【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 扉を開けると中は普通の広間だった。
 
 大きな椅子やデーブル置かれていて、客人を迎える部屋に見える。

 その部屋の奥に黒いローブを羽織った人物がいた。こちら側に背を向けているので顔は見えないが、その服装と背の高さから魔王だと分かった。

 全員が瞬時に臨戦体制に入った。
 太陽も指輪から弓を取り出し構えながら叫んだ。

「ルースさんはどこだ!」

 その声に黒いローブの人物がこちらを振り返った。その顔に太陽は驚愕する。

「え?勇者!?」
「やっと来ましたか。待ちくたびれましたよ」

 黒いローブを羽織っていたのは右目に黒い眼帯をし、金色の左眼を持った光の勇者だった。

 被っていたフード部分を下ろすとサラサラの美しい金髪が現れた。魔王の漆黒の髪とは似ても似つかない。

 初めて見る光の勇者に、太陽に同行していたエルフ、銀狼、鳥族もザワザワと動揺した。

 太陽の存在だけでも奇跡なのに、もう1人の伝説が現れたのだ。しかも敵の本拠地で。

 2人の邪魔はしない様に言葉は控えているが、皆分かりやすく困惑していた。

「え?あの、魔王は?」
「あとで顔を出します。まずは先に私から話したかったので」
「ええ~!?」

 何その、ちょっとアイツ遅れてくるからみたいなノリ。緊張感が一気に解けた。思わず、はぁーとため息を吐く太陽の側で、空はまだ臨戦体制のままだった。

「お前が…光の勇者?オレの知ってる勇者とは別人の様だが」
「空…」

 空の言葉に、太陽は思わず空と勇者を交互に見返した。

「空、でも俺をこっちの世界に連れて来たのも、夢に出て来たのもこの人だよ」
「だが…金の力は人間にしか発現しない筈なのに、目の前の男からは人の匂いがしない」
「え?」

 空の言葉にドキリとする。

 空の嗅覚は確かだ。空がそう言うなら、きっと目の前の男は人間じゃない。なら、ずっと太陽が光の勇者だと思っていたこの男は?

 空の言葉を受けて、他のメンバーも再び武器を構えた。

「まずは見せた方が早いですね。ついてきてください。貴方の友人も隣の部屋で寝ています」

 勇者が部屋の横側に設置された扉に向かって歩き出した。

 頑丈な扉でとても普通の部屋への入り口には見えない。どちらかといえば何が大事な物を保管する金庫の扉みたいな…。

 魔法なのか、男が人差し指を振るとキラキラした金の光が舞った。扉が自動で開く。

「ここは大事な部屋なので入れるのはそちらの聖女と従属だけに限ります」
「何だと!?」

 太陽の側に控えていたメンバーから非難の声が上がった。

「セーヤ様。信用出来ないなら入るのは危険です!」

 すごく最もな意見だった。

 でもルースが関わるなら、行かないという選択肢は太陽には無かった。

「大丈夫です。彼とは何度か接触もあります。それにルースさんが中にいるなら、絶対に助けないと」
「……っ」

 ルースの名を聞いてエルフ達が口を閉じた。彼はエルフ族の誇り。彼らにとってもルースを助けないという選択肢は無い。

「…お気をつけて。ルース様をよろしくお願いします」

 絞り出す様に紡がれたエルフの言葉に、太陽はしっかりと頷いた。




 中は氷の洞窟の様な場所だった。

 全面が氷になっていて、城の中よりかなり気温が低かった。

 ここは何なんだろう?

