【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
142 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

33

しおりを挟む
 ショーキがニクニクうるさいので、料理は太陽が担当した。その間に空やショーキがルースにこれまでの出来事を説明してくれている。

 思い出してもらえたら嬉しい。

 でも、ここまで徹底して太陽の記憶に関わる事だけが無いなら、それはそんな事を成し得た存在がいるという事だ。心当たりは1つしかない。

 それなら今ルースが生きているだけでも感謝しないと。2人にとっての過去は無くても、未来はあるのだから。

「出来たよ」

 ルースに聞いた調理方法で、前に作ってもらった料理を再現してみた。食欲をそそる良い香りが部屋一杯に広がる。

 空と悪男の食欲を考えると、調味料をふんだんには使え無いので、味付け自体は薄めにした。

 先ほどから、悪男の右側、ショーキの口からヨダレが出ては、悪男が必死にハンカチで拭いている。

 話し合いは一時中断で昼食を取る事にした。

 さすがにいつもの様に手づかみはマズいので、全員分のフォークを準備した。事前に食べやすく一口サイズにカットしてる。

 食べていいよ、と言った瞬間に悪男がバクバク食べ出した。熱い!ウマイ!熱い!ウマイ!と交互に叫んでバクバク食べている。

 普段生肉しか食べない弊害がこんなとこに。少しずつ、火を通した分を食べさせてあげよう。太陽は反省した。

 空はなかなか器用にフォークを使ってる。いつも豪快に骨肉に齧りついてるが、場に合わせて食事が出来るタイプだ。意外に空ってスペック高いよな。太陽は感心した。

 ルースは考え込んでて手をつけてない。

「ルースさん」
「ん?何?」
「食べないんですか?」
「あぁ、ごめん。せっかく作ってくれたのに。君は食べないの?」
「いえ、食べますよ」

 いただきます、と手を合わせて食事を始めた。少し薄めだが、なかなか美味しく出来た。

「それ何?」

 ルースが真似して手を合わせた。
 それが初めて会った頃を思い出して、思わず嬉しくなる。

「これは…」

 前と同じ様に、生命を頂く事に感謝または生命を無駄にしません、という気持ちを表してると伝えた。

「生命を無駄にしない…」

 呟いて少し考えた後、ルースも食事をとり始めた。



 食事が終わり太陽の片付けが終わった頃、空達の話も終わった様だった。

 途中ルースは寝室に入って、自分の背中の傷を確認しに行ったらしい。あるべき筈の瘴気の傷が綺麗に無くなっている事に、驚きと喜びで涙ぐんでいた。

 話が落ち着いたところで、息抜きにとお茶を準備して太陽は3人がいる場所に戻った。

 ルースは相変わらず考え込み。
 空は無言でソファにふんぞり返り。
 悪男はお腹いっぱいになって、イビキをかいて寝ていた。

 ある意味予想通りの展開だった。

「ルースさん。そんな考えこまないでください」
「セーヤは何で楽しそうなの?」

 運んできたお茶の入ったコップをテーブルに並べた。

「楽しいというより、嬉しいんです」
「嬉しい?」
「はい。ルースさんが死んだと思った時、俺の世界も終わったと思いました。でもこうやって、ルースさんと過ごせてる。それだけで俺はもう幸せなんです」

 太陽の言葉にルースが顔を抑えながら、ふぅと溜め息を吐いた。

「僕の傷を治してくれたのも君なんだね。本当にありがとう。感謝しても仕切れない。なのにこんな大事な事も忘れてるなんて」
「仕方ないです。死にかけそうな大怪我だったし。それに言ったじゃないですか。もう一度俺の事を好きなってもらえる様に頑張りますって」

 冗談ぽく言って笑う太陽の言葉に、それまで顔を押さていた指の間から、ルースは太陽を見つめた。

「…君は僕が魔王の事を見てたのを気にしてただろ?」

 ドキリとした。魔王を、北の方を切なそうに見ていたルースを太陽は思い出す。

 そしてそんなルースを見る度に、太陽が泣きそうになっているのを、ルースの方も気づいていた。

「あれは魔王を意識したわけじゃ無くて」

 言いにくそうに口ごもる。

「魔王の髪が気になったんだ」
「髪?」
「あの時、目覚めて部屋に入った時に魔王の黒髪に惹かれたんだ。ただそれだけなんだ。でもとても大事な事を忘れてる気がして」
「黒…髪」
「僕は何を忘れてるんだろう…君達は何か知ってる?」

 ルースの言葉に、薄茶に変化させていた太陽の瞳から涙が溢れた。思わず顔を覆って泣き出す。涙も嗚咽も止まらなかった。

 空は口から徐々に笑いが溢れ、大笑いした。

 空の笑い声に悪男は驚いて飛び起きた。何事かと周囲をキョロキョロ見回してしている。

 泣き出した太陽にルースが慌てて、あたふたしている。

「ルースよ。その壁の魔法陣はすぐ直せるか?」
「急に何?直せるけど」
「なら今すぐ魔法陣を直してエルフの里へ向かうぞ。そうすれば、お前の気にしている黒髪の奴に会える」
「でもセーヤが」
「セーヤなら大丈夫だ。セーヤの為にもそうしろ」

 見るからに太陽を大事にしている空の言葉なら、きっとそうなのだろう。何より、ルース自身も頭から離れない黒髪の人物の事が気になった。

 白い壁の刃物傷の部分に手を這わせ、凹んだ部分に淡い緑の植物の蔦を這わせた。盛り上がった部分は取り出したナイフで丁寧に削りなだらかにしていく。

 修復した壁に途切れていた魔法陣を描いていく。花の様にも蔦の様にも見える、デザインされた優美な魔法陣。

「出来たよ。本当に向かっていいの?」

 空は無言で頷き、太陽は相変わらず泣きながら頷き、悪男はよくわからないまま頷いた。

 それを見てルースは魔法陣に手の平をつけ聖気を流し込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...