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第四章 誰がために、その金は甦るのか
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瘴気はこの世界の歪みである事。
女神はそれを西の鳥族に押し付けようとしたが、北の妖精王がそれを止め、代わりに瘴気を引き受けた事。
今の魔王の正体は北の白い妖精王である事。
そして光の勇者と聖女の役割は、この世界の安穏と引き換えに瘴気ごと魔王を封じ込める事。
太陽の話を聞いている間、ルースは終始無言だった。そして、聞き終わると静かに片手で目元を押さえ、静かに長い息を吐いた。
湧き起こる衝動をどうにかやり過ごすかの様だった。
「ルースさん…」
魔王に殺された家族を思い出しているのだろうか。次々と明かされる魔王の秘密や正体に、太陽でさえどう受け止めていいかわからない。
これが実際、家族を殺され自身も殺されかけたルースはどう受け止めているのか想像も出来なかった。
「両親と妖精王は…」
ポツリ、ルースが呟いた。その声が震えている。
「友人だったんだ…」
「え…」
「先の大戦も…父と母は、王女や勇者、白の妖精王の弔いだと…」
「…そんな」
元王族は権威を取り戻す為。
人間達は瘴気に蝕まれる土地を取り返す為。
エルフ達は減少する緑を守る為。
そしてその中でもルースの両親は、殺された大切な人達の仇を取るためにー。
だが、仇だと思っていた敵はその友自身だった。そして、その友に掛かって彼らは死んでしまったー。
改めて知った残酷な真実。
終わらせなきゃダメだ。太陽の中に不意にそんな思いが湧き上がった。
こんな不幸。こんな理不尽な世界。このままでいい筈がない。
「……」
無言で顔を伏せたままのルースに太陽は近づき、そっと抱きしめた。
「俺がどうにかします」
「…タイヨウ?」
「俺にもし金の力とか、聖女の力があるなら。きっと俺はこの世界をどうにかする為に呼ばれたんだと思うから」
「……」
返事は無い。ルースの肩が少し震えている。彼に寄り添う様に、太陽も無言のままルースを抱きしめ続けた。
この世界の歪みを正す為に何が出来るのか。
これ以上、この愛しい人を悲しませない為に。幸せにする為に。自分は何が出来るのか。
そんな事を考えながらー。
◇◇◇
美しいけど怖い男。
それが初めて見たその人の印象だった。
全然陽に焼けてない白い肌に、白い髪、薄い水色の瞳。まるで造られたみたいに綺麗な人だった。
師匠と何か言葉を交わしてる。
師匠も同じくらい美しい人だけど、柔らかい雰囲気の師匠と怜悧な印象のその人が友人だなんてとても信じられない。
師匠とその人がこちらを見た。真っ白なその人がこちらに近づいて来た。
目の前に来ると、その人は無言で私を見下ろした。まるでただ観察する様に無感情、無関心な表情で呟いた。
「次は其方が我を殺すのかー」
女神はそれを西の鳥族に押し付けようとしたが、北の妖精王がそれを止め、代わりに瘴気を引き受けた事。
今の魔王の正体は北の白い妖精王である事。
そして光の勇者と聖女の役割は、この世界の安穏と引き換えに瘴気ごと魔王を封じ込める事。
太陽の話を聞いている間、ルースは終始無言だった。そして、聞き終わると静かに片手で目元を押さえ、静かに長い息を吐いた。
湧き起こる衝動をどうにかやり過ごすかの様だった。
「ルースさん…」
魔王に殺された家族を思い出しているのだろうか。次々と明かされる魔王の秘密や正体に、太陽でさえどう受け止めていいかわからない。
これが実際、家族を殺され自身も殺されかけたルースはどう受け止めているのか想像も出来なかった。
「両親と妖精王は…」
ポツリ、ルースが呟いた。その声が震えている。
「友人だったんだ…」
「え…」
「先の大戦も…父と母は、王女や勇者、白の妖精王の弔いだと…」
「…そんな」
元王族は権威を取り戻す為。
人間達は瘴気に蝕まれる土地を取り返す為。
エルフ達は減少する緑を守る為。
そしてその中でもルースの両親は、殺された大切な人達の仇を取るためにー。
だが、仇だと思っていた敵はその友自身だった。そして、その友に掛かって彼らは死んでしまったー。
改めて知った残酷な真実。
終わらせなきゃダメだ。太陽の中に不意にそんな思いが湧き上がった。
こんな不幸。こんな理不尽な世界。このままでいい筈がない。
「……」
無言で顔を伏せたままのルースに太陽は近づき、そっと抱きしめた。
「俺がどうにかします」
「…タイヨウ?」
「俺にもし金の力とか、聖女の力があるなら。きっと俺はこの世界をどうにかする為に呼ばれたんだと思うから」
「……」
返事は無い。ルースの肩が少し震えている。彼に寄り添う様に、太陽も無言のままルースを抱きしめ続けた。
この世界の歪みを正す為に何が出来るのか。
これ以上、この愛しい人を悲しませない為に。幸せにする為に。自分は何が出来るのか。
そんな事を考えながらー。
◇◇◇
美しいけど怖い男。
それが初めて見たその人の印象だった。
全然陽に焼けてない白い肌に、白い髪、薄い水色の瞳。まるで造られたみたいに綺麗な人だった。
師匠と何か言葉を交わしてる。
師匠も同じくらい美しい人だけど、柔らかい雰囲気の師匠と怜悧な印象のその人が友人だなんてとても信じられない。
師匠とその人がこちらを見た。真っ白なその人がこちらに近づいて来た。
目の前に来ると、その人は無言で私を見下ろした。まるでただ観察する様に無感情、無関心な表情で呟いた。
「次は其方が我を殺すのかー」
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