153 / 181
第六章 運命を壊す者
7
しおりを挟む
早朝北から出発した旅は順調だった。
元々北以外の土地は聖気で結界を張っているので邪魔する者もいない。
東の森で食事をとった一行は、かろうじてまだ明るい内に南の果ての土地に着いた。
中央の土地に近い南の町やエルフの里に比べて、そこは美しい緑の絨毯が広がる草原だった。
大陸の南側は、大地や緑と縁の深いエルフ一族がその力で南一帯を結界で守ってきた。だからこそ、穢れない美しい場所が残っていたのだ。
「ベイティ、協力に感謝する」
「久しいなシェリア」
互いに鳥族に乗ったままの魔王と南の長が挨拶を交わした。魔王の名を、王女も含めその場にいた全員が初めて知った。
「南は特に聖気を入念に張っているからな。この場所なら、街や里にも影響は無いだろう」
「わかった」
この土地に魔王が取りんだ瘴気の2割を封印する。建物も何も無い草原だった。広大ない土地の向こうには海が見えた。
草原に魔王が降り立つ。
足元からジワリと禍々しい気配が広がった。瞬く間に、周囲の地面の草が枯れて足元が黒く変化していく。
その様子をベイティをはじめエルフ達は痛ましい表情で見つめていた。
◇◇◇
「必要な犠牲だと分かっていても辛いな」
「すまない」
「いや、各種族が必要な犠牲を払っている。仕方ないさ」
焚き火を囲んで、ベイティと魔王は酒を酌み交わしていた。少し離れた所で、エルフや鳥族達もそれぞれ焚き火の側で暖を取っている。
南での封印を終えた一行は、封印の場から少し離れた場所へ本日の寝場所を整えていた。
本来ならエルフ達は里に戻っても良かったが、ベイティ自らが魔王と話したいという希望の元、護衛のエルフ含めて野宿をする事になったのだ。
旅に慣れたエルフ達が寝床になる簡易テントを張り、食べる物を準備してくれた。
ちなみにここまで魔王達と共にやって来た鳥族達は、普段お目にかかれない焚き火にテンションが上がり、更に美味しい酒と食べ物で宴の最中だ。
「飲め飲め!この先、世界はきっと良くなる!」
「鳥族はそう思うのか?」
「当たり前だろ!そしたらエルフはきっと世界を旅出来るさ!西にも来いよ!歓迎してやる」
「お、おう」
鳥族のペースにエルフも巻き込まれて、何となく未来は明るいという雰囲気に包まれていた。
「鳥族の影響力は凄まじいな」
「あぁ。我もアレに救われてきた」
魔王の口角が微かに上がる。
2人の間に穏やかな時間が流れた。遥か昔、ベイティ、シェリア、そして今は亡きベイティの弟ルミドの3人で酒を酌み交わした仲だ。
パチパチッと焚き火が耳に心地良い。その炎を見ながらベイティは、一番気になっている質問を口にした。
「……いつか彼はセーヤ君に戻れるか?」
「封印がすめば戻るかもしれぬ。だが代わりに王女の人格は今度こそ消えるだろうな」
「そうか…」
魔王の言葉にベイティが口を閉じた。
かつて護衛で守っていた相手だけに、複雑な想いは消えない。
複雑な気持ちを飲み干す様に、ベイティは持っていた杯を空けた。
鳥族とエルフ達が盛り上がっている横で、空と悪男も食事を取っていた。
ラリエスとキャスも食事をしてしてるのが見えて、ふと悪男が空に尋ねた。
「ルース兄貴と王女がいない」
「ドコ?」
空が頭の上の耳をピコピコ動かす。
「ルースと王女は一緒みたいだな」
「え?また喧嘩しない?」
「…わからんがこれは仕方ない」
少なくとも、ルースがどうにかしないといけない問題だ。気にせず、肉を食え、と悪男に勧めて、空も肉を頬張った。
◇◇◇
みんなの輪から1人離れたルースは、1人簡易テントの中で休んでいた。
元々、エルフはそんなに食事をしなくても問題ない上に食欲も無かった。
空や悪男といても、目が太陽を追ってしまう。そんな時間が嫌で早々にみんなの輪から外れた。
バサッ
テントの入口が開く音がした。3人程度は休めるテントなので、空と悪男が入って来たのだろうとルースは目を閉じて寝返りをうった。
ゴソゴソ、パサ
布の擦れる音がした。
そしてー。
「っ!」
唇に何かが触れる感触に驚いて、ルースは目を見開いた。目の前には柔らかい光に照らされた金色の瞳があった。
テント内に置いていた光る鉱石が目の前の人物をぼんやり浮かび上がらせる。上半身の服を脱いだ太陽が、ルースの上に跨っていた。
