【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

21

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「いた!あれが長だ」

 悪男が指さしたのは、魔鳥の中でも一際大きな巨大鳥だった。

 デカい!

 太陽はそのデカさに蒼白になった。

 あれをルースが蔦で捕まえるの!?
 むしろそのまま引きづられて宙吊りにされないか心配になった。

 西の本拠地から、谷に移動して来た一行は魔鳥に見つからない様に陰に隠れて様子を見ていた。

 そしていざ作戦開始!という所だったが、太陽には不安しかない。

「セーヤよ。そう心配するな。お前が思うよりルースは強い」
「元長のソラほどじゃ無いけどね」
「ふん。最強エルフの証を貰っておいて何を言う」
「最強エルフ?」

 何の事かよくわからなかったが、ココはルースを信用しよう、とりあえずそう決めた。

「なぁ、もう行っていいか?」
「ケンカ?みんなナカヨク」

 スタンバイしてた悪男とショーキが心配そうにコチラを見てる。慌てて、大丈夫!と合図を送った。

 それを見て頷いた悪男の全身が赤と紫の光に包まれた。

 空が獣や人間に変化する時に似てるー。
 そう思った瞬間。

 悪男は大きな赤い鳥に変化した。

「ええっ!と、鳥!?」
「鳥族だからな」

 サラリと空が突っ込んだ。

 いや、そうなんだけど!まさか空みたいに、鳥そのものに変化出来るとは思わなかった。

 悪男は軽く羽ばたくと、一気に上空に飛んで行った。

 全身美しい赤い羽根が大きく広げられる。よく見るとグラデーションになっていて、全身は燃える様な赤なのに、毛先に行くほど少しずつ濃く臙脂色えんじいろになっている。

 それはまるで、悪男とショーキが一体化した証の様に見えた。



 悪男がグングン上空に上がっていく。

 真っ黒な魔鳥達を追い抜いて、1番上に踊り出た。灰色の空に赤が映える。

 そのまま大きくグルリと旋回した。

 ギャァ ギャァ

 魔鳥達が騒ぎ出す。他の鳥には目もくれず、悪男は1番大きな魔鳥に上から襲いかかった。

 ギギャァァー!

 元長というだけあり、その鳴き声も一際大きかった。辺りに振動が伝わって微かに空気が震えている気がした。

 キイィー!

 悪男が鋭い爪で魔鳥を押さえ込んだ。魔鳥がバランスを崩して下降する。

 そのまま上手くいくかと思えたが、魔鳥がグルリと回転して、悪男の上に乗り上げた。そのまま悪男を押さえつけ、鋭い嘴を突き刺した。

 上空から赤い物がハラハラと落ちてくる。悪男の羽根と血だった。

「悪男が!」
「どうする?射るか?」
「嫌。もう少し様子を見よう」

 グングン悪男と長が落ちてくる。
 このままでは、悪男が下になったまま落下してしまう!

 その時。

 キイィー!

 悪男の泣き声が響いた。

 続いて、灰色の空と群がる魔鳥を引き裂く様に稲妻が駆け抜ける。
 それが真っ直ぐに長である魔鳥に突き刺さった。

 グラリ、魔鳥の身体が傾き、悪男の上から落ちた。そのまま重力に従って大地に向かって落下していく。

 ルースが前に出た。
 
 黄緑の光を弓に変化させて、魔鳥の落ちてくる地面に向け矢を放った。

 瞬間。ブワッと一気に数本のず太い緑の蔦が大量発生した。幾重にも折り重なったそれが緑の絨毯の様に魔鳥を受け止め、ぐるぐるに包み込んだ。

 あんなデカい鳥をいとも簡単に。
 さすがルースさん!
 キラキラした目でルースを見つめる。

 そのままルースは矢継ぎ早に、多数の矢を放つ。黄緑の光に包まれた矢は、そこら辺を飛んでいた魔鳥を包み込んだ。

 そのまま姿が隠れる程の蔦でグルグルに拘束された鳥達が空から落ちてきた。

 そのまま大地に落下するかと思われたが、驚く事にまるでゴム鞠みたいにポヨンポヨン跳ね返ってる。

 昔遊んだスーパーボールみたい…。

 サイズはデカいが緑色のスーパーボールみたく跳ねてる内に、魔鳥達は目を回したらしく中には舌を出して気絶してる鳥もいた。

 その合間をいつの間にか獣姿になった空が駆けていく。

 フラフラとゆっくり飛んでいた悪男が、赤と紫の光に包まれたと思うと人型になって落ちて来た。その下で待機していた空が人型に戻って何なく悪男を受け止めた。

 すごい…。

 始めはどうなる事かと心配だったが、いざ終わってみれば圧倒的だった。後は悪男のケガがひどくなければ…。

「セーヤ!危ない!」

 ルースの声がして、ハッと横を見ると、真っ黒な大蛇が今にも太陽に襲いかかろうとしていた。

 大蛇が大きな口を開けて、太陽を飲み込もうと飛びかかってきた!

 寸前の所で避けたが、足元の石につまづいて、倒れてしまう。

 大蛇が再び太陽に向いて牙を剥いてジャンプして来た。

 もうダメだ!腕で顔を被って目を閉じる。

 ガキーンッ

 硬い物同士がぶつかる音が響き渡り、太陽の前に砂埃の様な物が舞った。

 前にも聞いた事がある音だった。あれは確か銀狼の洞穴でー。

 恐る恐る目を開けると。あの時の様に太陽の前に透明で所々角ばった壁が出現していた。

 それが大蛇から太陽を守っていた。

 透明な壁に派手にぶつかった大蛇が大口を開けたままズルズルと地面にずり落ちた。

「セーヤ大丈夫?」

 ルースが駆け寄って来た。
 それで、その透明な壁がルースが作ってくれた物だと気づく。

 あの時、銀狼の少年から守ってくれたのもルースだったのだ。

 恐怖と今更ながらに気づいた生命の恩人に呆然としていてると、ルースが太陽の手を取った。

 転んだ拍子に手を軽く擦りむいて、血が滲んでいた。それを見てルースが気色ばんだ。

「…よくも」
「ルースさん?」

 ルースの目が怒りを宿す。瞳が緑色に光った。

 目を閉じてて、と言ってルースは太陽を背に庇い大蛇に対峙した。

 両手で合掌し、一旦両腕を広げる。
 その瞬間に大地がゴゴゴと揺れた。

「わ、何?地震?」

 ルースから返事はない。揺れる大地が怖くて思わずルースの背中にしがみついた。

 パン!手の平を合わせた音がした。
 見るとルースが再び合掌してる様に見えた。
 続いて、グシャ!と嫌な音がした。ビシャ!ビシャ!と何かが飛び散る様な音が響く。

「な、何が…?」
「…もう終わったよ。行こうか」

 振り向いたルースはいつもの優しい表情を浮かべていた。

 怪我をしていない方の太陽の手を引いてルースが歩き出す。

 ルースに続いて歩き出しながら振り向くと。そこに大蛇は無かった。代わりに大量の黒い液体が辺り一面に飛び散っていた。
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