【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

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 食いちぎられた肩から真っ赤な血が舞い、ショーキが叫び声を上げた。

 悪男がハッとして、太陽に手を伸ばすが、その姿が太陽からどんどん遠ざかる。

 ドシっと重い音がして、次に目を開けると太陽はルースの腕の中にいた。

 それで悪男が手を離して、自分が落ちたのだと気づいた。

「セーヤ大丈夫? 怪我はない?」

 心配そうな顔がすぐ側にあった。ずっと会いたいと願っていた愛しい人。

 でも今は…まだその胸に飛び込む訳にはいかない。やらなきゃいけない事があるから。

「ルースさん。ごめん。離して…」

 太陽を抱き止めたルースの手を、震える手で解いて下ろしてもらう。

「セーヤ?」
「これ以上アイツを傷つけないで…」

 わかってる。ルースと空は俺を助けようとしただけだ。ならこの悲しみは、憤りはどうすればいい?

 片翼を失った悪男が宙を舞いながら、地面に墜落した。固い地表に、骨が折れる様なひどい音がした。

 回転しながら着地した空が、すぐさま悪男に飛びかかろうとするー。

「空!やめろ!」

 それ以上の攻撃は許さない。

 明確な意思を持って命令を下した。空が金縛りにあった様に、動きを止める。

 何故止める? 空の目が太陽に語りかけて来た。

「そいつは俺の友達だ」

 腹の底から、怒りと悲しみが込み上げてくる。
 
 わかった。この怒りの矛先が。

 1番許せないのは、この状況をどうにか防げなかった自分自身だ。

「これ以上傷つけたら…お前でも許せなくなる。だからもう、やめてくれ」
「…セーヤ」

 ルースが引き止める様に太陽の腕を掴んだ。

 それに構う余裕もなく、太陽はルースの手を振り解くと、悪男の元に走った。



 右の翼は裂かれ、右肩はえぐれ、大量の血が流れていた。
 落ちた衝撃で、両脚は変な方向に曲がっていた。

 あまりの惨状に太陽は息を飲んだ。
 これは…もう。
 
 ドクン、と心臓が嫌な音をたてた。

 震える手で、悪男とショーキの手を取った。

「悪男…ショーキ…」
「セーヤ、イタイ、オレしぬ?」

 悪男の左目から涙が溢れた。それを優しく拭う。

「大丈夫だ、きっと治る…ショーキも、悪男も」

 声が震えそうになるのをグッと我慢して。何とか励ましの言葉を伝えた。

「あいつらだろ? お前の大事な人達って…オレが死んでも…そいつら恨むなよ…ゴホッ」

 悪男の口から血が溢れ出た。

「悪男、もう話すな!」
「楽しかった…ありがとな…」
「アリ…ガト…セーヤ、トモ…ダチ」

 2人の言葉に太陽の我慢も限界だった。悪男の胸に縋って泣きじゃくる。

「…嫌だ!嫌だ!死ぬなよ!また一緒に北に、魔王のとこに行くんだろ!? なあ!お前が死んだら、誰が鳥に餌あげんだよ!あの鳥達を!誰が瘴気から守るんだよ!なぁ!悪男!ショーキ!返事しろよ!」
「……」
「悪男?」

 悪男の口が微かに動いた。もう声は聞こえない。泣きながら悪男の口元に耳を近づけた。

「…ワル…オ…って、けっこう、きにいっ、てた…ぜ」

 言葉を告げた後、悪男の顔がゆっくりと横に倒れていく。

 いやだ、死ぬな!

 次の瞬間。太陽と悪男の間から、眩い金の光が溢れた。凄まじい光の奔流に、目を開けていられない。

 何とか光を遮りながら片目を開けると、悪男の身体を金色の光が包んでいた。まるで金色のリボンで悪男を隠す様にグルグルと幾重にも光を重ねていく。

「何だよ、これ、やめろよぉ!コイツを、悪男とショーキを連れて行くなぁ!」

 悪男を隠していく金のリボンが、まるで死の宣告の様で。太陽は半狂乱になりながら、それをはずそうともがいた。

「落ち着け!」

 太陽の行動を止める手があった。
 呆然と顔を上げると、相手は人型になった空だった。

「これは治癒の光だ。だから止めなくても大丈夫だ」
「治癒…?じゃあ助かる?死なない?」
「…わからない。でも死ぬ前に治癒魔法が発動したから助かる可能性はある。希望は捨てるな」

 空の言葉にようやく太陽は落ち着いた。コクリと頷く。
 
 悪男の身体は今や全身を金の帯で包まれていた。空はこれが身を守る殻の様な役割をして、中で治療がされていると説明してくれた。

「そろそろ夜だ。中に運んでやろう」

 空が光に包まれた悪男を、横抱きで抱えてくれた。

 悪男の部屋がわからない太陽は、自分が寝た事のある藁のある部屋へ空を誘導した。

 藁に悪男を寝かせると、その重みで中に沈む。それがまるで、鳥の巣で産まれた卵の様にも見えた。

 藁の横に座って、優しく金の包みを撫でる。そこから自分の気持ちや力が伝わる様な気がして願いを込めた。

 どうか悪男とショーキの2人が無事に助かりますように。

 ふと背中が温かくなる。
 見ると、銀狼が太陽を温める様に丸くなっていた。

「空、ありがとう。さっきはキツイ言い方してごめんな。俺を助けようとしてくれたのに」

 空の頭を撫でる。
 チラッと一瞬、青い目が太陽を見て、すぐ閉じた。

 そういえば、いつの間にかルースがいない。探しに行きたいけど、どうしても今は、悪男の側を離れる気にはなれなかった。

 再び悪男を包む金の帯に手を添える。

 早く良くなって出て来いよ。
 今度は誰にも傷つけさせないから。
 待ってるから。

 祈りながら太陽は目を閉じた。
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