上 下
139 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

30 the others

しおりを挟む
 ルースは太陽を抱きしめたまま、再び口付けた。

 角度を変え、何度も口付けながら深めていく。

「は…ん、ルースさん…」

 太陽の悩まし気な声に、ハッとルースが我に返り慌てて太陽の上から飛び起きた。

「ルースさん?」

 乱れた息遣いに、紅潮した頬。潤んだ瞳でベッドに横たわった太陽が、ルースの名を呼んだ。

 駄目だ。このままだと流されて彼を抱いてしまう。自分の欲望を抑える為、ルースは深呼吸を繰り返した。

「ごめんセーヤ」
「どうして謝るんですか?俺はルースさんに抱いて欲しいです」
「まだ自分の気持ちが分からないんだ。だから抱けない」

 自分はこの少年に惹かれている。それは間違い無かった。

 でも時折、自分の中に浮かぶ人影がある。

 顔も覚えてないけど、とても大事な人だった。それが誰か分かるまでは、これ以上は踏み込めない。

「僕は暖炉の側で休むよ」

 ルースの言葉に、太陽が今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 それを見るのが辛くてルースは逃げる様にベッドから離れた。



◇◇◇



 温かい…。

 温もりと人の気配に、ルースはぼんやりと目を開けた。

 暖炉の前で厚めの布で包まって考え事をしていたら、いつの間にかうたた寝をしてしまった。

 横を見ると、同じ様に布に包まった太陽がルースに寄りかかって寝ていた。

 全くこの子は。つい先程、危うく自分に襲われかけたのに、また無防備に。

 少しの呆れと、自分へのひたむきな好意がくすぐったい。

 ベッドに寝かせた方がいいのにー。

 太陽の温もりを感じさせる優しい香りが心地よくて、また微睡む。

 そういえば、今夜は何故、悪夢を見ないんだろう。東の結界のせい?それとも金の者が側にいるから?

 答えを出す前に、ルースは再び夢の中と旅立った。



◇◇◇



 カチャ カチャ コト

 食事の用意をしている音がした。

 部屋の中が明るい事で、夜が明けたのだと分かった。暖炉の火も消えていた。

 音につられて視線を向けると、金の髪の少年がテーブルに食事を並べているのが見えた。

 誰かと一緒に生活して過ごすのは、どの位ぶりだろう。ぼんやり思った。

 ルースが起きた事に気づいた太陽が、こちらを振り返った。

 朝の柔らかい空間の中で、綺麗な金の髪がきらめく。

「ルースさん、おはようございます」
「…おはよう」

 ルースの挨拶一つで太陽は嬉しそうに笑う。

「簡単ですけど、朝ご飯作ったんです」
「…ありがとう」

 ルースのお礼一つで太陽は幸せそうにはにかむ。

 こんなに真っ直ぐな好意。他の奴に渡したくない。彼が家族だと親しくしているソラやワルオにもー。

 だから早く、自分の中で答えを出さなければ。

 少しずつ自分の中に芽生えて来た想いを、ルースは自覚していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶
BL
幼い頃はその美貌で誰からも愛されていた主人公は、顔半分に大きな傷をおってしまう。それから彼の人生は逆転した。愛してくれていた親からは虐げられ、人の目が気になり外に出ることが怖くなった。そんな時、王太子様が婚約者候補を探しているため年齢の合う者は王宮まで来るようにという御触書が全貴族の元へと送られてきた。主人公の双子の妹もその対象だったが行きたくないと駄々をこね…… ※本編完結済みです ※ハピエン確定していますので安心してお読みください✨ ※途中辛い場面など多々あります ※NL表現が含まれます ※ストーリー重視&シリアス展開が序盤続きます

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

きみをください

すずかけあおい
BL
定食屋の店員の啓真はある日、常連のイケメン会社員に「きみをください」と注文されます。 『優しく執着』で書いてみようと思って書いた話です。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

処理中です...