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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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空は目の前の勇者をラリエスと呼んだ。
それは今、足元の氷の下で眠る金髪の青年の名前と同一だった。
ますます意味がわからず、相変わらず太陽は困惑した。頭の上の小鳥も「意味わかんね」と呟いている。
空と勇者ラリエスの会話は続く。
「どういう事だ?お前は王女とキャスを追って北に乗り込んで、魔王に殺されたと聞いたが…」
「殺された様に見せかけたんですよ。あのイカれクソ女にバレない様にする為に」
イカれクソ女…。誰の事かは知らないが酷い言い草だ。空が口の悪さで以前の仲間だと気づいたのも納得だ。
「誰の事だ?」
「今回の騒動の原因ですよ」
勇者の言葉はのらりくらりとしていて、要領を得ない。
「何故、お前の身体はココに埋まってる?」
「全てを解決してキャスと共に生きる為です。この問題が解決しない限り、私はキャスと共に生きられないですから」
「じゃあ…原因というのは」
太陽にはサッパリな会話も、空はラリエスの言いたい事が分かった様だ。
「じゃあ、お前が今使っているその身体は…」
「ふふ、貴方も知ってる奴ですよ」
ラリエスがニヤリと笑った。そして、そろそろ時間ですね、と続けた。
「後は奴と話してください」
「おい、待て!どこに行くんだ?」
「どこにも行きません。ただ交代するだけです。あぁ、そうだ」
ラリエスが太陽に視線を向けた。
「という事で、私には恋人がいますから、貴方が心配する様な事はありません。ご安心を」
「え?あ、うっ」
いつか夢の中で、太陽が勇者と愛し合わないといけないのかと聞いた件だと気づく。
そうだ。今まですっかり忘れていたけど。今目の前にいるのは、太陽にとってのファーストキスの相手だ。
「じゃ、じゃあ、初めて会った時、何で!」
「口づけた事ですか?貴方の中の金の力を目覚めさせる為です」
言いながら、ラリエスは自分の右眼の眼帯を外した。
隠されていた右眼が現れる。
瞼を開くとその目は深い闇色だった。
「黒?何で…」
「では、また後ほど」
太陽の質問に答える事なく、外した眼帯で今度は金色の左眼を隠した。
瞬間、それまで金髪だった美しい髪は漆黒に染まり、右の側頭部にはあの禍々しい角が現れた。
「魔王…!」
勇者に代わって現れたのは、あの渦中の魔王本人だった。
空が一瞬で人型に変わり太陽を背に庇った。
「そんな、勇者と魔王が同一人物だったなんて!」
「ラリエスの魂を取り込んだか!」
一触即発。
そう思った時、太陽の頭から赤い小鳥が飛び出した。
パタパタと部屋を旋回して、魔王の頭に止まった。
「マオーさまショーキとオソロイ!」
「……」
「……」
「……」
誰も口を開かない。
氷の部屋を微妙な沈黙が包んだ。
その内、ピィピィとショーキが楽しそうに歌い出した。
いたたまれない空気の中、本当に仕方が無く、という感じで、悪男がショーキにツッコミを入れた。
「いちおう聞くけど…何がお揃いなんだよ」
「ショーキ右!マオーさまも右!」
「ん?」
「なかよく半分コ」
「んー?それってお揃い…なのか?」
悪男とショーキのやり取りに、魔王がフッと笑った。
わ、笑った!あの魔王を笑わせた!ショーキすごい!ショーキの偉大さを太陽は知った。
「興が削がれたな。続きは隣の部屋でしよう」
「あ、あのその前に!」
魔王が足を止めて振り返る。
「あの、ルースさんを助けてくれて、ありがとうございました」
「気にするな。あの者は我にとっても古い友人の忘れ形見だ」
「まだ氷からは出せませんか?」
「出してもいいが、また狙われるぞ?」
「え?」
「お前の大切な者を、我が害した様に見せかけて、狙う奴がいる。気づかんか?」
心当たりがあった。
正確には、これまでの出来事と聞いた話を繋ぎ合わせて、浮かび上がってくる人物がいる。
会った事は無い。実在するかもわからない。
それでもこれだけは言える。そいつは絶対性格が悪い。
