【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 ショーキがニクニクうるさいので、料理は太陽が担当した。その間に空やショーキがルースにこれまでの出来事を説明してくれている。

 思い出してもらえたら嬉しい。

 でも、ここまで徹底して太陽の記憶に関わる事だけが無いなら、それはそんな事を成し得た存在がいるという事だ。心当たりは1つしかない。

 それなら今ルースが生きているだけでも感謝しないと。2人にとっての過去は無くても、未来はあるのだから。

「出来たよ」

 ルースに聞いた調理方法で、前に作ってもらった料理を再現してみた。食欲をそそる良い香りが部屋一杯に広がる。

 空と悪男の食欲を考えると、調味料をふんだんには使え無いので、味付け自体は薄めにした。

 先ほどから、悪男の右側、ショーキの口からヨダレが出ては、悪男が必死にハンカチで拭いている。

 話し合いは一時中断で昼食を取る事にした。

 さすがにいつもの様に手づかみはマズいので、全員分のフォークを準備した。事前に食べやすく一口サイズにカットしてる。

 食べていいよ、と言った瞬間に悪男がバクバク食べ出した。熱い!ウマイ!熱い!ウマイ!と交互に叫んでバクバク食べている。

 普段生肉しか食べない弊害がこんなとこに。少しずつ、火を通した分を食べさせてあげよう。太陽は反省した。

 空はなかなか器用にフォークを使ってる。いつも豪快に骨肉に齧りついてるが、場に合わせて食事が出来るタイプだ。意外に空ってスペック高いよな。太陽は感心した。

 ルースは考え込んでて手をつけてない。

「ルースさん」
「ん?何?」
「食べないんですか?」
「あぁ、ごめん。せっかく作ってくれたのに。君は食べないの?」
「いえ、食べますよ」

 いただきます、と手を合わせて食事を始めた。少し薄めだが、なかなか美味しく出来た。

「それ何?」

 ルースが真似して手を合わせた。
 それが初めて会った頃を思い出して、思わず嬉しくなる。

「これは…」

 前と同じ様に、生命を頂く事に感謝または生命を無駄にしません、という気持ちを表してると伝えた。

「生命を無駄にしない…」

 呟いて少し考えた後、ルースも食事をとり始めた。



 食事が終わり太陽の片付けが終わった頃、空達の話も終わった様だった。

 途中ルースは寝室に入って、自分の背中の傷を確認しに行ったらしい。あるべき筈の瘴気の傷が綺麗に無くなっている事に、驚きと喜びで涙ぐんでいた。

 話が落ち着いたところで、息抜きにとお茶を準備して太陽は3人がいる場所に戻った。

 ルースは相変わらず考え込み。
 空は無言でソファにふんぞり返り。
 悪男はお腹いっぱいになって、イビキをかいて寝ていた。

 ある意味予想通りの展開だった。

「ルースさん。そんな考えこまないでください」
「セーヤは何で楽しそうなの?」

 運んできたお茶の入ったコップをテーブルに並べた。

「楽しいというより、嬉しいんです」
「嬉しい?」
「はい。ルースさんが死んだと思った時、俺の世界も終わったと思いました。でもこうやって、ルースさんと過ごせてる。それだけで俺はもう幸せなんです」

 太陽の言葉にルースが顔を抑えながら、ふぅと溜め息を吐いた。

「僕の傷を治してくれたのも君なんだね。本当にありがとう。感謝しても仕切れない。なのにこんな大事な事も忘れてるなんて」
「仕方ないです。死にかけそうな大怪我だったし。それに言ったじゃないですか。もう一度俺の事を好きなってもらえる様に頑張りますって」

 冗談ぽく言って笑う太陽の言葉に、それまで顔を押さていた指の間から、ルースは太陽を見つめた。

「…君は僕が魔王の事を見てたのを気にしてただろ?」

 ドキリとした。魔王を、北の方を切なそうに見ていたルースを太陽は思い出す。

 そしてそんなルースを見る度に、太陽が泣きそうになっているのを、ルースの方も気づいていた。

「あれは魔王を意識したわけじゃ無くて」

 言いにくそうに口ごもる。

「魔王の髪が気になったんだ」
「髪?」
「あの時、目覚めて部屋に入った時に魔王の黒髪に惹かれたんだ。ただそれだけなんだ。でもとても大事な事を忘れてる気がして」
「黒…髪」
「僕は何を忘れてるんだろう…君達は何か知ってる?」

 ルースの言葉に、薄茶に変化させていた太陽の瞳から涙が溢れた。思わず顔を覆って泣き出す。涙も嗚咽も止まらなかった。

 空は口から徐々に笑いが溢れ、大笑いした。

 空の笑い声に悪男は驚いて飛び起きた。何事かと周囲をキョロキョロ見回してしている。

 泣き出した太陽にルースが慌てて、あたふたしている。

「ルースよ。その壁の魔法陣はすぐ直せるか?」
「急に何?直せるけど」
「なら今すぐ魔法陣を直してエルフの里へ向かうぞ。そうすれば、お前の気にしている黒髪の奴に会える」
「でもセーヤが」
「セーヤなら大丈夫だ。セーヤの為にもそうしろ」

 見るからに太陽を大事にしている空の言葉なら、きっとそうなのだろう。何より、ルース自身も頭から離れない黒髪の人物の事が気になった。

 白い壁の刃物傷の部分に手を這わせ、凹んだ部分に淡い緑の植物の蔦を這わせた。盛り上がった部分は取り出したナイフで丁寧に削りなだらかにしていく。

 修復した壁に途切れていた魔法陣を描いていく。花の様にも蔦の様にも見える、デザインされた優美な魔法陣。

「出来たよ。本当に向かっていいの?」

 空は無言で頷き、太陽は相変わらず泣きながら頷き、悪男はよくわからないまま頷いた。

 それを見てルースは魔法陣に手の平をつけ聖気を流し込んだ。
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