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第四章 誰がために、その金は甦るのか
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太陽が目を覚ますと、辺りは赤い色合いの建物だった。見た事がある、とぼんやり辺りを見回す。
自分が横たわる柔らかい感触が藁である事に気づいて、西の鳥族の館だとわかった。
西に帰って来たんだ…。
藁から身を起こすと、側に獣姿の空と人型の悪男が藁に寄り添う様に寝ていた。太陽が起きた気配に、空がピクピクと耳を動かして目を開けた。
「セーヤ、起きたのか」
「うん、いつの間にか戻って来てたんだね」
「ん…セーヤ起きたんだな」
太陽の声に、悪男も左目を覚ました。右目は閉じたままなので、ショーキはまだ夢の中だ。
部屋が騒がしい。見ると数人の鳥族達が慌ただしく外に出て行くのが見えた。
「お腹空いてないか?肉でも食うか?」
空の言葉に太陽が首を振った。お腹は空いてないが、空の言葉でそういえば、と思った事があった。
「そういえばさ、東の小屋で、ルースさんがとっても美味い肉料理作ってくれたんだ。俺こっちの世界であんなに美味い料理初めて食べたよ。作り方教わったら、2人にも作ってやるからな」
「……」
空と悪男が顔を強張らせて無言になった。
「どうしたんだ?」
「セーヤ、ルースは…」
珍しく空が何か言いにくそうに、言い淀んでいる。
どうしたんだろ?そういえばルースさんの姿が見えない。キョロキョロと部屋を見回す。昨日一緒に東の森から西に向かって歩いて、中央の荒れた場所へ入って以降の記憶が無かった。
その時、部屋に鳥の長が入って来た。
「セーヤ。目が覚めたかい」
「長!」
長は太陽の側に来ると、藁の外から太陽を抱きしめた。
「身体は大丈夫かい?まだ慣れてないのに、目覚めてから一気に力を放ったんだろう?」
「能力?」
長の言ってる事がよくわからなかった。でもとりあえず身体は問題が無かったから、それよりも気になっていた事を尋ねる。
「それより、長の誤解は解けたんですよね?」
「誤解?」
「はい。俺がルースさんに魅了で洗脳されてるって思ってたやつです」
「っ!あれは…申し訳無かったね。ちゃんとアンタらは愛し合ってた。ルースにも本当に悪い事をしたよ…」
長が辛そうに顔を伏せた。それに対して、誤解が解けたなら別にいいです、と太陽は笑った。
「よかった。俺長の事も好きなので、やっぱり反対より祝福されたいから。認めてもらえて良かったです」
「…セーヤ?あんた…」
長が今度は蒼白になった。その後ろから、東の長のガソルと南の長のベイティがやって来た。
ガソルは跪き頭を垂れ、セーヤ様がご無事で良かったです、と述べた。
対してベイティはセーヤ君が無事で良かったと涙ぐんだ。
太陽はそんな2人を見て、何でここにこの人達がいるんだろう、と考える。
そういえば、ルースが西では今頃長たちを集めて会合を開いてる筈だと言っていたのを思い出した。
「魔王の事を話し合ったんですよね?それでどうするのかは決まったんですか?」
太陽の言葉に、ガソルとベイティが眉を顰めた。
「…セーヤ様こそ魔王をどうされたいんですか?」
「まだ俺に何が出来るかわからなくて。だから北に行ってから考えようと思います」
ガソルに返事をしながら、太陽が再びキョロキョロ辺りを見回した。誰かを探す様に。
「セーヤくん、どうしたの?」
「あ、ルースさんが見当たらないので…」
「……」
「すみません、大事な話してるのに」
太陽が照れた様に顔を伏せた。太陽の腕輪がほんのり緑色に光り、そこから細い光が何本も伸びてベイティに向かって伸びていく。それがベイティの指輪を嵌めた指に巻きついて実体化した。
「これは…」
「わぁ!すみません!」
慌てて太陽が藁から飛び出して、ベイティの指から蔦を外した。
「すみません!俺がルースさんの事を考えたから、でも何でベイティさんに絡んだんだろ…」
ベイティと空が言葉に詰まった。
ガソルと悪男は太陽の様子に愕然としている。
長は堪え切れずに、涙を零した。
「長?どうしたんですか?」
「セーヤ。ルースはもう…いないんだよ」
「え?」
長は何を言ってるんだろ?ルースさんが俺を置いてどこか行くわけ無いのに。
意味が分からず、空と悪男を見る。
2人とも苦しそうな表情を浮かべていた。
長が太陽の両肩に手を置いて、声を震わせながら尋ねた。
「魔王に…会ったんだろ?」
魔王。
長の言葉に、ある光景が蘇った。
だだっ広い荒野に、黒いローブと歪な角を生やした男。その魔王にそっくりなシルエットに白い牙。真っ赤な血だらけの口をした化け物。
そしてそこから、はみ出した腕。
