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第三章 空を舞う赤、狂いて
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「やっと来たか」
低い男の声がした。耳当たりの良いセクシーボイスだった。
太陽達が進む方向に男が1人立っていた。長く黒い髪に、黒いローブを纏った人物だった。
「マオウ様!」
ショーキの言葉に息を飲む。
これが魔王。
ただ佇んでいるだけなのに、圧倒的な存在感があった。
瘴気を思わせる不気味な気配と、冬の張り詰めた清廉さを思わせる気配を合わせ持つ不思議な存在感だった。
ショーキが魔王の前に降り立ち、太陽から腕を離した。
魔王は静かに太陽を見つめている。
太陽もどう言葉を発していいかわからず、黙って魔王を見つめた。
魔王は2mはある長身だった。
左目に眼帯をしている。コチラを見ている右目は、切れ長の黒眼だった。
そして、何より目を引いたのは。右側の側頭部から生えた黒い角だった。
それが彼を異形の者だと知らしめていた。それ程にその角は不気味だった。
美しいのに怖い。恐ろしいのに目が離せない。相反する気持ちを起こさせる。
魔王の視線が太陽から悪男に移った。
「鳥よ。よく金の者を連れて来てくれた」
「セーヤが金の者?」
「でもセーヤ、クロい!」
驚く悪男とショーキの反応を見て、魔王は眉を顰めた。
「西はまだか」
魔王は太陽へ視線を向けると、スッと右手の人差し指を立てた。指先が光り、白の粒が中心で渦巻いている。
「やるべき事が残っている。西へ戻れ」
そう言って、魔王は人差し指を振った。白い光の粒が弾けたのを見た瞬間。
「え!?」
太陽と悪男、ショーキは西の鳥族の家の前に立っていた。
「え?何で?」
「……(がっくり)」
「タダイマ!」
いきなりの風景の変化に動揺が走る。太陽は慌てて周囲を見回し、悪男はショックで崩れ落ち、ショーキは楽しそうだった。
その時、鳥族の館から飛び出て来た影があった。
ハッとして身構える。即座に悪男が太陽の前に出て背に庇った。
「セーヤ!」
飛び出た影はルースだった。
緑の髪と瞳。エルフの姿のままの彼だった。太陽を見た瞬間、やっと見つけた、と泣きそうな表情で呟いたのが見えた。
「ルースさん!」
「待ってて。今助ける!」
ルースが持っていた美しい黄緑色の弓をナイフに変化させて構えた。
「ルースさん、待って!戦ったらダメだ!」
「何故?そいつは君を攫った。ラドを殺して」
じり、と一歩ルースが近づく。悪男は太陽の背後に回り、両腕を太陽の腰に回した。
「こいつは渡せないな。魔王様への貢物だ」
「殺す!その手を離せ!」
悪男の言葉にルースの全身が殺気に包まれた。本気で悪男を殺すつもりなのがわかった。
「待って!俺の話を聞いてよ!確かに攫われたけど、俺自分の意志でついて来たんだ!」
「……」
「探してた眼帯の男が北で待ってるって!だから!それに、魔王にも自分で会わなきゃって思って、それで…」
「なら僕らが連れて行く。魔王の配下は信用できない」
ルースが駆け出す。悪男が羽根を広げ、太陽を連れて浮き上がる。
「一度逃げて、また北へ向かうぞ」
「させん」
悪男の声に被さる様に声がした。上の方からだった。悪男が向かう方向、建物の屋根にその獣はいた。
空やめてー
その言葉を口にする前に、美しい銀の獣は屋根から跳んで悪男に飛びかかった。
羽根を爪で切り裂かれ、悪男がバランスを崩す。そのまま銀狼がその肩を食いちぎった。
低い男の声がした。耳当たりの良いセクシーボイスだった。
太陽達が進む方向に男が1人立っていた。長く黒い髪に、黒いローブを纏った人物だった。
「マオウ様!」
ショーキの言葉に息を飲む。
これが魔王。
ただ佇んでいるだけなのに、圧倒的な存在感があった。
瘴気を思わせる不気味な気配と、冬の張り詰めた清廉さを思わせる気配を合わせ持つ不思議な存在感だった。
ショーキが魔王の前に降り立ち、太陽から腕を離した。
魔王は静かに太陽を見つめている。
太陽もどう言葉を発していいかわからず、黙って魔王を見つめた。
魔王は2mはある長身だった。
左目に眼帯をしている。コチラを見ている右目は、切れ長の黒眼だった。
そして、何より目を引いたのは。右側の側頭部から生えた黒い角だった。
それが彼を異形の者だと知らしめていた。それ程にその角は不気味だった。
美しいのに怖い。恐ろしいのに目が離せない。相反する気持ちを起こさせる。
魔王の視線が太陽から悪男に移った。
「鳥よ。よく金の者を連れて来てくれた」
「セーヤが金の者?」
「でもセーヤ、クロい!」
驚く悪男とショーキの反応を見て、魔王は眉を顰めた。
「西はまだか」
魔王は太陽へ視線を向けると、スッと右手の人差し指を立てた。指先が光り、白の粒が中心で渦巻いている。
「やるべき事が残っている。西へ戻れ」
そう言って、魔王は人差し指を振った。白い光の粒が弾けたのを見た瞬間。
「え!?」
太陽と悪男、ショーキは西の鳥族の家の前に立っていた。
「え?何で?」
「……(がっくり)」
「タダイマ!」
いきなりの風景の変化に動揺が走る。太陽は慌てて周囲を見回し、悪男はショックで崩れ落ち、ショーキは楽しそうだった。
その時、鳥族の館から飛び出て来た影があった。
ハッとして身構える。即座に悪男が太陽の前に出て背に庇った。
「セーヤ!」
飛び出た影はルースだった。
緑の髪と瞳。エルフの姿のままの彼だった。太陽を見た瞬間、やっと見つけた、と泣きそうな表情で呟いたのが見えた。
「ルースさん!」
「待ってて。今助ける!」
ルースが持っていた美しい黄緑色の弓をナイフに変化させて構えた。
「ルースさん、待って!戦ったらダメだ!」
「何故?そいつは君を攫った。ラドを殺して」
じり、と一歩ルースが近づく。悪男は太陽の背後に回り、両腕を太陽の腰に回した。
「こいつは渡せないな。魔王様への貢物だ」
「殺す!その手を離せ!」
悪男の言葉にルースの全身が殺気に包まれた。本気で悪男を殺すつもりなのがわかった。
「待って!俺の話を聞いてよ!確かに攫われたけど、俺自分の意志でついて来たんだ!」
「……」
「探してた眼帯の男が北で待ってるって!だから!それに、魔王にも自分で会わなきゃって思って、それで…」
「なら僕らが連れて行く。魔王の配下は信用できない」
ルースが駆け出す。悪男が羽根を広げ、太陽を連れて浮き上がる。
「一度逃げて、また北へ向かうぞ」
「させん」
悪男の声に被さる様に声がした。上の方からだった。悪男が向かう方向、建物の屋根にその獣はいた。
空やめてー
その言葉を口にする前に、美しい銀の獣は屋根から跳んで悪男に飛びかかった。
羽根を爪で切り裂かれ、悪男がバランスを崩す。そのまま銀狼がその肩を食いちぎった。
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(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
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