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第四章 誰がために、その金は甦るのか

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 ルースに抱えられながら後方を見ると、大きな真っ黒い毛むくじゃらの生き物が集団で追って来ていた。大きいモップみたいな体にギョロリと2つの目がついていて濁った目をしていた。

「あれ、闇堕ちの…」
「北の山に生息する生き物だ!何故ここまで?」

 太陽を抱えて走りながら、ルースが周囲を見回す。

 ここは大きな建物も崖なども無い、ただ広い荒野だ。せっかくのルースの技を使えない。

 元々エルフ族は後方支援が得意な種族。大量の魔獣に囲まれては不利だ。

 どうする?

 太陽を抱えて走りながら、ルースの出した答えは一旦南下する事だった。本来は西へ行くべきだが、追ってくる魔獣達はそれを見越しているかの様に北と西から囲む様に広がっている。

 幸いスピードはそう変わらず、ルースが走り逃げていると、後方からバサバサと羽音がした。

 まさか、と振り返ると、真っ黒な羽を生やした人型の魔物が、大群から数体飛び出しきた。地を走る大群の毛玉よりスピードが速い。

 徐々にスピードを上げて、ルース達に迫ってくる。

「ルースさん、あれ何?」

 太陽が不安げな声を出す。このままでは追いつかれるのも時間の問題だ!

「闇堕ちした白の妖精だ!あれは能力が高いから厄介なんだ。でも何故北からこんな所へ?」

 白の妖精は、いわば東の銀狼、西の鳥族、南のエルフと同列種族。集団で来られたらさすがのルースもタダでは済まない。

「セーヤ!ルース兄貴!」
「タスケにキタヨ!」

 ルースの右側から悪男の声がした。人型の悪男が西側から太陽達に向かって飛んでいるのが見えた。

「ワルオ!セーヤを頼む!」
「わかった!」
「マカセロー」

 悪男がグングンとスピードを上げ、ルースに追いついた。並走した事を確認して、ルースは太陽を悪男に預ける。

「行って!」

 ルースの声と共に、悪男が太陽を抱えて上昇した。上空での戦いは北の妖精より西の鳥族の方が有利だ。闇堕ちした彼らに追いつけない位に上昇しながら西へ向かう。

「悪男!ルースさんは!?」
「ソラ兄貴がいる!」

 言われて荒野を見れば、獣化した空が風の刃を繰り出して大地を走る大群を相手にしてるのが分かった。

 一方ルースは、先程太陽を手放した場所で立ち止まり、弓矢で空から襲いかかる闇の妖精を射落としていた。

「ルースさん!空!」

 力の無い自分が悔しい。助けてもらうばかりで、こんな時に何の役にも立たない!

 ルースと空の手にかかって、どんどん闇の魔物が倒されて行く。上空を飛ぶ闇の妖精を全て射落とすと、続いてルースは地上の大群れ向かって連続で矢を放った。それに空が、青と銀の聖気を乗せて威力を高める。

 中央に連続で当たった矢が、一気に大群のほとんどを消し飛ばした。以前、太陽が馬車から魔獣を射止めた時よりも遥かに威力が高い。

 これがルースと空の本気。自分のとは比べ物にならない。

「2人ともスゴイッ!」
「カッコイイー」

 悪男とショーキも歓喜の声を上げた。

「ワルオ!西へ向かって!早く!」

 ルースが焦った声を出す。ほとんどの敵を倒したかの様に見えたが、ルースも空も何かを警戒している様に見えた。

「わかった!」

 一度上空で止まっていた悪男が再び西へ向かい出す。

 その時、それまでルースと空に倒され横たわっていた魔獣や闇の妖精達から、真っ黒な何かが浮き上がってきた。

 真っ黒な形の無い空気の様な存在。それは禍々しい気配を持って、宙で一つに集まり出した。

「ルース乗れ!逃げるぞ!」

 空の言葉にルースがその背に飛び乗った。そのまま空が西に向かって駆け出す。

「あれ何!?」

 太陽も悪男に抱き抱えられながら、その禍々しい気配を見ていた。ソレは静かに宙でグルグル渦巻いて何かの形を取ろうとしている。

「わかんねー!でも瘴気の塊だと思う!」
「アレヤバい!」

 悪男が速度を上げた。空とルースも後に続く。

 そして、その間に禍々しい気配は、1つの形を取った。

「魔王!?」

 真っ黒な人形に真っ赤な両眼。頭には両方の側頭部から禍々しい角が生えていた。それは、かつて北で一度見た魔王に酷似していた。

 だが、あの時とは違い、全体的に真っ黒でシルエットの様だった。眼帯は無く、真っ赤な吊り上がった両眼が印象的だった。

 ソレがスッと音も無く太陽達を追って来た。スルスルと滑る様に速い速度で追いついてくる。

「追いつかれる!」

 悪男が高度を上げようするが、魔王のシルエットは実物よりも高く大きく広がり、悪男と太陽に向かって手を大きく伸ばした。
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