上 下
82 / 181
第三章 空を舞う赤、狂いて

18

しおりを挟む
 ルースと共に空達の元に戻ると、何故か悪男が人型の空の膝の上でぐったりしていた。

「空どうしたの?何かあった?」
「戻ったか。さっき目を覚ました」

 見ると空に寄りかかった状態で、木の実を食べさせられていた。太陽が食べずに残していた分だ。

 185cmくらいある大柄な空と160cmあるか微妙な小柄な悪男では体格差がありすぎて、すっぽり空の膝にハマっていた。

「悪男、ショーキ大丈夫か?」
「平気だけど…肉がいい…」
「肉はオレのだからやらん」
「ケチ!…むぎゅっ」
「さあ食え、鳥坊主。まだあるぞ」

 ケチと言われた空が嫌がらせの様に、悪男の口に木の実を突っ込んでいる。
 
 ちょっと可哀想だが、生命に別状は無さそうだった。

「…良かった!心配したんだぞ」

 悪男とショーキ、2人が無事助かった事に安堵する。嬉しさに思わず泣きそうだ。

 それを何とか落ち着けて、これからの事を話したいんだけど、と切り出した。

 ぐったりした悪男を寄りかかせている空の前に、太陽とルースが座る。

 悪男もショーキも良い奴だ。
 これからも友達でいたい。

 でも、今まで共に旅して来たルースや空を尊重したい。そう決めた。

「悪男、ショーキ。悪いんだけど、俺、北へはルースさんや空と行くよ」
「え?」
「ん?」

 ルースと空が、お前何言ってんだという表情で太陽を見た。あれ?

「オレすてられる?」
「……(がーん)」

 悪男とショーキはわかりやすくショックを受けている。みんなの視線が太陽に集まり、何だか居心地が悪い。

「俺…何か変な事言いました?」
「セーヤよ。やはり無意識だったのだな」

 空の言葉にルースと悪男がギョッとする。

 まさか、そんな、と困った子を見る様に太陽を見ていた。知らない内に自分は何かをやらかした様だ。

「お前はこの鳥に名を贈っただろう」
「空みたいに?してないよ」
「ワルオリ、ワルオになった」
「お前…俺をワルオってずっと呼んでただろ」
「へ…?」

 ちょっと待って。理解が追いつかない。

 確かに呼んでいた。
 ワルオリがワルオと聞こえたから、見た目で悪男ワルオと勝手に面白いアダ名をつけた。

「この世界で金は最上位だ。金の者がそれ以外の種族に名をつけて相手が了承すれば名づけた事になる。という事で、こいつはオレと同じ、お前の家族になったって事だ」
「えええー!何それ!」

 新事実に衝撃が隠せない!

 そういえば、あの時、悪男がその名前を結構気に入ってたと言った。あれが了承する事になったのか!

