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第一章 銀狼は青に還りて

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「何だよそれ!?今初めて聞いたんだけど!」

 目上とか年上とか、すっかり忘れて、太陽は長の上着の襟を握り締めて食ってかかった。

「ハッハッハッ!今思い着いたからな!」
「勝手に決めんな!てか長とか森神様とか、勝手にやめていいのかよ!」
「ハッハッハッ!大丈夫だ、まぁ何とかなるだろう」

 なるかー!と全員が心の中でツッコミを入れた。

 そんな中、さっき太陽に襲いかかろうとした少年が前に踊り出てきた。

「お前が、お前が長を!そそのかしたのかー!」

 ハッと気づいた時には、既に少年から凄まじい風の刃が繰り出されていた。振るったその腕から青く光る刃が太陽に放たれた。

 太陽は何も身を守る術を持たない。あ、俺死ぬんだ、そう思った瞬間。

 ガキーンッ

 硬い物同士がぶつかる音が響き渡り、太陽の前に砂埃の様な物が舞った。

 思わず目を閉じる。

 音と砂埃が落ち着いた頃、恐る恐る目を開けると。

 太陽の前に半透明で所々角ばった壁が出現していた。それが少年の放った風の刃を防いでくれたのだとわかった。

「この場合、唆したのは森神の方でしょ」

 懐かしい声がした。

 広場入口から歩いて来たその人は、美しい緑の髪と黄緑の目をしていた。

「ルースさん、どうしてここに…」

 ずっと会いたかった人の登場に太陽の声が震えた。信じられず、幻とさえ疑ってしまう。

 ルースは玉座の近くまでやって来ると太陽に向かって微笑んだ。

「セーヤ探したよ。無事で良かった」

 本物のルースだった。

 いつも綺麗にしてる彼の額には汗で緑色の髪が貼り付いていた。きっと汗だくになって太陽を探してくれていたのだ。

「ルースさん!」

 長の膝から飛び降り、太陽はルースの元へ駆ける。そして会いたかった人の胸に飛び込んだ。

 抱き止めてくれたルースからは、優しい花の香りがした。

 突然のルースの登場に、またもや周囲が騒然となった。

 緑の者が何故ここに?とか、森の見回りか?とか様々な声が聞こえてくる。

 そんな中、ルースに向かって声を上げたのは太陽に攻撃した少年だった。

「南の者が何でオレら東の土地にいるんだ!」
「森の見回りだよ。それが役割なのは君らも知っているだろ?」

 太陽を庇う様に背で隠しながらルースは答えた。

「なら勝手に見回ればいいだろ!何故黒の者を庇う!南も魔王の手下に成り下がったか!」

 少年が再び臨戦体制に入った。今度は両腕の外側に淡く青い光が宿る。そこに小さな風が渦巻いた。

 ルースは懐から小さな緑色の木の実を取り出しす。それを数個少年に向かって投げつけた。

 即座に少年が両腕の風の刃でそれを切り裂く。

 瞬間。

 切り裂かれた実からすごい勢いで幾重にも緑の蔓が生え出し、少年の身体に巻きついた。そのまま両手両足を縛り上げて自由を奪った。

「お前、何をするんだ!」
「君が人の話を聞かないからだろう」

 ルースは一歩前に歩み出ると、拘束した少年と、周囲にいる獣人の群れをゆっくり見渡した。

「南は北に屈する事は無い。それに僕が保護した彼も黒を纏ってはいるが、北の者ではない」

 ルースの声は決して大きくは無いのに、その声は洞内に良く響き渡った。

「北と南の確執は君達もよく知っているでしょう?もし彼が本当に北の黒の者であったならー」

 続くルースの言葉に、太陽は全身鳥肌が立った。

「僕が真っ先に殺してる」

 一瞬だったがルースから鋭い殺気が放たれた。普段穏やかな彼に似合わない程の迫力だった。

 周囲の獣人もその迫力に息を飲んだ。それまで興奮状態で騒いでいた獣人達もルースの殺気に当てられたのか、怯える犬の様に尻尾を丸めて静かになる。

「わかったよ。悪かった。北と確執の強い南の者が言うなら信じる」

 拘束された少年も、すっかり大人しくなった。それを見てルースはパチンと指を鳴らす。

 少年を拘束していた蔦と、玉座の前にあった半透明の角ばった壁が一瞬で砂の様に崩れ消えた。

 宙吊りにされていた少年は身軽に回転して着地した。その表情にもう太陽への憎悪や嫌悪感は無かった。

「それじゃ、僕はセーヤを迎えに来ただけなのでこれで失礼するよ」

 行こうか、とルースは太陽の手を取った。

 そこに空気をぶった斬って割り込んで来た者がいた。長だ。

「待て。オレも一緒について行くぞ」

 長!何を!と再び獣人達がざわついた。
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