【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
20 / 181
第一章 銀狼は青に還りて

18

しおりを挟む
 ルースが鞄から次々と獲物を取り出した。

 入れた瞬間に時間を止める亜空間のバッグらしい。初めて見た時は衝撃を受けたが、魔法もある世界だから、きっと何でもアリなんだろうと思う事にした。

 ルースが血抜きして動物の身体にナイフを突き刺し処理していく。血の臭いとグロテスクな光景に、うぅと吐き気が襲って来た。

 口を押さえて吐き気を抑えていると、ルースが心配そうに声をかけてきた。

「セーヤ大丈夫?気持ちが悪かったら今日は直接しなくてもいいよ。ただ今後の為に、手順だけは見てた方がいいと思うけど」
「うっぷ。今後?」
「眼帯の男を見つけて故郷に帰るんでしょ?もし遠い場所だったら長旅になるかもしれないじゃないか。そしたら食糧の確保は大変だよ」
「あ…」

 そうだ。ルースとの旅は眼帯の男を見つけるまで。その後は元の世界に帰れるにしろ、帰れないにしろ、ルースと今みたいに一緒に居れる保証はない。

 胸がキリッと痛んだ。

 せめてルースといる今は彼の足手まといになりたくない。

 吐き気を堪えてルースのやり方を見て手順を覚える。

 ルースは太陽が困らない様に生きる術を教えようとしてくれている。ならば少しでもそれに応えたいと思った。

 吐き気が少しマシになった所で、ルースに教わりながら一体を自分で捌く事にした。

 目の前に鳥を1羽置いて手を合わせる。

 それから、ナイフで肉を切り血を抜いた。効率の良い捌き方を教えてもらいながらナイフで肉を切断していく。手に生き物の肉を切断する感触が伝わってきて…少し怖かった。

「初めてにしては上手いね。後は僕がやろうか?」
「いえ、このままやらせて下さい」

 その後も1つずつ手を合わせてから残りの獲物を解体していった。

 最後の処理が終わった所で、ルースが浄化魔法を唱えた事で血の嫌な臭いと身体や服についた汚れが一瞬で消えた。

 空気まで清浄された様で太陽はホッと安堵の息を吐いた。

「セーヤ。さっきのアレって何?ご飯を食べる前にもしてたよね」

 ルースが太陽がした様に両手を合わせるポーズをした。

「あ、あれは!生き物の生命を頂く事に感謝というか、生命を無駄にしませんとか、とにかく、そういう気持ちを表してました!」

 合掌の意味や生命を頂く事への感謝の念とか。同じ日本人なら言葉もなくその意味は伝わるだろう。

 あえて聞かれる事で、仕草や考え方がここの常識じゃないんだと思い知らされる。

「生命を無駄にしない…」
「あ、あの変ですか?」

 恐る恐る尋ねた太陽に、ルースはゆっくり首を振り顔を伏せながら言った。

「素晴らしいよ。そう全ての生命に意味がある。だからそれを摘み取る者も相応の理由と覚悟が必要だと僕も思う」

 その声が僅かに震えている様な気がしたのに、ルースは、じゃあ片付けようか、とサッサと後片付けを始めた。

 処理した肉を亜空間の収納バッグへ戻す。最後に血抜きの際に集めた動物の血が入った袋も収納した。

「血も何かに使うんですか?」
「そうだよ。生命は無駄にしない、だろ?」

 茶化した様に言うルースに先程感じた泣きそうな気配はもう無かった。



◇◇◇



 今日は早く帰るから、とルースは出かけて行った。

 太陽は日課となった弓の練習だ。

 的を狙って矢を射る。

 昨日の獣との練習の成果か、射つスピードも正確さも格段に上がった気がする。

 無心になって練習をしていると、例の音が聞こえた。

 グルルル

 ヤツが来たー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

それはダメだよ秋斗くん![完]

中頭かなり
BL
年下×年上。表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/116042007様からお借りしました。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...