「ショーキいらないコ?」
「……(泣)」

 わかりやすく悪男とショーキが落ち込んでいる。その様子に太陽が焦った。

「いらないコじゃないよ!でも、ごめん、俺よくわかってなくて!」

 アタフタしながら、太陽はルースを見た。もう太陽は、自分が最優先するのはルースだと決めている。

 彼が納得しないなら、いくら悪男やショーキでも一緒には連れて行けないと思った。

 静かに成り行きを見ていたルースが太陽に声をかける。

「セーヤ。僕は平気だよ。むしろ彼と従属契約を結んだなら、彼は君を傷つける事は出来ない。むしろ安心だよ」
「ルースさん…本当に?」

 表情を伺う様に見上げてくる太陽に、ルースが笑う。

「君の家族なら、僕も受け入れる努力をするよ。だからセーヤの望む通りにして」
「ありがとう…」

 ルースの懐の深さに泣きそうになる。本来なら魔王の派閥である鳥族は拒否感があるだろうに。

 それでも、太陽の気持ちを尊重してくれたのだ。



 ルースが受け入れてくれた事で、太陽は改めてルースと空に悪男とショーキを紹介した。

「悪男は鳥族最後の1人なんです。ショーキは、悪男が瘴気を取り込んだ事で生まれた別人格です」
 
 その言葉にルースの表情が微かに強張った。きっと太陽がルースの瘴気を祓わなければ、将来ルースもそうなったかもしれないのだ。

「ショーキ、もうショーキじゃない!」
「どういう事?」
「治癒を受けた時に体内にあった瘴気が全部祓われたみたいなんだ」
「え?それって…」

 悪男が言うには、身体の治療と共に体内に取り込んでいた瘴気も完全に取り払われたそうだ。

 だが既に別人格として存在していたショーキは、太陽と悪男が存在を願ったせいかそのまま消える事なく残ったらしい。

「じゃあ…もう闇堕ちは…」
「あぁ。もう体内に瘴気は無いから大丈夫だ。セーヤ、俺を救ってくれてありがとな」

 悪男が嬉しそうに笑った。ショーキもアリガトーと喜んでいる。

「…良かった」

 本当に良かった。嬉しさのあまり泣けてきた。

 きっとこの地で出来る事や、やらなきゃいけない事は他にもある筈だ。改めて太陽は自分が出来る事をしようと決意した。



◇◇◇



 太陽は改めてルースと空に、西に来てからの事を話した。

 西は既に長が闇堕ちしてしまい、悪男が1人鳥達に聖気を込めた餌やりで何とか保たせていた事。

 魔王が良い匂いのする人間を探していたから太陽を攫った事。

 だが実際に魔王に会ったら「やるべき事が残ってる」と強制的に西に戻らされた事。

「魔王に会ったのか!セーヤは…セーヤは大丈夫だった?何もされてない?」

 ルースが太陽の腕を掴んだ。太陽の顔を覗き込む瞳が不安そうに揺れていた。

 大丈夫です、すぐ西に帰されましたから。そう言って安心させる様に太陽は微笑んでみせた。

 ルースは家族と同族を魔王に殺されている。自身もつけられた傷でずっと呪いを受けていた。

 きっと、今から自分が話す事は彼を傷つけるだろう。

「ルースさん。俺が今から話す魔王の話は受け入れられないかもしれません。でも…もう隠し事はしたくないから、全部話します…聞いてくれますか?」
「…わかった」

 太陽の口ぶりから、何かを察したのか、ルースは太陽から手を離して座り直した。

 そして。太陽は西に来てから悪男に聞いた事と、眼帯をした金を纏う男に聞いた話をした。

 それは即ち。東の銀狼の空と、南の森の民ルースのそれまでの常識を揺るがす内容だった。

 話し終えた後も、みんなは無言だった。

 ルースは顔を伏せて表情が見えない。だが強く握られた拳が震えているので、自分の感情を必死に抑えているのが見てとれた。

 空は思案顔で聞いた話を整理している様だ。

 そして今だに空の膝にいる悪男は、ショーキが何か言おうとしてるのを押さえる為、必死に自分の口を押さえている。…面白くて、ちょっと癒された。

「鳥が女神に嫌われて滅ぼそうとしたのはオレも聞いた事がある」

 ポツリと空が言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中! 薔薇と雄鹿と宝石と

夕張さばみそ
BL
旧題:薔薇と雄鹿と宝石と。~転生先で人外さんに愛され過ぎてクッキーが美味しいです~ 目が覚めると森の中にいた少年・雪夜は、わけもわからないままゴロツキに絡まれているところを美貌の公爵・ローゼンに助けられる。 転生した先は 華族、樹族、鉱族の人外たちが支配する『ニンゲン』がいない世界。 たまに現れる『ニンゲン』は珍味・力を増す霊薬・美の妙薬として人外たちに食べられてしまうのだという。 折角転生したというのに大ピンチ! でも、そんなことはつゆしらず、自分を助けてくれた華族のローゼンに懐く雪夜。 初めは冷たい態度をとっていたローゼンだが、そんな雪夜に心を開くようになり――。 優しい世界は最高なのでクッキーを食べます!  溺愛される雪夜の前には樹族、鉱族の青年たちも現れて…… ……という、ニンゲンの子供が人外おにいさん達と出逢い、大人編でLOVEになりますが、幼少期はお兄さん達に育てられる健全ホノボノ異世界ライフな感じです。(※大人編は性描写を含みます) ※主人公の幼児に辛い過去があったり、モブが八つ裂きにされたりする描写がありますが、基本的にハピエン前提の異世界ハッピー溺愛ハーレムものです。 ※大人編では残酷描写、鬱展開、性描写(3P)等が入ります。 ※書籍化決定しました~!(涙)ありがとうございます!(涙) アルファポリス様からタイトルが 『転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中!(副題・薔薇と雄鹿と宝石と)』で 発売中です! イラストレーター様は一為先生です(涙)ありがたや……(涙) なお出版契約に基づき、子供編は来月の刊行日前に非公開となります。 大人編(2部)は盛大なネタバレを含む為、2月20日(火)に非公開となります。申し訳ありません……(シワシワ顔) ※大人編公開につきましては、現在書籍化したばかりで、大人編という最大のネタバレ部分が 公開中なのは宜しくないのではという話で、一時的に非公開にさせて頂いております(申し訳ありません) まだ今後がどうなるか未確定で、私からは詳細を申し上げれる状態ではありませんが、 続報がわかり次第、近況ボードやX(https://twitter.com/mohikanhyatthaa)の方で 直ぐに告知させていただきたいと思っております……! 結末も! 大人の雪夜も! いっぱいたくさん! 見てもらいたいのでッッ!!(涙)

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。 なんだろこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨ 表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま 素敵なイラストをありがとう…🩷✨

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...