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第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ
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「セーヤ!セーヤどこだ!」
必死に叫ぶ声に、深い深い眠りに落ちていたルースは、ハッと目を覚ました。
ベッドから身を起こして隣を見ると、いるべき人の姿が無かった。
即座に飛び起き、上半身は裸のままルースは隣の部屋へ駆け込んだ。
「ソラ!何があった!」
「ルース。マリィと名乗る女が勝手に家に押し入ってあの仕掛けを作動させてセーヤを消した!」
「何だって…?」
マリィ。妹の様に接していた親戚の名前に眉根を寄せる。
長に言われて会った婚約者候補の中に彼女もいた。もしかして断った腹いせにセーヤを狙ったのか?
愛しい存在を害された事に、腹の底から怒りが湧いてきた。
同時に悪夢の呪いが解けた反動で深い眠りに落ちてしまった自分にも腹が立つ。
激しい怒りと後悔を抑えて、ルースは壁に手をついて力を流した。模様が緑色に染まり…一瞬で消えた。
その事実にルースの心臓がドクリと、嫌な音をたてた気がした。
「ルースどうしたんだ?」
「…作動しない…街の方の魔法陣に何かあったんだ…」
「…部屋に何かいると言う事か」
空の言う通りだった。
こちらの魔法陣に問題がないなら、向こう側の魔法陣に何かした者が、部屋の中にいる、と言う事だ。
ルースと空は無言で互いを見た。事態は一刻を争う。
「お前達がこの部屋へ跳んだ魔法陣は使えないのか?」
「あれはエルフの里の中の移動にしか使えないんだ。別から向かおう」
移動の魔法陣を使おうとした所に、開けたままの玄関から入って来たエルフがいた。長の側近の男だった。
「ルース様。全員強制参加の集会が始まります。ルース様もお越しください」
何か言いかけた空を制して、ちょうど向かうとこだとルースが答えた。
外から何か揉める声がした。
「マリィの仲間だ。女が3人外にいる」
空の言葉にルースは足早に表に出た。婚約者候補だった3人と別の側近が言い合っている。
どうやら集会場に向かうよう注意されていた様だ。
それを無視してルースは指をパチンと鳴らした。途端、女性達の足元から幾つもの蔦が飛び出て来て、彼女達をグルグル巻きに拘束した。
「何!?何よこれ」
騒ぐ女達を無視してルースは、居合わせた長の側近2人に淡々と告げた。
「そいつらは、僕が長に紹介した者を害した。意味わかるよね?」
「そんな、まさか!」
側近らは既に黒髪の青年が金を纏う者だと知らされている。
この瘴気に侵された世界を救う可能性がある唯一の存在。
女達の愚かな行為に側近は青ざめながらも、承知しました後はお任せをと頷いた。
普段の温厚なルースの面影は少しも無かった。口にはしないが、激しい怒りを抑えているのが伝わって来た。
騒いでいた女達もマリィの行動がルースの逆鱗に触れた事に気づき、大人しくなった。
そのままルースは踵を返すと、空と共に移動の魔法陣で広場に跳んだ。
既に会場には多くのエルフ達が集まっていた。
元々エルフ族は他の種族より数が少ない。しかも先の大戦で更に多くの生命が失われた。その為、全エルフが集ったとしても、その数は百にも満たない。
突如現れたルースの姿に会場がどよめいた。所々で、ルース様の背中の傷が!と驚く声が聞こえてきた。
古参のエルフは空の事も知っている様で、あれはもしや!と何人かで空の事を話している。
周りの反応を無視してルースと空は玉座へ向かった。
その雰囲気に飲まれたのか、広場にいたエルフ達は2人の行手を開ける様に左右に分かれて道を作った。
「ルース来たか」
玉座に座っていた長が立ち上がりルースを迎えた。いるべき筈のもう1人の姿が見えない事に眉を顰める。
「ルース…何があった?セーヤ殿はどうした?」
「マリィが強制的に南の街に飛ばしました。こちらから再び飛ぼうとしても作動しませんでした」
その言葉に長とユナが青ざめる。その意味を理解したからだ。
「聖堂から行け!あとこれを」
横に控えた側近が持っていた箱から、黄緑に光る木の実を取り出して、長はルースに渡した。
それが何かを知っている古参のエルフ達からはどよめきが起きた。
ルースも僅かに目を見張ったが、すぐに受け取りそのまま口に入れ噛み砕いて飲み込んだ。
「ソラ行こう」
玉座背後の移動陣へ向かうルースにユナが服を渡す。
「必ずセーヤ君を…」
それに無言で頷き、ルースは再び空と共に跳んだ。
ーーー
次回、第二章の最終話です。
必死に叫ぶ声に、深い深い眠りに落ちていたルースは、ハッと目を覚ました。
ベッドから身を起こして隣を見ると、いるべき人の姿が無かった。
即座に飛び起き、上半身は裸のままルースは隣の部屋へ駆け込んだ。
「ソラ!何があった!」
「ルース。マリィと名乗る女が勝手に家に押し入ってあの仕掛けを作動させてセーヤを消した!」
「何だって…?」
マリィ。妹の様に接していた親戚の名前に眉根を寄せる。
長に言われて会った婚約者候補の中に彼女もいた。もしかして断った腹いせにセーヤを狙ったのか?
