【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
153 / 181
第六章 運命を壊す者

しおりを挟む
 早朝北から出発した旅は順調だった。

 元々北以外の土地は聖気で結界を張っているので邪魔する者もいない。

 東の森で食事をとった一行は、かろうじてまだ明るい内に南の果ての土地に着いた。

 中央の土地に近い南の町やエルフの里に比べて、そこは美しい緑の絨毯が広がる草原だった。

 大陸の南側は、大地や緑と縁の深いエルフ一族がその力で南一帯を結界で守ってきた。だからこそ、穢れない美しい場所が残っていたのだ。

「ベイティ、協力に感謝する」
「久しいなシェリア」

 互いに鳥族に乗ったままの魔王と南の長が挨拶を交わした。魔王の名を、王女も含めその場にいた全員が初めて知った。

「南は特に聖気を入念に張っているからな。この場所なら、街や里にも影響は無いだろう」
「わかった」

 この土地に魔王が取りんだ瘴気の2割を封印する。建物も何も無い草原だった。広大ない土地の向こうには海が見えた。

 草原に魔王が降り立つ。

 足元からジワリと禍々しい気配が広がった。瞬く間に、周囲の地面の草が枯れて足元が黒く変化していく。

 その様子をベイティをはじめエルフ達は痛ましい表情で見つめていた。



◇◇◇



「必要な犠牲だと分かっていても辛いな」
「すまない」
「いや、各種族が必要な犠牲を払っている。仕方ないさ」

 焚き火を囲んで、ベイティと魔王は酒を酌み交わしていた。少し離れた所で、エルフや鳥族達もそれぞれ焚き火の側で暖を取っている。

 南での封印を終えた一行は、封印の場から少し離れた場所へ本日の寝場所を整えていた。

 本来ならエルフ達は里に戻っても良かったが、ベイティ自らが魔王と話したいという希望の元、護衛のエルフ含めて野宿をする事になったのだ。

 旅に慣れたエルフ達が寝床になる簡易テントを張り、食べる物を準備してくれた。

 ちなみにここまで魔王達と共にやって来た鳥族達は、普段お目にかかれない焚き火にテンションが上がり、更に美味しい酒と食べ物で宴の最中だ。

「飲め飲め!この先、世界はきっと良くなる!」
「鳥族はそう思うのか?」
「当たり前だろ!そしたらエルフはきっと世界を旅出来るさ!西にも来いよ!歓迎してやる」
「お、おう」

 鳥族のペースにエルフも巻き込まれて、何となく未来は明るいという雰囲気に包まれていた。

「鳥族の影響力は凄まじいな」
「あぁ。我もアレに救われてきた」

 魔王の口角が微かに上がる。

 2人の間に穏やかな時間が流れた。遥か昔、ベイティ、シェリア、そして今は亡きベイティの弟ルミドの3人で酒を酌み交わした仲だ。

 パチパチッと焚き火が耳に心地良い。その炎を見ながらベイティは、一番気になっている質問を口にした。

「……いつか彼はセーヤ君に戻れるか?」
「封印がすめば戻るかもしれぬ。だが代わりに王女の人格は今度こそ消えるだろうな」
「そうか…」

 魔王の言葉にベイティが口を閉じた。

 かつて護衛で守っていた相手だけに、複雑な想いは消えない。

 複雑な気持ちを飲み干す様に、ベイティは持っていた杯を空けた。



 鳥族とエルフ達が盛り上がっている横で、空と悪男も食事を取っていた。

 ラリエスとキャスも食事をしてしてるのが見えて、ふと悪男が空に尋ねた。

「ルース兄貴と王女がいない」
「ドコ?」

 空が頭の上の耳をピコピコ動かす。

「ルースと王女は一緒みたいだな」
「え?また喧嘩しない?」
「…わからんがこれは仕方ない」

 少なくとも、ルースがどうにかしないといけない問題だ。気にせず、肉を食え、と悪男に勧めて、空も肉を頬張った。



◇◇◇



 みんなの輪から1人離れたルースは、1人簡易テントの中で休んでいた。

 元々、エルフはそんなに食事をしなくても問題ない上に食欲も無かった。

 空や悪男といても、目が太陽を追ってしまう。そんな時間が嫌で早々にみんなの輪から外れた。

 バサッ

 テントの入口が開く音がした。3人程度は休めるテントなので、空と悪男が入って来たのだろうとルースは目を閉じて寝返りをうった。

 ゴソゴソ、パサ

 布の擦れる音がした。

 そしてー。

「っ!」

 唇に何かが触れる感触に驚いて、ルースは目を見開いた。目の前には柔らかい光に照らされた金色の瞳があった。

 テント内に置いていた光る鉱石が目の前の人物をぼんやり浮かび上がらせる。上半身の服を脱いだ太陽が、ルースの上に跨っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...