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第一章 銀狼は青に還りて
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「ルースさん?」
「昨日の事で嫌われてしまったかなと思ったけど、そうじゃなくて良かった」
「ビックリはしたけど、嫌いになんかなってません…」
むしろ昨日からルースの事を目で追ってしまって戸惑ってるくらいだ。
「少しは僕の事、好きだと思ってくれてるのかな?」
「それは…よくわかりません」
正直に自分の気持ちを話した。
自分は普通に女性が好きだと思ってたけど、そもそも本気で誰かを好きになった事なんてない。
だから、今ルースの事が気になってる淡い気持ちも何て呼ぶのかよく分からなかった。
「この小屋の周辺は魔除けの魔法をかけてるから、あまり小屋からは離れない様にね」
「わかりました」
「じゃあ名残り惜しいけど行ってくるよ」
太陽のおでこに軽くキスをして、ルースは出て行った。
湧き上がる気持ちを言葉に出来ず、太陽はその場で悶えた。
キスされた。おでこに。何だこの甘い雰囲気は!
男にされたのに全然嫌じゃなかった。むしろ胸がキュンとして嬉しいとさえ思ってしまった。
「どうしよう」
太陽はこの世界の人間じゃない。だからどうにかして帰りたいと思っている。
なのにこれ以上彼に惹かれてしまったら、帰る決意が鈍ってしまいそうだ。
「いや、こんな悩んでる時間があるなら、まずは練習しないと」
気持ちを切り替える様に、パンと顔を叩いて太陽は立ち上がった。
どちらにしろ、あの眼帯の男を探さないと。
それにはルースの足手まといにならない様、少しでも弓の腕をあげたい。気分を切り替えて、太陽は弓矢を手に取ると外に出た。
昨日の反省を踏まえて小屋の扉付近で弓矢の練習をした。
矢を番え的を射る。少しずつコツがわかってきたのか、昨日より腕の疲れを感じなくなった。矢も連続で的に当たる様になってきた。ここからは集中力を高めて命中率を上げたい所だ。
どの位の時間が過ぎたか。
雲で空の太陽は見えないが、雲を通して見える光の加減で昼過ぎに感じた。汗を拭いていた時、またその声が聞こえた。
グルルル
またあの獣の声だ。小屋の上を見るがそこには見当たらなかった。弓矢を手に周囲を見回すと、矢の的代わりにしていた木の後ろから獣が現れた。
瞳は黒の濁りが取れ灰色になっていた。汚れて薄黒い灰色だった毛並みは少し薄い色になっている。まるでお風呂に入って、埃や汚れがとれたみたいな毛並みだ。
ガウ
獣がその場で一声鳴いた。特にこちらへ来る様子はない。
「何だ?もしかして魔除けでここまで来れないのか?」
獣は答えない。ジッと太陽の持つ弓を見ている。
「何だ?弓が見たいのか?」
ガウ
返事した。
え?まさか、と太陽は驚きを隠せない。
「お前、言葉がわかるのか?」
ガウ
それは明確な肯定だった。瘴気で闇堕ちした森の動物だと思っていたが、人間の言葉がわかるなら元々は知性の高い動物だったのかもしれない。
弓を見ながら獣はフンと鼻を鳴らした。まるで射てみろと言ってる様だ。
「何だ?弓を射ってるとこをみたいのか?」
ブンブンと尻尾が揺れた。見た目は狼だし、身体は大型犬の何倍もデカい。なのに、その尻尾を揺らす仕草は可愛いかった。
元々動物好きな太陽としては、悪い気はしない。
「わかった。じゃあ少し離れてろ」
キリキリと弦を引き、矢を放つ。
的に当たる寸前で獣の尻尾が矢を払った。
「何するんだ?危ないだろ!」
太陽が慌てて声をかけると、獣がゆっくり的の前に移動して、ガウ、と鳴いた。
それでわかった。この獣は太陽の練習相手になろうとしてる。本当に身の危険があった時、そもそも相手がジッとしてる筈がない。だからこその練習相手。
「お前、いいのか?怪我するぞ?」
獣はフン、と馬鹿にする様に鼻を鳴らした。まるで当たる筈がないと言われてる様だ。
そこまで言うなら練習させてもらおう。太陽は獣に向かって弓を向けた。
ーーー
次話からR18要素入ってきます。閲覧ご注意下さい。
「昨日の事で嫌われてしまったかなと思ったけど、そうじゃなくて良かった」
「ビックリはしたけど、嫌いになんかなってません…」
むしろ昨日からルースの事を目で追ってしまって戸惑ってるくらいだ。
「少しは僕の事、好きだと思ってくれてるのかな?」
「それは…よくわかりません」
正直に自分の気持ちを話した。
自分は普通に女性が好きだと思ってたけど、そもそも本気で誰かを好きになった事なんてない。
だから、今ルースの事が気になってる淡い気持ちも何て呼ぶのかよく分からなかった。
「この小屋の周辺は魔除けの魔法をかけてるから、あまり小屋からは離れない様にね」
「わかりました」
「じゃあ名残り惜しいけど行ってくるよ」
太陽のおでこに軽くキスをして、ルースは出て行った。
湧き上がる気持ちを言葉に出来ず、太陽はその場で悶えた。
キスされた。おでこに。何だこの甘い雰囲気は!
