【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第四章 誰がために、その金は甦るのか

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 暖炉から聞こえてくる、薪がパキパキ鳴る音が耳に心地よい。

 毛布にくるまって目を閉じる太陽の髪をルースが優しく撫でた。それも気持ち良くて、太陽はスリスリとルースに擦り寄った。

「くすぐったいよ」

 ルースの笑った声がすぐ耳元で聞こえて、安堵する。寝たら引き離されてしまうかもしれないと不安になってるのは、もしかしたら自分の方かもしれない。

「どうしたの?」

 ぼんやり目を開けた太陽の顔をルースが覗き込んだ。

 暖炉の前に2人寄り添って、毛布にくるまって、ただまったり過ごしている。贅沢な時間。

 森の散策から帰り、薪割りをしたり、一緒に夕飯を作ったり。今日はとても充実した1日だった。その後は、2人で毛布にくるまってゆっくりしている内、ルースにもたれかかって寝てしまった様だ。

「ルースさん…」
「何だい?」
「俺こんなにのんびりしてて、いいのかな」
「……」
「北に行かないといけないのに…。空も悪男の事もほったらかして…鳥の長の事も…」
「セーヤはどうしたいの?」
「…もう少しココにいたいです」

 毛布を被り直して、ルースの胸に顔を埋めた。やらなきゃいけない事はわかっている。でも、心がついていかない。

「じゃあもう少しココにいよう」
「いいの?」
「僕がセーヤと出会ってから、ずっと君は頑張ってるよ。ずっと走り続けてる。だから今はゆっくり休む時だよ」
「…ルースさ~ん」

 ルースの言葉が嬉しくて、またスリスリ擦り寄った。ルースが、くすぐったいよ、と笑ってる。

 2人だけの空間が心地よい。
 あと少しだけ、この時間を満喫したい。

 そしたらきっと、また頑張れる。

「そろそろベッドに行く?」
「うん、眠いです」

 目を擦ってると、ルースにふわりと抱き上げられた。細身でしなやかに見えるのに、ルースは力持ちだ。太陽なんか片腕でも持てる位に。

 それが分かってるから、あえて太陽はルースの首に腕を回した。

 2人で過ごす様になって知った事。彼は太陽から甘えられるととても嬉しそうにする。今だってほら。太陽が素直にルースに抱き抱えられて、嬉しそうだ。

 優しく太陽をベッドに下ろして、厚めのシーツをかけてくれた。

「ルースさんは寝ないんですか?」
「僕はもう少しやりたい事があるから」
「今日は…しないんですか?」

 上目遣いにルースを見つめると、ルースが照れて頬を赤らめた。

「まだ疲れてるだろう?明日…セーヤの体調を見てからね」
「絶対…ですよ…ルースさんと…」
「おやすみ」

 眠気に勝てず。そのまま意識を手放した。



◇◇◇



『ミド!』

 女の子の声がして目の前の人物が振り返った。緑色の髪に、緑色の瞳。とても綺麗な顔立ちの男性だった。

『姫様。私の事は先生と呼んでください』
『えー。ミドは先生だけど、そう呼ぶと何だか親しくない人みたいで、寂しいもの』
『それで良いのです。私は姫様の護衛では無く弓を教える者なのですから』

 もう!本当に真面目なんだから!
 自分が密かに憧れている彼は、こうやっていつも自分に一線を引いてくる。

 彼女はそれがいつも不満だった。

『わかった。じゃあ…師匠は?』
『師匠?』
『そう!ーーーが言ってたの!彼女は自分の剣の先生をそう呼んでるって!』

 ミドは微妙そうな顔をしている。一般的に使われる「先生」の方が呼ばれて安心するのだろう。

『師匠て呼んでる弟子っている?』
『いません。普通に先生と呼ばせてます』

 よし!これはチャンス!
 
『お願いミド!』
『でもー』
『じゃあ、あの課題!課題が一発クリアできたら師匠て呼んでいい!?』
『課題ですか』

 ミドがふむと考えている。

 それはミドから出された課題の中でも一際難しく。少なくとも今日は全くダメダメだった。

『わかりました。その代わりダメだったら先生と呼んでくださいね』
『わかった。その代わり、出来たら師匠呼びよ!』
『わかりました』

 その課題はとても難しく、到底一度でクリア出来るとは思えない物だった。

 でもミドは知らないんだ。天才だから。
 凡人の人間はご褒美がかかると、とてつもない実力を発揮するのだ!

 そして、彼女は彼女の護衛達を証人に仕立て、ミドの目の前で一発課題クリアを見事に達成した。

『やった!師匠呼び!私の事は弟子って呼んでよ!』
『はぁ~。仕方ないですね。師匠と弟子の呼び方のどこかいいのか』

 ミドが呆れた様に笑った。いつも冷静な彼のその表情に少しだけ彼女の胸がトクンと跳ねた。

 きっとこの想いはまだ恋と呼ぶには早い。
 きっとこの年特有の年上男性への憧れ。

 だって彼には故郷に恋人がいて。
 既に伴侶の儀式も済んでるって。

 だからせめて。
 違う形でいいから。
 彼女は彼と特別な関係になりたかった。

 だって。他が誰も呼んでない師匠と弟子なら、2人だけの特別な関係でしょ?

『秘密!師匠には教えないよ』

 へへ、と彼女は笑った。
 少し胸が痛んだ気がした。
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