 周囲を見回すと、氷の壁の中に見知った人影を見つけた。

「ルースさん!?」

 氷の壁に埋められていたのは、間違いなくルースその人だった。その証拠に、右腕が肘から先が切断され無くなっていた。

「ルースさん、ルースさん…見つけた!」

 思わず声が震えた。でも、まだダメだ。泣くのは彼をちゃんと助けてから。

 氷に触れると冷たい感触が伝わって来た。何故彼はこんな冷たい中に閉じ込められてるんだろう。

「これ…何で氷の中に?ちゃんと生きてるの?」
「かろうじて…生きてます」

 勇者が太陽の側にやって来た。

「ここは白の魔法を施した部屋なんです。氷に閉じ込める事で彼らの時を止めている」
「時を止める…」
「そうです。貴方の仲間も死にかけていた。だからココで時を止めて生命を繋いだんです」

 死にかけていた。
 
 ではやはりあの時化け物の口から吹き出した血はルースの物だったのだ。

「…白の妖精王の時を操る能力か?」
「そうです」

 空の質問に勇者が頷く。空はそういう魔法がある事を知っていたらしい。それならきっと生命を繋ぐ為にココに閉じ込めたというのも嘘ではないだろう。

 でも、何故魔王はわざわざルースを生かしたのか?だってあの時、明らかに魔王はルースを…。

「魔王は…ルースさんを殺そうとしたのに、何で今度は助けたんですか?」

 当然の太陽の疑問に、勇者はジッと太陽を見つめた。

「それは本当に魔王でしたか?」
「え?」
「貴方の仲間を傷つけたのは、本当に貴方が以前会った魔王でしたか?」

 勇者の言葉に、その時の光景を思い浮かべる。

「それは…魔王に似た影の化け物で。全身黒くて角もあったから、魔王だって思ったけど…」
「それで?」
「化け物がルースさんを食べた後、本物の魔王が現れて…それで炎で倒そうと…」
「あのまま金の炎で化け物を殺してたら、彼ごと燃やし殺したかもしれませんよ」
「っ!?」

 ドキリとした。太陽自身も炎を放った時は怒りで我を忘れていた。ルース以外を燃やすなんて芸当が出来たとは思えない。

 ふむ、と空が唸った。

「もし…そいつの言う事が本当なら。あの時オレ達が見た魔王の行動の意味が違ってくるな」
「そう…だね」

 空の言葉に太陽も同意した。

 始めに現れた北の魔獣と化け物は間違い無く、太陽やルースを害しようした。

 でも少なくとも魔王自身は、ルースを助けた事になる。
 
 何が起きてるのか正直よくわからなかった。北の魔獣と黒の化け物なら魔王の手下の筈なのに。魔王の事を知れば知るほど困惑する事ばかりだ。

「ところで、お前が勇者だと証明する件はどうした」

 獣姿のまま空がジッと勇者を見上げた。
 勇者がフッと笑う。

「あなたが知っている勇者とは…足元の姿ですか?」

 目の前の男の言葉に、太陽と空は足元の氷の床に視線を向けた。床下の氷の奥深くに、一組の男女が横たわっていた。

 男は金色の巻き髪をした優しい顔立ちで、西の館で会った勇者の末裔を名乗ったアキエスに雰囲気がよく似ていた。豪華な鎧を身に着けていた。

 女は茶色の長い髪を一つ結びにして、肩から前に流している。こちらは美しくも機能的な騎士らしい鎧を身に着けている。

「ラリエス!キャス!」

 空が2人の名前らしき物を叫んだ。

「空、この人達を知ってるの?」
「共に王女の護衛をしていた仲間だ。男が勇者に選ばれたラリエス。女は王女と共に姿をくらましたキャスだ」
「え?じゃあ、今俺たちが会ってるのは…」

 太陽が緊張しながら身構えた。

 ずっと目の前の彼を勇者だと思って話していたのに。床の氷の下に金色の髪をした青年が眠っている。空は彼こそ勇者だと言う。太陽は困惑した。

 目の前の勇者が愉快そうに笑った。

「フフッ。全然気づかないんですね、犬っころ」
「なに?」
「あと人の恋人を勝手に愛称で呼ぶなと散々言いましたよね。さすがの聖獣も老いぼれて忘れましたか?」

 その言葉で珍しく空が叫んだ。

「その口の悪さ…お前ラリエスか!?」
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