【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第五章 果てなき旅路より戻りし者

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 身体は鉛の様に重かった。意識は沈んで、自分は今寝ている筈なのに、まるで映画でも見ている様だった。

 流れて来る光景をただ眺めていた。



◇◇◇
 


 カツカツカツカツ

 広い宮殿を早歩きで歩いていた。胸を占めるのは怒りと憤り。

「姫!お待ちください!」

 背後から護衛の女騎士が追って来た。

「一体どちらへ行くのです!?」
「決まってるわ。乗り込むのよ、北に」
「危険です!ならばせめてラリエスに声をかけるべきです。彼は勇者なのですから」

 彼は勇者。その言葉に王女は足を止めて振り返った。

「キャス。貴女も聖女と勇者は結ばれべきだと言うつもり?」
「…それは。それが女神の意向ならそうするべきかと…」
「どうして?ラリエスは貴女の恋人でしょう?それに私だって自分の恋人は自分で選びたいわ」
「ラリエスは!人族最強で!親切でカッコいいし最高の男です!姫様は何が不満なんですか?」
「不満だらけよ!あのタレ目、口は悪いし、性格は悪いし、腹黒だし!むしろどこがいいのよ!?」

 キャスは男性顔負けの剣の腕に、実直な性格で信頼も出来る頼もしい存在だが、どうも恋愛に関しては見る目が無い。
 
 王女は勇者末裔の子孫のラリエスとは、昔から幼馴染で育って来た。だからあの一見丁寧な口調は、元来の口と性格の悪さをカモフラージュする為だと王女は知っている。

「私一人で行くからついて来ないで!」

 ピィー!

 行儀悪くも口笛を吹くと、護衛の西の鳥族が、窓の向こうから顔を出した。

「姫様!呼んだか?」
「私を攫って!早く!」
「ええー!?いきなり何ですか!わー飛び降りないで!」
「行くなら私も行きます!ふん!」
「わーキャスまで!何なんだよ!」

 この後、無理矢理、護衛の鳥族に自分を攫わせた王女は、同じ様に無理矢理しがみついて来たキャスと共に北の魔王の元に向かったのだった。



◇◇◇



「何て美しいのかしら!」

 辿り着いた北の城は大変美しい場所だった。

 陽の光を受け、キラキラ光る氷の結晶。城内を自由に出入りする白い妖精達は歌を歌い、そこら中を飛んでいる。

 王女と護衛のキャスは暫し目的を忘れて、その美しさに見惚れた。運んでくれた鳥族には、ココに来た事は秘密にする様に厳命して王城へ帰した。

 こんな美しい場所を魔王は穢そうとしてるなんて許せない!

 改めて王女はまだ見ぬ魔王に憤慨した。

 この世界で光の女神を唯一神として崇拝する教会の教皇から、瘴気発生を告げられたのは今日の早朝だった。

 瘴気が発生すると、この世界は穢れで闇に染まってしまう。だから原因である魔王を封印せねばならない。

 それを聞いた時、憎むべき魔王をどうにかしなければ、とそう思った。その瞬間、彼女の目と髪は金色に変化した。

 そして、近くで護衛の1人として控えていたラリエスの目と髪も金色に変化した。

 教皇や周囲の者達は歓喜した。光の王女と勇者が現れたと。そして、魔王を封印したら早速2人の婚礼を挙げましょうと。

 あの時の絶望といったら。

 王女だけでなく、ラリエスの方だって「何でコイツと!」て顔をしていた。

 ラリエスはキャスにメロメロだし。

 私だって、出来れば、師匠の様なカッコよくて強くて、普段穏やかな人と添い遂げたい!

 だから城を飛び出した。自分1人で魔王封印を成し遂げて、その後は城には戻らず好きに生きる為に。キャスがついて来たのは予想外だったけど!

「何故そなただけ?勇者はどうした?」

 不意に声がして振り返ると、白く長い髪に、白いフワフワのローブ姿。そして淡い水色の瞳をした男が立っていた。

「白の妖精王様!」

 前に一度王城で会った事がある妖精王だった。相変わらず美しい顔をしているが、何を考えているかわからない無表情だ。

「魔王はどこですか!封印しに来ました!」
「…そなた1人でか?」
「はい!チャチャっと封印して、私はそのまま旅に出るのです!」
「姫様!それはなりません!」
「むー。キャスは口うるさいから次は置いてくわ」
「姫様!」

 2人のやりとりで、だいたいの事情を察した白の妖精王は深い深い溜息を吐いた。
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