【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 太陽の話が終わると、すぐに隊列の編成に移った。

 砂漠を越える為、鳥族にエルフと銀狼を1名ずつ乗せてもらい、3名1組の隊列を組んで北に向かう事になった。

 今回、人間は戦力にならないので連れて行く事は出来ないが、皆口々に魔王や瘴気に挑むメンバーに感謝や激励を伝えていた。

 皮肉な事に、魔王や瘴気によって引き裂かれた絆は、今再び魔王や瘴気によってより強固な物になっていた。



「私達が出来るのはここまでだ。セーヤ君気をつけて。ルースの事を頼んだよ」
「はい、絶対ルースさんを助けます。待っていてください」

 ベイティと握手を交わして、太陽は鳥に変化した悪男の背に空と共に乗り込んだ。

 ガソルと鳥の長、アキエスも気をつけて、と手を振ってくれた。長達は各地の安全を守る責任がある。共に北へ乗り込む危険は冒せないからココでお別れだ。

「行って来ます!」

 太陽を乗せて、赤と臙脂色の鳥は大空高く舞い上がった。



◇◇◇



 眼下に広がるのは、前回も通った砂漠の海。鳥族の長が瘴気を祓い結界を張った為もうあんなグロテスクな化け物は出て来ない。

 こうやって見ると、遥か彼方まで続く砂漠も見応えがある。快適な旅だった。

「そろそろ着くぞ!」
「キタへキタ!」

 悪男とショーキの声に、前を見ればもう目の前は北の領土だった。雪と氷に包まれた世界。こういうのを一面雪景色と言うのだろうと思った。

 北に入ると、一気に気温が下がり口から白い息が漏れた。出発する前にベイティから貰った防寒服を着込み、防寒ブーツに履き替えた。

 幸い雪は降っていなかった。

「何か来る!」
「テキ!」

 雪景色の中、黒い妖精達がこちらに飛んでくるのが見えた。

「気を入れて弓矢で射て!」

 空の言葉にエルフ達が矢を放つ。緑と黄の光を纏いながら、黒い妖精達を撃ち抜いた。

 妖精達が黒い水の様な者を投げつけて来たが、鳥達は巧みに躱していく。元々上空では鳥族が有利なのだろう。低空飛行しか出来ない妖精達の攻撃が、太陽達に当たる事は無かった。

「目標は魔王の城だ!後追いはするな!」

 空の指示に従い、倒せる範囲での敵を片付けて一向は速度を落とす事なく進む。

「思ったより瘴気が凄いな」

 空が顔をしかめた。

 初めの東の森や西の渓谷とは比べ物にならない程の空気の濁りを感じた。気のせいか、身体が重くなる様な、気分が滅入る様な、変な感じだ。

「空。普段は俺あまり瘴気がキツイとは思わないけど、何だかココは変な感じがする」
「セーヤでもか。俺やワルオはお前の従属だからまだマシだが、他の奴らは数倍キツイ筈だ」
「そんな…」

 こんな具合の悪くなる空気。長時間の滞在はきっと危険だ。

 早くルースさんを助けないと。

 焦りから太陽は拳を握り締めた。



 真っ白なキャンバスの様に何も無かった眼下に、黒いシミの様な物がポツポツ現れ始めた。

 少しずつ数が増えていく。

 中央の地で初めに太陽達を襲って来たけむくじゃらの魔獣達だった。太陽達の後を追って走って来ている。上空にいる間は問題ないが、これでは地に降りた時に一斉に襲われそうだ。

「エルフの弓矢に風の気をこめろ!吹き飛ばせ!」

 空の指示に従ってエルフ達が矢を放ち、銀狼達が風の聖気を込めた。青と銀の光を纏った矢が、一斉に魔獣に撃ち込まれた。

 けたたましい音と共に多くの魔獣が吹き飛んだ。ルースと空の合わせ技程の威力は無いが、多くの矢が放たれた事ですごい威力を発揮した。

「おかしいな」

 空がその様子を見て呟いた。

「何が?」
「手応えが無さすぎる」
「手応え?」
「中央で俺達を襲って来た時はもっと俺達を追い詰める様な動きをしていた筈だ」

 空の言葉に否応なくあの時の事を思い出した。

 西に向かおうとした太陽達を邪魔して南下させたり、黒い妖精でルースを追い詰めたり。認めたくは無いが、確かに今よりは知性や作戦を感じさせる動きだった。

 それに比べると今は、闇雲にとりあえず攻撃している様にも見える。

「セーヤ!あれ!」
「クロイのまたデタ!」

 悪男とショーキが叫ぶ。

 倒された筈の黒い魔獣達から黒いモヤが上がる。それらがグルグル宙で集まり出した。

「魔王か?アレはマズいな。他のヤツらでは歯がたたん」

 空が後方に合図を出してから、悪男に指示を出した。

 悪男が大きく上に旋回して、後方部隊を先に行かせた。そのまま悪男を追い抜かした部隊も途中で横に旋回して再び悪男の背後についた。倒して追い抜かした毛むくじゃらに対して悪男が正面で向かい合う形を取ったのだ。

 前回と同様の現象なら、きっとアレは最強最悪の姿を型どる筈だからー。

 太陽達の予想通り、渦巻いていた黒いモヤは背の高い人型になった。両方の側頭部かれ生える歪な角。真っ赤で吊り上がった両眼。

 全身は黒いシルエットで塗り潰されている、あの時ルースを喰った化け物で間違い無かった。

 ゆらり、魔王とそっくりな姿になった化け物ら太陽を見ると笑う様に口元をパッカリ開けた。異常に大きい口に、太く鋭い歯が並んでいる。

 ルースの身体を傷つけ、腕を噛みちぎった歯を見た瞬間。沸々と腹から怒りが込み上げて来た。

 身体の奥から異常な力が湧き上がって来たのが自分でも分かった。

 魔王への怒りが金の力を目覚めさせるなら、きっとその力も増幅させるに違いない。だってほら、身体から抑えきれない熱が身体から溢れて来る。

 太陽自身は気づいていなかったが、化け物への怒りに意識が染まった太陽は、全身を炎の様に揺らぐ金色の光に包まれていた。

 悪男の後方で待機していた援軍が、初めて見るその姿に息を飲み、見入っている。

 そんな中、太陽は指輪から出した弓に指を番え、そこにあの化け物への怒りを込めた。弓に金の光で出来た矢が現れた。

 それを強く限界まで引き、目の前の化け物へ放った。

 金の矢が大きな金色の炎を纏い、化け物へ向かっていく。矢の跡には金の粒が残滓の様にきらめいた。

 ザシュッ

 矢は見事に化け物を貫いた。避ける事なく、身体に大きな穴が空き、そのまま横に倒れていく。静かに倒れ行く化け物はまるで笑っている様だった。

 そしてー。

 ガシャーン!

 何か硬い物が砕ける様な音がした。

 化け物の後方。真っ白い色しか無かった空間に、信じられない事に亀裂が走っていた。そこから鏡やガラスの様に、少しずつ空間の欠片が砕けていく。

 そして全ての欠片が砕けた時。

 今まで何も無かった筈のソコに、雪と氷で覆われた美しい城が聳えていたー。
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