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第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ
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伴侶。ルースの発した言葉に太陽の鼓動が早まる。
「ユナさん。ルースさんの伴侶って」
「ルースはずっと危ない旅ばかりしてるから。ベイティは早く妻や子を持たせてこの地に落ち着かせたいのよ」
困った様に笑うユナと反対に、どんどん太陽の顔は強張っていった。
ルースは人間は女性が極端に少ないから男性同士の恋愛が普通と言っていた。でもルース自身はエルフ族だった。それなら彼にとって最適の相手はやっぱり同じ種族の女性?
考えれば考える程、太陽の胸は氷の様に冷えていく。
「でも…ルースさんは家族の復讐をする迄は大切な人を作らないって…」
「あら。知ってたのね。もしかして傷の事も?」
「はい。前に見た事があります」
「まあ、見た事が…」
ユナはふむふむ、これはもしや、とブツブツ何か呟いて考えている。
「あ、あのユナさん?」
「あら、ごめんなさい。思ったより2人が親密だった事に驚いてしまって」
「親密…」
そこで思い至る。
普通背中の傷なんて見る機会はない。相手が裸で無ければ。
自分がとんでもない事を言ったと気づいて太陽は真っ赤になった。どう返事したら良いのかわからなかった。
「うふふ。いいのよ、いいのよ。若い2人だし私は同性でも恋愛はアリだと思ってるわ。てっきりそちらのソラ様とそういう仲だと思ったけど」
「ふん。今は主従の関係だが、セーヤが望めばいつでも恋人になってやる」
「あ!そういえばお前、孫がいるなら奥さんや子供もいるんだろ?俺についてきて良かったのかよ」
まさか後継者のガソルが孫だったとは。あの衝撃発言は忘れられない。
「妻はもう200年前に死んでいる」
「え?」
「銀狼は本来寿命は300年程度だ。オレ達は生涯伴侶は1人しか持たない。だからオレはセーヤの伴侶にはなれんが、どんな関係でもオレはこれからの人生をお前と共にいる」
「空…」
空の気持ちがとても嬉しい。
もし空が家族として一緒にいてくれるなら、元の世界へ帰れなくてもいいかもしれない。
そんな気持ちが湧きあがって、太陽自身、そんな自分に驚いた。
「セーヤ君。モテモテね。ルースにソラ様に」
「ち、違います、空は俺にとっては家族みたいな存在で。ルースさんは…その…俺の片想いなんです」
消え入りそうな声で白状する。再び顔は真っ赤だ。
「まあ、そうなの」
太陽の初々しい態度にユナはクスクスと笑った後、じゃあセーヤ君には知っていてもらった方がいいわね、と今度は真剣な表情でルースの事を教えてくれた。
300年程前、魔王に元王族の連合軍が反逆を企てた。
四つの大陸の守り神の内、1番人間と良好な関係を築いていた南のエルフに魔王討伐の協力依頼をしてきた。
エルフはその頃、南の大陸だけでなく、世界全体の森林の衰退と大地の汚染を危惧していた。
人間とエルフの利害が一致し、当時の長、ルースの祖父を筆頭に大多数のエルフ達が参戦する事になった。
そこにルースの両親と、当時既に成人していたルースと弟、妹も参加していた。
ルースの父親の兄。現長ベイティは魔王軍に対抗出来る光の加護が無いのに勝てる訳が無い!と大反対したそうだが聞き入れられなかった。
魔王は無理でも、瘴気で闇堕ちした魔獣を殲滅させればその土地は取り返せる。そうすればエルフ族が浄化すればまた土地は蘇るかもしれない。
それにエルフ達の主戦力は弓。後衛部隊だから危険は少ないというのが当時の長や人間側の主張だったからだ。
結果は一方的な敗北だった。
魔王自らが戦いの場に現れ、先陣をきり人間やエルフ達を皆殺しにした。
ルースも死ぬ程の傷を負ったが、両親に隠される様に倒れていた為、後に様子を見に来たエルフ達によって一命を取り留めたそうだ。
「じゃあルースさんの家族の仇って」
「魔王よ。でも魔王は不死だから倒せない。だからルースは元々魔王を倒すつもりじゃないの。ルースの背中の傷はね、魔王が自らがつけた瘴気の塊よ。それは今も少しずつルースを蝕んで、きっといつかは狂って闇堕ちしてしまうの。だから彼は浄化する方法が見つからないなら、自分が闇落ちして魔物になる前に魔王に一死報いて死ぬつもりなのよ」
「……」
言葉が出ない。
家族を殺されて、自分もいつか狂う。そんな残酷な運命。
両手で顔を覆い、太陽は泣いた。
愛しい人の抱えた苦しさを思うと、胸が張り裂けそうで涙が止まらなかった。
「ユナさん。ルースさんの伴侶って」
「ルースはずっと危ない旅ばかりしてるから。ベイティは早く妻や子を持たせてこの地に落ち着かせたいのよ」
困った様に笑うユナと反対に、どんどん太陽の顔は強張っていった。
ルースは人間は女性が極端に少ないから男性同士の恋愛が普通と言っていた。でもルース自身はエルフ族だった。それなら彼にとって最適の相手はやっぱり同じ種族の女性?
考えれば考える程、太陽の胸は氷の様に冷えていく。
「でも…ルースさんは家族の復讐をする迄は大切な人を作らないって…」
「あら。知ってたのね。もしかして傷の事も?」
「はい。前に見た事があります」
「まあ、見た事が…」
ユナはふむふむ、これはもしや、とブツブツ何か呟いて考えている。
「あ、あのユナさん?」
「あら、ごめんなさい。思ったより2人が親密だった事に驚いてしまって」
「親密…」
そこで思い至る。
普通背中の傷なんて見る機会はない。相手が裸で無ければ。
自分がとんでもない事を言ったと気づいて太陽は真っ赤になった。どう返事したら良いのかわからなかった。
「うふふ。いいのよ、いいのよ。若い2人だし私は同性でも恋愛はアリだと思ってるわ。てっきりそちらのソラ様とそういう仲だと思ったけど」
「ふん。今は主従の関係だが、セーヤが望めばいつでも恋人になってやる」
「あ!そういえばお前、孫がいるなら奥さんや子供もいるんだろ?俺についてきて良かったのかよ」
まさか後継者のガソルが孫だったとは。あの衝撃発言は忘れられない。
「妻はもう200年前に死んでいる」
「え?」
「銀狼は本来寿命は300年程度だ。オレ達は生涯伴侶は1人しか持たない。だからオレはセーヤの伴侶にはなれんが、どんな関係でもオレはこれからの人生をお前と共にいる」
「空…」
空の気持ちがとても嬉しい。
もし空が家族として一緒にいてくれるなら、元の世界へ帰れなくてもいいかもしれない。
そんな気持ちが湧きあがって、太陽自身、そんな自分に驚いた。
「セーヤ君。モテモテね。ルースにソラ様に」
「ち、違います、空は俺にとっては家族みたいな存在で。ルースさんは…その…俺の片想いなんです」
消え入りそうな声で白状する。再び顔は真っ赤だ。
「まあ、そうなの」
太陽の初々しい態度にユナはクスクスと笑った後、じゃあセーヤ君には知っていてもらった方がいいわね、と今度は真剣な表情でルースの事を教えてくれた。
300年程前、魔王に元王族の連合軍が反逆を企てた。
四つの大陸の守り神の内、1番人間と良好な関係を築いていた南のエルフに魔王討伐の協力依頼をしてきた。
エルフはその頃、南の大陸だけでなく、世界全体の森林の衰退と大地の汚染を危惧していた。
人間とエルフの利害が一致し、当時の長、ルースの祖父を筆頭に大多数のエルフ達が参戦する事になった。
そこにルースの両親と、当時既に成人していたルースと弟、妹も参加していた。
ルースの父親の兄。現長ベイティは魔王軍に対抗出来る光の加護が無いのに勝てる訳が無い!と大反対したそうだが聞き入れられなかった。
魔王は無理でも、瘴気で闇堕ちした魔獣を殲滅させればその土地は取り返せる。そうすればエルフ族が浄化すればまた土地は蘇るかもしれない。
それにエルフ達の主戦力は弓。後衛部隊だから危険は少ないというのが当時の長や人間側の主張だったからだ。
結果は一方的な敗北だった。
魔王自らが戦いの場に現れ、先陣をきり人間やエルフ達を皆殺しにした。
ルースも死ぬ程の傷を負ったが、両親に隠される様に倒れていた為、後に様子を見に来たエルフ達によって一命を取り留めたそうだ。
「じゃあルースさんの家族の仇って」
「魔王よ。でも魔王は不死だから倒せない。だからルースは元々魔王を倒すつもりじゃないの。ルースの背中の傷はね、魔王が自らがつけた瘴気の塊よ。それは今も少しずつルースを蝕んで、きっといつかは狂って闇堕ちしてしまうの。だから彼は浄化する方法が見つからないなら、自分が闇落ちして魔物になる前に魔王に一死報いて死ぬつもりなのよ」
「……」
言葉が出ない。
家族を殺されて、自分もいつか狂う。そんな残酷な運命。
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