男にされたのに全然嫌じゃなかった。むしろ胸がキュンとして嬉しいとさえ思ってしまった。
「どうしよう」
太陽はこの世界の人間じゃない。だからどうにかして帰りたいと思っている。
なのにこれ以上彼に惹かれてしまったら、帰る決意が鈍ってしまいそうだ。
「いや、こんな悩んでる時間があるなら、まずは練習しないと」
気持ちを切り替える様に、パンと顔を叩いて太陽は立ち上がった。
どちらにしろ、あの眼帯の男を探さないと。
それにはルースの足手まといにならない様、少しでも弓の腕をあげたい。気分を切り替えて、太陽は弓矢を手に取ると外に出た。
昨日の反省を踏まえて小屋の扉付近で弓矢の練習をした。
矢を番え的を射る。少しずつコツがわかってきたのか、昨日より腕の疲れを感じなくなった。矢も連続で的に当たる様になってきた。ここからは集中力を高めて命中率を上げたい所だ。
どの位の時間が過ぎたか。
雲で空の太陽は見えないが、雲を通して見える光の加減で昼過ぎに感じた。汗を拭いていた時、またその声が聞こえた。
グルルル
またあの獣の声だ。小屋の上を見るがそこには見当たらなかった。弓矢を手に周囲を見回すと、矢の的代わりにしていた木の後ろから獣が現れた。
瞳は黒の濁りが取れ灰色になっていた。汚れて薄黒い灰色だった毛並みは少し薄い色になっている。まるでお風呂に入って、埃や汚れがとれたみたいな毛並みだ。
ガウ
獣がその場で一声鳴いた。特にこちらへ来る様子はない。
「何だ?もしかして魔除けでここまで来れないのか?」
獣は答えない。ジッと太陽の持つ弓を見ている。
「何だ?弓が見たいのか?」
ガウ
返事した。
え?まさか、と太陽は驚きを隠せない。
「お前、言葉がわかるのか?」
ガウ
それは明確な肯定だった。瘴気で闇堕ちした森の動物だと思っていたが、人間の言葉がわかるなら元々は知性の高い動物だったのかもしれない。
弓を見ながら獣はフンと鼻を鳴らした。まるで射てみろと言ってる様だ。
「何だ?弓を射ってるとこをみたいのか?」
ブンブンと尻尾が揺れた。見た目は狼だし、身体は大型犬の何倍もデカい。なのに、その尻尾を揺らす仕草は可愛いかった。
元々動物好きな太陽としては、悪い気はしない。
「わかった。じゃあ少し離れてろ」
キリキリと弦を引き、矢を放つ。
的に当たる寸前で獣の尻尾が矢を払った。
「何するんだ?危ないだろ!」
太陽が慌てて声をかけると、獣がゆっくり的の前に移動して、ガウ、と鳴いた。
それでわかった。この獣は太陽の練習相手になろうとしてる。本当に身の危険があった時、そもそも相手がジッとしてる筈がない。だからこその練習相手。
「お前、いいのか?怪我するぞ?」
獣はフン、と馬鹿にする様に鼻を鳴らした。まるで当たる筈がないと言われてる様だ。
そこまで言うなら練習させてもらおう。太陽は獣に向かって弓を向けた。
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