ここに私の居場所なんてないもの」
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