「…何となく心当たりがあります。わかりました。先に話からしましょう」
ーー
次話より通常更新の月・木・土曜更新に戻ります。
それは今、足元の氷の下で眠る金髪の青年の名前と同一だった。
ますます意味がわからず、相変わらず太陽は困惑した。頭の上の小鳥も「意味わかんね」と呟いている。
空と勇者ラリエスの会話は続く。
「どういう事だ?お前は王女とキャスを追って北に乗り込んで、魔王に殺されたと聞いたが…」
「殺された様に見せかけたんですよ。あのイカれクソ女にバレない様にする為に」
イカれクソ女…。誰の事かは知らないが酷い言い草だ。空が口の悪さで以前の仲間だと気づいたのも納得だ。
「誰の事だ?」
「今回の騒動の原因ですよ」
勇者の言葉はのらりくらりとしていて、要領を得ない。
「何故、お前の身体はココに埋まってる?」
「全てを解決してキャスと共に生きる為です。この問題が解決しない限り、私はキャスと共に生きられないですから」
「じゃあ…原因というのは」
太陽にはサッパリな会話も、空はラリエスの言いたい事が分かった様だ。
「じゃあ、お前が今使っているその身体は…」
「ふふ、貴方も知ってる奴ですよ」
ラリエスがニヤリと笑った。そして、そろそろ時間ですね、と続けた。
「後は奴と話してください」
「おい、待て!どこに行くんだ?」
「どこにも行きません。ただ交代するだけです。あぁ、そうだ」
ラリエスが太陽に視線を向けた。
「という事で、私には恋人がいますから、貴方が心配する様な事はありません。ご安心を」
「え?あ、うっ」
いつか夢の中で、太陽が勇者と愛し合わないといけないのかと聞いた件だと気づく。
そうだ。今まですっかり忘れていたけど。今目の前にいるのは、太陽にとってのファーストキスの相手だ。
「じゃ、じゃあ、初めて会った時、何で!」
「口づけた事ですか?貴方の中の金の力を目覚めさせる為です」
言いながら、ラリエスは自分の右眼の眼帯を外した。
隠されていた右眼が現れる。
瞼を開くとその目は深い闇色だった。
「黒?何で…」
「では、また後ほど」
太陽の質問に答える事なく、外した眼帯で今度は金色の左眼を隠した。
瞬間、それまで金髪だった美しい髪は漆黒に染まり、右の側頭部にはあの禍々しい角が現れた。
「魔王…!」
勇者に代わって現れたのは、あの渦中の魔王本人だった。
空が一瞬で人型に変わり太陽を背に庇った。
「そんな、勇者と魔王が同一人物だったなんて!」
「ラリエスの魂を取り込んだか!」
一触即発。
そう思った時、太陽の頭から赤い小鳥が飛び出した。
パタパタと部屋を旋回して、魔王の頭に止まった。
「マオーさまショーキとオソロイ!」
「……」
「……」
「……」
誰も口を開かない。
氷の部屋を微妙な沈黙が包んだ。
その内、ピィピィとショーキが楽しそうに歌い出した。
いたたまれない空気の中、本当に仕方が無く、という感じで、悪男がショーキにツッコミを入れた。
「いちおう聞くけど…何がお揃いなんだよ」
「ショーキ右!マオーさまも右!」
「ん?」
「なかよく半分コ」
「んー?それってお揃い…なのか?」
悪男とショーキのやり取りに、魔王がフッと笑った。
わ、笑った!あの魔王を笑わせた!ショーキすごい!ショーキの偉大さを太陽は知った。
「興が削がれたな。続きは隣の部屋でしよう」
「あ、あのその前に!」
魔王が足を止めて振り返る。
「あの、ルースさんを助けてくれて、ありがとうございました」
「気にするな。あの者は我にとっても古い友人の忘れ形見だ」
「まだ氷からは出せませんか?」
「出してもいいが、また狙われるぞ?」
「え?」
「お前の大切な者を、我が害した様に見せかけて、狙う奴がいる。気づかんか?」
心当たりがあった。
正確には、これまでの出来事と聞いた話を繋ぎ合わせて、浮かび上がってくる人物がいる。
会った事は無い。実在するかもわからない。
それでもこれだけは言える。そいつは絶対性格が悪い。
「…何となく心当たりがあります。わかりました。先に話からしましょう」
ーー
次話より通常更新の月・木・土曜更新に戻ります。
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