元々北以外の土地は聖気で結界を張っているので邪魔する者もいない。
東の森で食事をとった一行は、かろうじてまだ明るい内に南の果ての土地に着いた。
中央の土地に近い南の町やエルフの里に比べて、そこは美しい緑の絨毯が広がる草原だった。
大陸の南側は、大地や緑と縁の深いエルフ一族がその力で南一帯を結界で守ってきた。だからこそ、穢れない美しい場所が残っていたのだ。
「ベイティ、協力に感謝する」
「久しいなシェリア」
互いに鳥族に乗ったままの魔王と南の長が挨拶を交わした。魔王の名を、王女も含めその場にいた全員が初めて知った。
「南は特に聖気を入念に張っているからな。この場所なら、街や里にも影響は無いだろう」
「わかった」
この土地に魔王が取りんだ瘴気の2割を封印する。建物も何も無い草原だった。広大ない土地の向こうには海が見えた。
草原に魔王が降り立つ。
足元からジワリと禍々しい気配が広がった。瞬く間に、周囲の地面の草が枯れて足元が黒く変化していく。
その様子をベイティをはじめエルフ達は痛ましい表情で見つめていた。
◇◇◇
「必要な犠牲だと分かっていても辛いな」
「すまない」
「いや、各種族が必要な犠牲を払っている。仕方ないさ」
焚き火を囲んで、ベイティと魔王は酒を酌み交わしていた。少し離れた所で、エルフや鳥族達もそれぞれ焚き火の側で暖を取っている。
南での封印を終えた一行は、封印の場から少し離れた場所へ本日の寝場所を整えていた。
本来ならエルフ達は里に戻っても良かったが、ベイティ自らが魔王と話したいという希望の元、護衛のエルフ含めて野宿をする事になったのだ。
旅に慣れたエルフ達が寝床になる簡易テントを張り、食べる物を準備してくれた。
ちなみにここまで魔王達と共にやって来た鳥族達は、普段お目にかかれない焚き火にテンションが上がり、更に美味しい酒と食べ物で宴の最中だ。
「飲め飲め!この先、世界はきっと良くなる!」
「鳥族はそう思うのか?」
「当たり前だろ!そしたらエルフはきっと世界を旅出来るさ!西にも来いよ!歓迎してやる」
「お、おう」
鳥族のペースにエルフも巻き込まれて、何となく未来は明るいという雰囲気に包まれていた。
「鳥族の影響力は凄まじいな」
「あぁ。我もアレに救われてきた」
魔王の口角が微かに上がる。
2人の間に穏やかな時間が流れた。遥か昔、ベイティ、シェリア、そして今は亡きベイティの弟ルミドの3人で酒を酌み交わした仲だ。
パチパチッと焚き火が耳に心地良い。その炎を見ながらベイティは、一番気になっている質問を口にした。
「……いつか彼はセーヤ君に戻れるか?」
「封印がすめば戻るかもしれぬ。だが代わりに王女の人格は今度こそ消えるだろうな」
「そうか…」
魔王の言葉にベイティが口を閉じた。
かつて護衛で守っていた相手だけに、複雑な想いは消えない。
複雑な気持ちを飲み干す様に、ベイティは持っていた杯を空けた。
鳥族とエルフ達が盛り上がっている横で、空と悪男も食事を取っていた。
ラリエスとキャスも食事をしてしてるのが見えて、ふと悪男が空に尋ねた。
「ルース兄貴と王女がいない」
「ドコ?」
空が頭の上の耳をピコピコ動かす。
「ルースと王女は一緒みたいだな」
「え?また喧嘩しない?」
「…わからんがこれは仕方ない」
少なくとも、ルースがどうにかしないといけない問題だ。気にせず、肉を食え、と悪男に勧めて、空も肉を頬張った。
◇◇◇
みんなの輪から1人離れたルースは、1人簡易テントの中で休んでいた。
元々、エルフはそんなに食事をしなくても問題ない上に食欲も無かった。
空や悪男といても、目が太陽を追ってしまう。そんな時間が嫌で早々にみんなの輪から外れた。
バサッ
テントの入口が開く音がした。3人程度は休めるテントなので、空と悪男が入って来たのだろうとルースは目を閉じて寝返りをうった。
ゴソゴソ、パサ
布の擦れる音がした。
そしてー。
「っ!」
唇に何かが触れる感触に驚いて、ルースは目を見開いた。目の前には柔らかい光に照らされた金色の瞳があった。
テント内に置いていた光る鉱石が目の前の人物をぼんやり浮かび上がらせる。上半身の服を脱いだ太陽が、ルースの上に跨っていた。
22
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる