【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ

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 店主に続いて空と共に宿から表に出るとちょうど馬車が到着した所だった。

 馬車の御者台から、勢い良く若い男が飛び降りて来た。

 そのまま、村の入り口付近で村人と柵の修正をしていたルースに飛びついた。

「ルースさん!会いたかった!」
「マノス、こら危ない!」

 勢い良く飛びつかれたせいでルースが尻餅をついた。

 あいつ誰!?

「おいおいマノス!せっかく作った柵が壊れるだろう!」

 店主がマノスを叱ってルースから引き剥がした。えー!と不満そうな声を上げている。

 店主さん引き離してくれて、ありがとう!太陽はホッと安堵の息を吐いた。

 ルースがやっと立ち上がった頃、馬車からもう1人男が降りてきた。
 
 2m近くある大柄な男だった。剣を腰に下げたいかにも用心棒風ないでたちたった。

「マノス。出発までどの位だ?」
「ラド!馬も休ませたいから30分位かな」
「そうかよ。じゃあちょっと息抜きしようぜ」
 
 ラドがマノスに手を伸ばしたが、その手をマノスが叩き払った。

「やだ。ルースさんがいるのにそんな事する訳ないじゃん」

 ピタッとルースに張り付いている。

「何だよ。昨日は俺に抱かれてヨガってたくせによ」
「デリカシーの無い男はこれだから!サイテー!」

 2人のやりとりを周囲が呆れながら見てる。

 太陽の足元にいた子犬の空は、アクビをして後ろ足で頭をかいた。

 チッ、とラドは唾を吐き出した。

 つまらなさそうに村を見回したラドが太陽に視線を止めた。

「こんな田舎にもこんな綺麗な奴がいんのか」

 ラドがニヤニヤ笑いながら太陽の元に歩いて来た。そのまま太陽の腕を掴んで引き寄せた。

「よぉ可愛い子ちゃんよ。ちょっと俺の相手してくれよ」

 キスされる、と太陽が身構えた瞬間。相手の動きがピタリと止まった。

 不思議そうにラドを見ると、その首元にナイフが当てられていた。

 いつの間に動いたのか、ルースがラドの真後ろに立っていた。

「僕のツレなんだよ。ちょっかい出すのやめてくれる?」
「…悪かった」

 ラドが両手を上げるとルースも素早くナイフをしまった。
 そのまま太陽に手を差し出してくる。

 ルースさん、と声を震わせながらその手を取ると思いっきり引き寄せられた。
 ルースの腕の中は優しい花の香りがした。

「全く。本当に君は目が離せないな」

 耳元でルースが笑った気配がした。久しぶりに間近で聞くその声に鼓動が跳ねた。

「ちょっと!ルースさん!そいつ誰?もしかして恋人?」

 マノスがルースと太陽を引き離す様に割り込んで来た。

 間近で見ると、マノスは茶色の髪と目の可愛い顔をした小柄な男だった。年の頃は太陽と同じ位に見える。

「紹介するよ。恋人じゃないけど、今一緒に旅してるセーヤだ」

 キッ!とマノスに睨まれた。

 マノスはまるで自分の物だと主張する様にルースに腕を絡めた。

「言っとくけどルースさんが優しいのは皆にだよ!自分だけ特別だって思わないでよね」
「…っ」

 マノスの言葉に太陽は思わず言葉が詰まる。
 別にそんなつもりはないが、ルースの優しさは自分を特別扱いしてくれる様な気にさせる。

 言い当てられた様で何だか恥ずかしかった。

「マノス、別に僕が誰に優しくしようがいいだろ?柵の修理の続きをするから腕を離して」
「だって!ルースさんはすぐ勘違いさせるから!」

 ルースはマノスの腕を外して柵の修理に戻って行った。

 それをマノスが追いかける。

 ラドは何も言わず馬車へ戻って行った。

「俺達も柵の修理手伝おうか。空?どうしたの?」

 足元の子犬に声をかける。

 普通に立っているだけに見えるのに物凄く不機嫌そうだった。

「あのラドという男。ルースが止めなけばオレが喉笛を噛み切ってやったのに!」

 空は物凄く怒っていた。

 待って!殺すのは行き過ぎだよ!

 心で空に待ったをかけた。

 ルースがあの時止めてくれなければ、今頃村は大騒ぎだったかもしれない。
 改めてルースが助けてくれて良かったと安堵した。
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