【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ

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 姫は飲み込みが早いですね。

 そう言ってくれたのは誰だったのか。

 記憶は深い深い闇に沈められ、懐かしいその人の姿は思い出せなかった。

 でも確かに自分はその人を師匠と呼んでいた気がする。

 自分に弓のやり方を教えてくれた人。

 太陽自身は全く習った覚えが無いのに、確かにその記憶は自分の物だった。

『姫。私の姫。やっと見つけた』

 声が聞こえた。

 太陽をこの世界に連れてきた眼帯の男の声だ。

 どこだ?辺りを見回す。

 周りは闇だった。そこに、ぼんやりと光る物があった。

 右目に眼帯をしたあの男だった。

 初めてちゃんと見た男の姿は一度見たら忘れられない容姿だった。

 涼しげで形の良い左目とサラサラの長髪は金色だった。

 闇の中、ほんのり男自身が柔らかい光を放っている。

 知らない奴なのに何故か懐かしさを感じた。

『瘴気がーーまでもうーー無い。魔王ーーしないと』
「何?何て言ってるの聞こえないよ」

 太陽が男に駆け寄って触ろうとしたがすり抜けてしまった。

 男の実体が無い。これは…夢?

『北に』
「北?」
『私は北でーー半分をーーいる。姫がーー完全に封印ーー』
「何?聞こえないんだ。北に行けばいいのか?」
『そろそろーーだ。奴が目をーー』

 そこでスッと男が煙の様に消えた。



◇◇◇



「待って!」

 自分の叫び声で目を覚ました。

 辺りは薄暗い。伸ばした手の先にある布を見て、馬車の荷台の中だと気づいた。

「起きたか」

 子犬のままの空が、ペロリと太陽の頬を舐めた。

 そうだ。魔獣の群れを倒した後、馬車はそのまま走り続け南の大陸との境目で今夜は野宿する事になったのだ。

 夕食を取って馬車の中で寝てる時にあの夢を見たらしい。

 状況がわかってホッと一息ついた。
 周りを見回してもルースやマノス達が見当たらない。どこに行ったんだろう。

 その時、馬車の外で声がした。

「あ…あん、いい…もっとぉ」

 ちょっと高い男性の声。マノスだ。

 ルースもこの場所にはいない。もしかしてー。

 悪趣味だと思ったが、確かめずにはいられなかった。マノスの相手がルースだったら。

 馬車の荷台から降りて、マノスの声がした方に歩いていく。

 数本並んだ木の側。激しく動く2つの影があった。

 小柄のマノスに被さるのは大きな影。相手はラドだった。

 良かった。ルースさんじゃない。ホッとして太陽は踵を返した。

「昨日みたいに興奮しないんだな」

 ついてきた空が太陽にまとわりつきながら聞いてきた。

「しない」

 不思議なほど興奮しなかった。



 馬車の横で焚火しているルースを見つけた。

「セーヤ。起きたの?少し一緒にゆっくりする?」
「はい」

 ルースの隣に座った。

 風は無い。焚火の音がパチパチと耳に心地よい。

 時折、マノスの嬌声が聞こえてきた。ルースは気にした様子も無く枝を焼べている。

「…ルースさん、あれ気になりません?」
「複数人での旅なんてこんな物だよ。好きな時に好き勝手交わるからね」
「その、ルースさんも?」
「僕は落ち着いた場所でしかしないよ。だってしてる時に襲われたら大変でしょ?」

 ハハッとルースが笑った。
 好きな時に好き勝手交わる、というのは否定しなかった。

「ルースさんは恋人とかいないんですか?」
「いないよ。正確には作らない様にしてる」
「それ…何でかって聞いてもいいですか?」
「いいよ、別に隠してないから。家族を殺した奴を探してるんだ。そして見つけたら復讐する。それ迄は大切な人を作るつもりはないよ」

 炎が揺らめいてルースを照らす。その表情は微笑んでるのに悲しそうに見えた。

「家族が殺されたんですか?」
「うん。父と母、弟と妹をね。僕も殺されかけたけど、何とか助かったんだ」

 パチッと炎が揺らめいた。

「俺も家族を殺されました」

 ポツリ、と太陽は呟いた。ルースが太陽に視線を移す。

「事故だったんですけど。相手の不注意で両親と一緒に乗った車が事故にあって…」

 あの時の事を思い出すと今でも胸が苦しくなる。涙を堪える様に太陽は膝を抱えた。

 そんな太陽にルースが寄り添って肩を抱いた。

「そうか。セーヤも苦しんだんだね」
「はい苦しくて辛かったです。相手は悪かったって謝って来たけど、亡くなった人はもう戻って来ない。どれだけ時間が経っても許せない。許したくない」
「許さないでいいよ」
「ルースさん…」
「許さないでいい。大切な人を奪われたんだ。怒るのも辛いのも当たり前だよ」

 優しく頭を撫でられた。

 両親を亡くした時の絶望感。
 相手を殺したくて堪らない憎悪。
 
 それをわかってくれる人は誰もいなかった。友人や学校の先生達は大変だったな、と慰めてくれた。

 それでもこの辛さを同じ様にわかってくれる人は初めてだった。

 太陽は気づいたらルースの胸に抱きついていた。

「ルースさん。俺、貴方が好きです」
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