【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
84 / 181
第三章 空を舞う赤、狂いて

20

しおりを挟む
 西は魔王の配下である事は間違いない。

 この際、魔王が瘴気を抑えていようが、垂れ流していようが、この地から瘴気を祓うのは急務だ。

 その為にも鳥族の長を復活させる。それで話はまとまった。

 長や元の仲間は魔鳥となって谷を飛んでいる。力の強い者は狂っても強い力を持っている。だから十分作戦を練って挑む事にした。

 まず空を飛べる悪男とショーキが上空から下降する様に仕向ける。

 降りて来た所をルースの蔦で捕獲する。空はその間、他の魔獣や魔鳥が近寄らない様に周囲を警戒する。

「なあ、俺は?何すればいい?」
「セーヤ何かデキル?」

 グサッ。ショーキの一言が胸を抉った。

「魔鳥といってもオレの同族だからな。弓はやめてくれよ」

 うっ。唯一の武器が使えない。

「セーヤよ、お前を危ない目に合わせたくないから、大人しくルースの側にでもいろ」

 遠回しに役立たないと言われてる様で軽く落ち込んだ。しょぼん。

 そんな太陽の頭を優しく撫でる手があった。視線を上げると、それまでずっと無言で黙っていたルースだった。

「セーヤは捕獲した後に長を助ける役目があるだろう?だからそれまでは体力を温存してて欲しい」
「…はい!」

 言い方1つで全然違う。しかも相手が大好きな恋人なら、尚更だ。

 太陽のキラキラした表情に、悪男やショーキが、俺らへの態度と随分違うな!と文句を言ってたが無視した。



 そろそろ昼餉時だろう。空の言葉で一同は昼食を摂る事にした。

 皿に生肉を出して悪男に手渡すと、ショーキがウマー!ウマー!と喜んで食べ出した。食欲も旺盛な様で一安心だ。

 空には加工して火を通していた肉をルースが渡してくれていた。

 僕は食欲がないから、ちょっと外に行ってくる、とルースが部屋を出て行った。

 その様子が気になって、太陽はソワソワしてしまう。

「セーヤよ。気になるなら行ってこい」
「うん。空、色々ありがとう」
「後でまとめて返してもらうから気にするな」
「え!?」

 空が太陽を見てニヤッと笑った。まとめてって…何だか嫌な予感がするんですけど!

「ルースの元に行かなくていいのか?」
「ーっ。行ってくる」

 まずはルースだ。空の言葉は気になるが、太陽はルースを追って外に出た。



 ルースは、昨日作った墓の側に佇んでいた。

 飛び出た地形から、眼下に広がる大自然を眺めていた。

「ルースさん!」
「セーヤ?どうしたの?」

 ルースが驚いて太陽を振り返った。その横に太陽が駆け寄った。

「ルースさんが心配で…その…邪魔はしないので、側にいてもいいですか?」
「勿論だよ」

 ソッとルースが太陽の手を握ってくれた。いつものルースだった。

 思っていたより落ち込んでいない様で、少しホッとした。

 ルースは再び景色に目を向ける。幾層にも重なった赤い地層が広大に広がっていた。

「…ここの自然は美しいね」
「はい。何万年、何百年も前の地層が織りなす芸術なんです」
「セーヤは詳しいね」
「俺、前の世界では地学とか理科とか好きだったんです。自然の不思議とか、そういうのに興味があって」
「そうなんだね」
「だから、この地層は…」

 きっと地学も理科も何の事かわからないだろう。それでもルースは相槌を打って太陽の話を聞いてくれていた。

「あ、俺ばっかり話してごめんなさい!」

 ついさっき邪魔しないって言ったばかりなのに!しまったと太陽が焦る。

「気にしないで。セーヤの話は楽しいよ」
「……ありがとうございます」
「僕達森の民は世界を旅するけど。草木のある場所しか訪れないんだ。だからココには初めて来たけど、もっと早く来ておけば良かったと思うよ」

 そう言ってルースは寂しそうに微笑んだ。

「どうして…そう思ったんですか?」
「西は草木が育たない荒れた土地。赤の者は他種族を嫌い、魔王と共に瘴気を広めている。幼い頃からずっとそう聞かされて来たんだ。だけど…」

 ルースが悲しげに目を伏せる。

「実際はこの地はこんなにも美しいし、魔鳥になった鳥達は理性を失いかけながら、この場所を守っていた。それに…鳥族の彼も思ってたよりイイ奴だった」

 ぐぐっ、とそこでルースが自分の唇を噛み締めた。まるで泣くのを我慢している様に。

「…魔王が…もし瘴気を抑えていたというのが本当なら…。何故、300年前の王族は反乱を起こした?何故…僕の家族は…殺されなければ…」

 ルースの声が震え、最後は言葉に詰まって押し黙った。太陽が向かい合って、ソッとルースを抱きしめた。

 そのままルースの頭を自分の肩に引き寄せて、ただ静かに抱きしめた。肩が濡れた事で、ルースが泣いてるのがわかった。ルースが落ち着くまでの間、太陽はただ静かにその背を優しく撫でていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

それはダメだよ秋斗くん![完]

中頭かなり
BL
年下×年上。表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/116042007様からお借りしました。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...