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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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崖を駆け下り、山道を駆け、森の木々を越え、半刻もしない内に一行は東の小屋に着いた。
前にルースと一緒に西の崖を飛び降りた時以上に今夜のドライブはハードだった。太陽の目もお腹の中もグルグルしている。
「ぎもぢわるい…」
「俺も…」
「オエ」
空の激しいドライビングテクニックで、太陽と悪男とショーキが乗り物酔いの状態でダウンした。
「ゆっくり休め。セーヤを頼んだぞ」
「え?ソラどこに行くの?」
ルースの質問を無視して、空は小鳥の悪男を咥えて闇夜の森に消えて行った。
まさか…ワルオを餌にしないよな?ルースが不安そうに空を見送る横で、太陽が気分悪そうにしゃがみ込んだ。
「大丈夫かい?」
仕方なく横抱きにして、ルースは太陽を小屋に運び込んだ。
◇◇◇
太陽をベッドに寝かせて、ルースは暖炉に火を起こした。
この小屋は東の森の様子を見る時に、いつも宿泊していた場所だ。だから勝手は分かってる。でも、太陽と過ごした記憶は残念ながら無かった。
部屋が温まって来たのを確認して、さあこの後どうしようかと考える。
もう夜も遅いが、気づけば朝から何も食事をしていない。ルースはまだしも、太陽は人間だ。何か食べさせた方がいいだろう。
鞄から出した食材や道具をテーブルに広げて、体調が悪くても飲めそうなスープを準備した。ベッドの方を振り返ると、横になった太陽がぼんやりコチラを見ていた。
「セーヤ体調はどう?」
「…夢じゃない。ルースさんだ」
「へ?」
意味不明な事を言って太陽は泣き出した。慌てて駆け寄る。思ったより具合が悪いのかもしれない。
「どこか痛いの?」
「ぐす。違います。もう2度とこの小屋にルースさんと来れないかと思ってたから」
セーヤにとってこの小屋はとても大事な意味を持ってるんだと、改めて気づかされた。
何だか胸がチクリとした。
「…僕はココにいるよ。簡単なスープを準備したから飲む?」
「ルースさんのスープ。嬉しい。飲みたいです」
コップに入れたスープをベッドまで持って来て太陽に渡す。そのまま邪魔にならない様にベッドの端に座った。
「…美味しいです」
スープを飲んで、目の前の少年が幸せそうに笑った。温かい物を飲んで、頬も血色良く赤らんでいる。
「君は…」
「はい?」
本当に今の僕が好きなの?
それとも僕を通して昔の恋人を見てるの?
「…何でもない」
馬鹿な質問だ。きっと太陽はどっちのルースもルースだと言うだろうに。でも、この胸にある何か刺さった様な痛みはきっと嫉妬だ。
僕は多分、昔の僕に嫉妬してるのだろう。
「それより、もし良かったらココでどんな風に過ごしたか教えてくれる?」
「はい、初めて過ごしたのは俺がこの世界に来た時で…」
驚く事にセーヤは違う世界から連れて来られたという事だった。そして瘴気にまみれたこの森に1人投げ出され、魔獣に襲われたらしい。
「そう、大変だったね」
ルースの言葉に太陽が吹き出して、おかしそうに笑ってる。
「何かおかしかった?」
「ルースさん、前も同じ事言ってましたよ。やっぱり記憶が無くても、反応は同じなんですね」
「それは、まあ、同一人物だろうから」
クスクスと笑う太陽は、焚き火の仄かな灯りに照らされて、とても儚くて綺麗だった。いつもの輝く様な金の髪も瞳も、今は柔らかな光を放っている。
自然と、そうするのが当たり前の様に、気づけばルースは太陽に口付けていた。
触れた唇が離れると同時に、視線が絡む。
いつもより優しい色をした瞳が潤んでいた。まるでルースを誘う様に。
太陽が持っていたコップを取り床の上に置いて、ルースはベッドの上に太陽を押し倒した。