「あ、あ、あ、」
そうだ。ルースはあの化け物にー。
頭を抱えて太陽は絶叫した。
ーーー
次話、第四章の最終話です。
自分が横たわる柔らかい感触が藁である事に気づいて、西の鳥族の館だとわかった。
西に帰って来たんだ…。
藁から身を起こすと、側に獣姿の空と人型の悪男が藁に寄り添う様に寝ていた。太陽が起きた気配に、空がピクピクと耳を動かして目を開けた。
「セーヤ、起きたのか」
「うん、いつの間にか戻って来てたんだね」
「ん…セーヤ起きたんだな」
太陽の声に、悪男も左目を覚ました。右目は閉じたままなので、ショーキはまだ夢の中だ。
部屋が騒がしい。見ると数人の鳥族達が慌ただしく外に出て行くのが見えた。
「お腹空いてないか?肉でも食うか?」
空の言葉に太陽が首を振った。お腹は空いてないが、空の言葉でそういえば、と思った事があった。
「そういえばさ、東の小屋で、ルースさんがとっても美味い肉料理作ってくれたんだ。俺こっちの世界であんなに美味い料理初めて食べたよ。作り方教わったら、2人にも作ってやるからな」
「……」
空と悪男が顔を強張らせて無言になった。
「どうしたんだ?」
「セーヤ、ルースは…」
珍しく空が何か言いにくそうに、言い淀んでいる。
どうしたんだろ?そういえばルースさんの姿が見えない。キョロキョロと部屋を見回す。昨日一緒に東の森から西に向かって歩いて、中央の荒れた場所へ入って以降の記憶が無かった。
その時、部屋に鳥の長が入って来た。
「セーヤ。目が覚めたかい」
「長!」
長は太陽の側に来ると、藁の外から太陽を抱きしめた。
「身体は大丈夫かい?まだ慣れてないのに、目覚めてから一気に力を放ったんだろう?」
「能力?」
長の言ってる事がよくわからなかった。でもとりあえず身体は問題が無かったから、それよりも気になっていた事を尋ねる。
「それより、長の誤解は解けたんですよね?」
「誤解?」
「はい。俺がルースさんに魅了で洗脳されてるって思ってたやつです」
「っ!あれは…申し訳無かったね。ちゃんとアンタらは愛し合ってた。ルースにも本当に悪い事をしたよ…」
長が辛そうに顔を伏せた。それに対して、誤解が解けたなら別にいいです、と太陽は笑った。
「よかった。俺長の事も好きなので、やっぱり反対より祝福されたいから。認めてもらえて良かったです」
「…セーヤ?あんた…」
長が今度は蒼白になった。その後ろから、東の長のガソルと南の長のベイティがやって来た。
ガソルは跪き頭を垂れ、セーヤ様がご無事で良かったです、と述べた。
対してベイティはセーヤ君が無事で良かったと涙ぐんだ。
太陽はそんな2人を見て、何でここにこの人達がいるんだろう、と考える。
そういえば、ルースが西では今頃長たちを集めて会合を開いてる筈だと言っていたのを思い出した。
「魔王の事を話し合ったんですよね?それでどうするのかは決まったんですか?」
太陽の言葉に、ガソルとベイティが眉を顰めた。
「…セーヤ様こそ魔王をどうされたいんですか?」
「まだ俺に何が出来るかわからなくて。だから北に行ってから考えようと思います」
ガソルに返事をしながら、太陽が再びキョロキョロ辺りを見回した。誰かを探す様に。
「セーヤくん、どうしたの?」
「あ、ルースさんが見当たらないので…」
「……」
「すみません、大事な話してるのに」
太陽が照れた様に顔を伏せた。太陽の腕輪がほんのり緑色に光り、そこから細い光が何本も伸びてベイティに向かって伸びていく。それがベイティの指輪を嵌めた指に巻きついて実体化した。
「これは…」
「わぁ!すみません!」
慌てて太陽が藁から飛び出して、ベイティの指から蔦を外した。
「すみません!俺がルースさんの事を考えたから、でも何でベイティさんに絡んだんだろ…」
ベイティと空が言葉に詰まった。
ガソルと悪男は太陽の様子に愕然としている。
長は堪え切れずに、涙を零した。
「長?どうしたんですか?」
「セーヤ。ルースはもう…いないんだよ」
「え?」
長は何を言ってるんだろ?ルースさんが俺を置いてどこか行くわけ無いのに。
意味が分からず、空と悪男を見る。
2人とも苦しそうな表情を浮かべていた。
長が太陽の両肩に手を置いて、声を震わせながら尋ねた。
「魔王に…会ったんだろ?」
魔王。
長の言葉に、ある光景が蘇った。
だだっ広い荒野に、黒いローブと歪な角を生やした男。その魔王にそっくりなシルエットに白い牙。真っ赤な血だらけの口をした化け物。
そしてそこから、はみ出した腕。
「あ、あ、あ、」
そうだ。ルースはあの化け物にー。
頭を抱えて太陽は絶叫した。
ーーー
次話、第四章の最終話です。
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