【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第六章 運命を壊す者

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 早朝北から出発した旅は順調だった。

 元々北以外の土地は聖気で結界を張っているので邪魔する者もいない。

 東の森で食事をとった一行は、かろうじてまだ明るい内に南の果ての土地に着いた。

 中央の土地に近い南の町やエルフの里に比べて、そこは美しい緑の絨毯が広がる草原だった。

 大陸の南側は、大地や緑と縁の深いエルフ一族がその力で南一帯を結界で守ってきた。だからこそ、穢れない美しい場所が残っていたのだ。

「ベイティ、協力に感謝する」
「久しいなシェリア」

 互いに鳥族に乗ったままの魔王と南の長が挨拶を交わした。魔王の名を、王女も含めその場にいた全員が初めて知った。

「南は特に聖気を入念に張っているからな。この場所なら、街や里にも影響は無いだろう」
「わかった」

 この土地に魔王が取りんだ瘴気の2割を封印する。建物も何も無い草原だった。広大ない土地の向こうには海が見えた。

 草原に魔王が降り立つ。

 足元からジワリと禍々しい気配が広がった。瞬く間に、周囲の地面の草が枯れて足元が黒く変化していく。

 その様子をベイティをはじめエルフ達は痛ましい表情で見つめていた。



◇◇◇



「必要な犠牲だと分かっていても辛いな」
「すまない」
「いや、各種族が必要な犠牲を払っている。仕方ないさ」

 焚き火を囲んで、ベイティと魔王は酒を酌み交わしていた。少し離れた所で、エルフや鳥族達もそれぞれ焚き火の側で暖を取っている。

 南での封印を終えた一行は、封印の場から少し離れた場所へ本日の寝場所を整えていた。

 本来ならエルフ達は里に戻っても良かったが、ベイティ自らが魔王と話したいという希望の元、護衛のエルフ含めて野宿をする事になったのだ。

 旅に慣れたエルフ達が寝床になる簡易テントを張り、食べる物を準備してくれた。

 ちなみにここまで魔王達と共にやって来た鳥族達は、普段お目にかかれない焚き火にテンションが上がり、更に美味しい酒と食べ物で宴の最中だ。

「飲め飲め!この先、世界はきっと良くなる!」
「鳥族はそう思うのか?」
「当たり前だろ!そしたらエルフはきっと世界を旅出来るさ!西にも来いよ!歓迎してやる」
「お、おう」

 鳥族のペースにエルフも巻き込まれて、何となく未来は明るいという雰囲気に包まれていた。

「鳥族の影響力は凄まじいな」
「あぁ。我もアレに救われてきた」

 魔王の口角が微かに上がる。

 2人の間に穏やかな時間が流れた。遥か昔、ベイティ、シェリア、そして今は亡きベイティの弟ルミドの3人で酒を酌み交わした仲だ。

 パチパチッと焚き火が耳に心地良い。その炎を見ながらベイティは、一番気になっている質問を口にした。

「……いつか彼はセーヤ君に戻れるか?」
「封印がすめば戻るかもしれぬ。だが代わりに王女の人格は今度こそ消えるだろうな」
「そうか…」

 魔王の言葉にベイティが口を閉じた。

 かつて護衛で守っていた相手だけに、複雑な想いは消えない。

 複雑な気持ちを飲み干す様に、ベイティは持っていた杯を空けた。



 鳥族とエルフ達が盛り上がっている横で、空と悪男も食事を取っていた。

 ラリエスとキャスも食事をしてしてるのが見えて、ふと悪男が空に尋ねた。

「ルース兄貴と王女がいない」
「ドコ?」

 空が頭の上の耳をピコピコ動かす。

「ルースと王女は一緒みたいだな」
「え?また喧嘩しない?」
「…わからんがこれは仕方ない」

 少なくとも、ルースがどうにかしないといけない問題だ。気にせず、肉を食え、と悪男に勧めて、空も肉を頬張った。



◇◇◇



 みんなの輪から1人離れたルースは、1人簡易テントの中で休んでいた。

 元々、エルフはそんなに食事をしなくても問題ない上に食欲も無かった。

 空や悪男といても、目が太陽を追ってしまう。そんな時間が嫌で早々にみんなの輪から外れた。

 バサッ

 テントの入口が開く音がした。3人程度は休めるテントなので、空と悪男が入って来たのだろうとルースは目を閉じて寝返りをうった。

 ゴソゴソ、パサ

 布の擦れる音がした。

 そしてー。

「っ!」

 唇に何かが触れる感触に驚いて、ルースは目を見開いた。目の前には柔らかい光に照らされた金色の瞳があった。

 テント内に置いていた光る鉱石が目の前の人物をぼんやり浮かび上がらせる。上半身の服を脱いだ太陽が、ルースの上に跨っていた。
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