【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第六章 運命を壊す者

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 光の封印は成された。

 悪しき気配に包まれた真っ黒な砂漠に、その光の魔法陣は美しく輝いている。

「すごい、初めて見たよ」

 鳥族の長がその美しさに溜息をついた。

「これで内側から瘴気が漏れてくる事は無い。代わりに外からも入る事もできない」

 徐々に金の光が落ち着いてきた王女が、鳥族の長に目線を向ける。

「ずっと浄化するのは大変だと思うけど、よろしくね」
「もちろんだよ!任せときな!」



 次はそのまま東へ向かう。そう言って一行は出発の準備を始める。

 その隙に、鳥族の長がルースに話しかけた。

「ルース、セーヤはどうなったんだい?」
「光の封印が終われば、もしかしたら戻る可能性があるって」
「そうかい」
「悔しいよ、僕は何もできない」
「そんな事はないよ!」

 長がルースの両肩を掴んで、ルースを励ます。

「あの子は元の世界で家族を亡くして1人で生きてたって言ってた。この世界が好きで、大切な人と一緒に生きて行きたいって。あの子を幸せに出来るのはアンタだけだよ。だからルース。あの子をあきらめないでおくれ」
「…もちろんだよ。長ありがとう」
「アンタもセーヤも、アタイらの家族だよ」

 思わず泣きそうな表情になったルースの背中を軽く叩いて、長はルース達を送り出してくれた。



◇◇◇



 東の湖は西寄りだった為、すぐに着いた。
 西側にいた偵察隊が東の長ガソルに報告を入れた為、王女達が着くのとほぼ同時刻にガソルやその側近達も到着した。

「この度の協力感謝する」
「我が一族にとっても瘴気を祓い光を取り戻すのは必要な事。気にされるな」

 ガソルに感謝を述べた魔王は、その後湖に降り立った。ここに瘴気の約2割を移す。

 魔王の姿はいつもの人型に戻っていた。水に腰まで浸かると、徐々に黒い気配が魔王を中心に広がっていく。大きな湖が完全に黒く染まったのを見届けて、再び光の封印が成された。

 真っ黒な液体の中央に金色の魔法陣が美しく輝いていた。



 これから南に向かう前に、一時的に休憩をしていた一行に銀狼達が食事を振る舞ってくれた。

 さすがに取った生の獲物は王女達に出す訳にはいかなかったので、主に採れたての木の実や果物がメインだった。

 王女達は瑞々しい果物を美味しそうに頬張っていたが、鳥族達は肉、肉、と騒ぎ出した。

 仕方なくルースがストックしていた肉を使って簡単な料理を準備した。ハーブで蒸して味付けしたそれは大層美味しそうな匂いを放った。鳥族だけでなく、銀狼達も興味津々だ。

「沢山あるから、みんなで食べるといいよ」

 ルースの言葉に、いつの間か空と悪男まで混じって肉を貪っている。呆れながら、木の皿にいくつかよそおった肉料理を王女ら4人にも振る舞った。

「…何で?」

 ジロリと王女がルースを睨んだ。彼女はずっとルースを警戒している。

「…別に。食事はみんなで食べた方が美味しいでしょ?」

 一通り料理と片付けを終わらせると、ルースは1人その場を後にした。



◇◇◇



 その湖は、今や真っ黒な液体でしか無かった。

 ルース自身にとっては、時々訪れる管理小屋とその近くにある湖。その程度の認識だ。

 金の魔法陣が輝く黒い湖をルースは、静かに見つめていた。

「…何見てるの?」

 かけられた声に振り返ると、太陽の姿をした王女が立っていた。意志の強そうな瞳に、キリッとした表情。不思議な事にセーヤの時よりも今の王女の方が、彼をより凛々しく見せていた。

「セーヤが前に、この湖は想い出深いって言ってたんだ」
「そうね。彼はこの湖で水浴びした時に、初めて貴方とキスしたみたいよ」
「え?それ、どういう状況?」

 ルースは洗浄の魔法を使うので、水に入って汚れを落とすという発想が無い。出逢って間もない2人が湖に入るイメージが湧かなかった。

 少し困惑したものの平静を取り戻したルースは王女に視線を向ける。

「セーヤの記憶はあるの?」
「あるわ、元の魂は一つだもの」
「いつか…セーヤは戻ってくる?」
「どうかしら」

 王女はルースに背を向けて、元の場所へ歩き出す。

「頼むよ」

 ルースの声が王女を追いかける。

「もう2度と淋しい思いをさせない」

 一瞬、王女の足が止まった。その後ろ姿に必死にルースが声をかける。

「忘れた記憶の分も埋められる位に大事にするから」
「彼に譲るという事は、私が消えるって事よ。私に消えろと言ってるの?」
「…っ。それは…」

 言葉に詰まったルースを一瞥して、王女は返事を待つ。

「君とセーヤは1つなんだろ?ならセーヤの中にいる君ごと愛するから」
「……」
「だから…頼むよ」

 返事をする事なく、王女は去って行った。
 ルースはその背中を見つめていた。
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