【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
145 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

36 the others 最終話

しおりを挟む
 音も無くソレはやって来た。

 一瞬、目の前の光景が歪んだかと思うと、高熱の空気が男達の全身を包んだ。

「ぐあぁぁぁ!」
「何だこれ…は」
「熱い!熱い!助けてくれ!」

 いきなりの苦痛に男達は膝を着き苦しみ出す。何が起きたか分からず、人々は壇上に目を向けた。

 金色を纏った少年は、怒りに表情を歪め全身の空気をユラリと揺らめかせていた。

 屋内の室温も先程より高くなっている。

『どうだ熱いか?それがお前等が偽物と疑った金の炎の熱だ』

 少年の声が広間に響いた。その声自体に力があるかの様に人々の耳に届いた。

 ユラリ、と再び少年の周囲の空気が歪む。

 男達を取り巻いていた熱が一気に霧散した。解放された後も、男達は痛みや恐怖心から、怯えたまま壇上の少年にひれ伏した。

 この世界で熱や火に関わる能力は金の者にしか扱えない。

 自分達が侮辱した相手は間違いなく金の能力者。それを男達は身をもって理解したのだ。

「セーヤ?どうしたの?」

 ルースが太陽に近づこうとして…立ち止まった。太陽の周りに高温の熱波が揺らめき、とてもじゃないが近寄れる状況では無かったからだ。

 そんなルースを振り向く事なく、太陽は目の前の群衆に視線を向けている。

 その姿は、まるで人々の注目を浴びるのに慣れているかの様に堂々としていた。

『この世界はやがて瘴気によって滅びる。何故か分かるか?』

 太陽の言葉に、声を上げる者はいなかった。

 これまでの太陽や長達の話で、何となく気づいてはいる。だが…ソレを口にするのは恐ろしい。

 誰も声を上げない静寂の中、太陽は正解を口にした。

『女神がこの世界を見捨てて、壊そうとしているからだ』

 そんな、と誰の声が虚しく広間に響いた。

『古来より女神はこの世界を愛でて来た。我々が鉢や庭で花を愛でる様に。だが間違えた手入れを続けられた結果。花は病んだ』

 群衆は無言で耳を傾けている。

 金の者の言葉に救いはあるのか?この世界に希望はあるのか?

 人々は固唾を飲んで金の者の次の言葉を待つ。

『我々が行おうとしているのは、病んだ原因を取り除き、正しい手入れをし、花を健康に戻そうとする行為だ』

 そこで太陽は一旦言葉を切り、再び周囲を見渡して…口を開いた。

『この苦難を乗り越えれば、今度こそ我々はこの瘴気の恐怖から逃れられるだろう』

 おお、と人々の顔が明るくなった。
 
 もう反対の声を上げる者はいなかった。



◇◇◇



 演説後、一行は元の打ち合わせをしていた部屋へ戻って来た。

「君は…誰?」

 ルースの声に太陽が振り向いた。

 太陽と容姿は同じなのに、今受ける印象は全然違っていた。

 普段が控えめで謙虚な印象だとしたら、目の前の彼は威厳を感じさせる力強さがあった。

『師匠に…ミドにそっくり』
「っ」

 ルースの頬に手を添えて顔を寄せて来た太陽に、ルースがとっさに顔を背けた。太陽と同じ顔なのに、目の前の彼は別人だと感じたからだ。

『どうして避けるの?私は彼と同じ存在なのに』
「…君はセーヤじゃない。セーヤはどこ?」
『今は私の中で寝てる。反対派を言いくるめるにはあの子は優しすぎる』

 空がルースを庇う様に、太陽とルースの間に割り込んだ。

「お前は…誰だ?」

 そんな空に太陽がつまらなさな表情を浮かべる。

『私を忘れた?ルフトゥ?』

 その言葉に空とベイティが驚愕した。

 それはかつて、最後の王女が当時お気に入りの空に名付けた名前だったからだ。

 その名を知るのは、今この中では当時を生きていた空とベイティ位しかいない。

「お前…王女か?何故?」

 空の疑問に太陽の姿をしたその人物は笑った。まるで花が咲く様に、艶やかに。いつもの控えめな太陽はどこにもいなかった。

『元々この魂の主人格は私なの。だから私が彼に譲らない限り彼は目覚めないわ』



◇◇◇



 名もない世界の秘密は暴かれた。

 それは『女神の箱庭』

 自分の好き放題にいじり、思い通りにならなければ荒らし、気に食わなければ摘み刈りとる。

 残虐な主人にとうとう花達は自ら再生する道を選んだ。

 少しずつ壊されていく『女神の箱庭』。

 最後に壊すのは誰か。

 その日まで、もうすぐー。




第五章 果てなき旅路より戻りし者。完。



ーーー

 第六章は2月中旬に公開予定です。

 そろそろ物語も終盤ですが、一時的に主人公不在になります。(意識を乗っ取られた為)
 

★お知らせ★

 『たっくんとコウちゃん【大学生編】』の番外編を本日から開始しました。大学生編と同じスレッドに追加しています。

 現代・幼馴染ものです。お口直しに、よければそちらもお読み頂けたら嬉しいです。

 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

それはダメだよ秋斗くん![完]

中頭かなり
BL
年下×年上。表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/116042007様からお借りしました。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...