愛しい存在を害された事に、腹の底から怒りが湧いてきた。
同時に悪夢の呪いが解けた反動で深い眠りに落ちてしまった自分にも腹が立つ。
激しい怒りと後悔を抑えて、ルースは壁に手をついて力を流した。模様が緑色に染まり…一瞬で消えた。
その事実にルースの心臓がドクリと、嫌な音をたてた気がした。
「ルースどうしたんだ?」
「…作動しない…街の方の魔法陣に何かあったんだ…」
「…部屋に何かいると言う事か」
空の言う通りだった。
こちらの魔法陣に問題がないなら、向こう側の魔法陣に何かした者が、部屋の中にいる、と言う事だ。
ルースと空は無言で互いを見た。事態は一刻を争う。
「お前達がこの部屋へ跳んだ魔法陣は使えないのか?」
「あれはエルフの里の中の移動にしか使えないんだ。別から向かおう」
移動の魔法陣を使おうとした所に、開けたままの玄関から入って来たエルフがいた。長の側近の男だった。
「ルース様。全員強制参加の集会が始まります。ルース様もお越しください」
何か言いかけた空を制して、ちょうど向かうとこだとルースが答えた。
外から何か揉める声がした。
「マリィの仲間だ。女が3人外にいる」
空の言葉にルースは足早に表に出た。婚約者候補だった3人と別の側近が言い合っている。
どうやら集会場に向かうよう注意されていた様だ。
それを無視してルースは指をパチンと鳴らした。途端、女性達の足元から幾つもの蔦が飛び出て来て、彼女達をグルグル巻きに拘束した。
「何!?何よこれ」
騒ぐ女達を無視してルースは、居合わせた長の側近2人に淡々と告げた。
「そいつらは、僕が長に紹介した者を害した。意味わかるよね?」
「そんな、まさか!」
側近らは既に黒髪の青年が金を纏う者だと知らされている。
この瘴気に侵された世界を救う可能性がある唯一の存在。
女達の愚かな行為に側近は青ざめながらも、承知しました後はお任せをと頷いた。
普段の温厚なルースの面影は少しも無かった。口にはしないが、激しい怒りを抑えているのが伝わって来た。
騒いでいた女達もマリィの行動がルースの逆鱗に触れた事に気づき、大人しくなった。
そのままルースは踵を返すと、空と共に移動の魔法陣で広場に跳んだ。
既に会場には多くのエルフ達が集まっていた。
元々エルフ族は他の種族より数が少ない。しかも先の大戦で更に多くの生命が失われた。その為、全エルフが集ったとしても、その数は百にも満たない。
突如現れたルースの姿に会場がどよめいた。所々で、ルース様の背中の傷が!と驚く声が聞こえてきた。
古参のエルフは空の事も知っている様で、あれはもしや!と何人かで空の事を話している。
周りの反応を無視してルースと空は玉座へ向かった。
その雰囲気に飲まれたのか、広場にいたエルフ達は2人の行手を開ける様に左右に分かれて道を作った。
「ルース来たか」
玉座に座っていた長が立ち上がりルースを迎えた。いるべき筈のもう1人の姿が見えない事に眉を顰める。
「ルース…何があった?セーヤ殿はどうした?」
「マリィが強制的に南の街に飛ばしました。こちらから再び飛ぼうとしても作動しませんでした」
その言葉に長とユナが青ざめる。その意味を理解したからだ。
「聖堂から行け!あとこれを」
横に控えた側近が持っていた箱から、黄緑に光る木の実を取り出して、長はルースに渡した。
それが何かを知っている古参のエルフ達からはどよめきが起きた。
ルースも僅かに目を見張ったが、すぐに受け取りそのまま口に入れ噛み砕いて飲み込んだ。
「ソラ行こう」
玉座背後の移動陣へ向かうルースにユナが服を渡す。
「必ずセーヤ君を…」
それに無言で頷き、ルースは再び空と共に跳んだ。
ーーー
次回、第二章の最終話です。
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