「ルースさん」
太陽がルースの首に両腕を回してきた。それに応える様に、ルースは太陽を抱きしめ再び口付けた。
前にルースと一緒に西の崖を飛び降りた時以上に今夜のドライブはハードだった。太陽の目もお腹の中もグルグルしている。
「ぎもぢわるい…」
「俺も…」
「オエ」
空の激しいドライビングテクニックで、太陽と悪男とショーキが乗り物酔いの状態でダウンした。
「ゆっくり休め。セーヤを頼んだぞ」
「え?ソラどこに行くの?」
ルースの質問を無視して、空は小鳥の悪男を咥えて闇夜の森に消えて行った。
まさか…ワルオを餌にしないよな?ルースが不安そうに空を見送る横で、太陽が気分悪そうにしゃがみ込んだ。
「大丈夫かい?」
仕方なく横抱きにして、ルースは太陽を小屋に運び込んだ。
◇◇◇
太陽をベッドに寝かせて、ルースは暖炉に火を起こした。
この小屋は東の森の様子を見る時に、いつも宿泊していた場所だ。だから勝手は分かってる。でも、太陽と過ごした記憶は残念ながら無かった。
部屋が温まって来たのを確認して、さあこの後どうしようかと考える。
もう夜も遅いが、気づけば朝から何も食事をしていない。ルースはまだしも、太陽は人間だ。何か食べさせた方がいいだろう。
鞄から出した食材や道具をテーブルに広げて、体調が悪くても飲めそうなスープを準備した。ベッドの方を振り返ると、横になった太陽がぼんやりコチラを見ていた。
「セーヤ体調はどう?」
「…夢じゃない。ルースさんだ」
「へ?」
意味不明な事を言って太陽は泣き出した。慌てて駆け寄る。思ったより具合が悪いのかもしれない。
「どこか痛いの?」
「ぐす。違います。もう2度とこの小屋にルースさんと来れないかと思ってたから」
セーヤにとってこの小屋はとても大事な意味を持ってるんだと、改めて気づかされた。
何だか胸がチクリとした。
「…僕はココにいるよ。簡単なスープを準備したから飲む?」
「ルースさんのスープ。嬉しい。飲みたいです」
コップに入れたスープをベッドまで持って来て太陽に渡す。そのまま邪魔にならない様にベッドの端に座った。
「…美味しいです」
スープを飲んで、目の前の少年が幸せそうに笑った。温かい物を飲んで、頬も血色良く赤らんでいる。
「君は…」
「はい?」
本当に今の僕が好きなの?
それとも僕を通して昔の恋人を見てるの?
「…何でもない」
馬鹿な質問だ。きっと太陽はどっちのルースもルースだと言うだろうに。でも、この胸にある何か刺さった様な痛みはきっと嫉妬だ。
僕は多分、昔の僕に嫉妬してるのだろう。
「それより、もし良かったらココでどんな風に過ごしたか教えてくれる?」
「はい、初めて過ごしたのは俺がこの世界に来た時で…」
驚く事にセーヤは違う世界から連れて来られたという事だった。そして瘴気にまみれたこの森に1人投げ出され、魔獣に襲われたらしい。
「そう、大変だったね」
ルースの言葉に太陽が吹き出して、おかしそうに笑ってる。
「何かおかしかった?」
「ルースさん、前も同じ事言ってましたよ。やっぱり記憶が無くても、反応は同じなんですね」
「それは、まあ、同一人物だろうから」
クスクスと笑う太陽は、焚き火の仄かな灯りに照らされて、とても儚くて綺麗だった。いつもの輝く様な金の髪も瞳も、今は柔らかな光を放っている。
自然と、そうするのが当たり前の様に、気づけばルースは太陽に口付けていた。
触れた唇が離れると同時に、視線が絡む。
いつもより優しい色をした瞳が潤んでいた。まるでルースを誘う様に。
太陽が持っていたコップを取り床の上に置いて、ルースはベッドの上に太陽を押し倒した。
「ルースさん」
太陽がルースの首に両腕を回してきた。それに応える様に、ルースは太陽を抱きしめ再び口付けた。
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