【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
44 / 181
第二章 闇に囚われし緑よ、いずれ

10

しおりを挟む
 太陽は気づいたらルースの胸に抱きついていた。

「ルースさん。俺、貴方が好きです」

 周囲の音は静かで、聞こえてくるのは焚き火と遠くに聞こえるマノスの声だけだった。

 自分の鼓動がやけに大きく聞こえる。

 ルースがそっと、太陽を押し戻した。

「セーヤ。気持ちは嬉しいよ。でもその気持ちには応えられない」
「ルースさん…」
「それにセーヤは戻らないといけないんだろう?大切な人を待たせてるんじゃないの?」
「いません。大切な人はもう…いないんです」

 両親の顔が浮かんで、声が震えた。

 あの世界に太陽を待ってくれている人はいない。その事実を今さら思い出し泣きそうになる。

 その様子を見てルースが躊躇いがちに、再び太陽を胸に引き寄せてくれた。優しい花の香りがした。

「恋人じゃなくてもいいんです。俺を抱いてくれませんか?」
「僕はね、誰とでも寝るけど、単にそういう事が好きでやってるんじゃないんだ」
「…どういう事ですか?」
「前に見た事があると思うけど…背中の傷は呪いなんだよ。寝ると家族が殺された時の夢を見るんだ」

 ルースの言葉にゾッとした。

 前に見たルースの背中の傷を思い出す。黒ずんで変色した部分があった。

「呪いを解く方法は…」
「旅をしながら探してるけど、今のところは見つかってない。瘴気の濃い場所ほど酷くてね。少しでも気をまぎらわせる為に、誰かと一緒に過ごしてる。だから相手は僕に好意を抱いていない方がいい」

 それがルースなりの線引き。

 ひどい人だ。

 それなら始めから優しくなんかしなければいいのに。告白されてフッた相手なら、もっと冷たくしてくれたらいいのに。

 離れがたくて太陽はキュッとルースの服を掴んで、甘える様にその胸に擦り寄った。

「ルースさんは俺と小屋にいた時や村に向かう時はどうしてたんですか?」
「小屋ではほとんど寝てないよ。ソラが瘴気を祓った後は空気が綺麗になったから、休めたけどね」

 ずっと太陽より後に寝て、先に起きてるのだと思ってた。

 昨日店主とシタ後はゆっくり休んだのだろうか。

 前に太陽と一夜を明かした時の様に無防備な寝顔を晒して。

 胸が苦しくなる。

「俺じゃダメですか?」
「セーヤ…でも君は…。ソラ何で止めないんだ?お前だってわかってるんだろ?」
「オレは何度か止めたぞ。でもお前の事が好きだって泣かれたらもう何も言えん」

 ソラの言葉にルースが困ってる。困らせたい訳じゃないのに。
 
 でも間に空を挟もうとするのは、自分に向き合って貰えてない様で嫌だった。

 思わずルースに迫る様に縋ってしまう。

「どうして空に聞くんですか?空は大切な家族ですけど、俺が好きなのはルースさんです」
「違う、違うんだセーヤ、そうじゃなくて」

 離れた所から一際大きなマノスの嬌声とラドのうめき声が聞こえてきた。

 激しく木を揺らしたのか、バサバサと鳥の羽音が聞こえた。

 俺もあんな風にこの人に愛されたい。自分でも何でここまでルースに惹かれるのかわからなかった。

 例え恋人でなくてもいいから、自分に向き合って欲しかった。

「…この話の続きは明日目的地に着いてからにしよう」

 そっと太陽の手を外してからルースは太陽を横抱きして荷馬車に運んだ。そのまま太陽を荷馬車に寝かせる。

「今日はもうおやすみ」
「ルースさん…」
「ソラ後は頼んだよ」

 そう言ってルースは焚き火の元へ行ってしまった。
 彼はまた今夜も寝れないまま過ごすのだろうか。

 どうして自分ではダメなの?どうして。

 寂しさに涙が出てくる。

 そこにマノスを横抱きにしたラドが戻って来た。マノスは失神してるのか、ピクリとも動かない。

 マノスを荷台に乗せながら、ラドがニヤニヤと太陽を眺める。

「何だルースに相手にされなかったのか?可愛い子ちゃん」
「……」
「俺でよければいつでも抱いてやるぜ」

 舌舐めずりしてラドは出て行った。荷台は2人が限度なので、恐らく御者台で寝るのだろう。

 子犬の空が太陽の頬を舐めてきた。ギュッと空を抱きしめる。今は空の温もりが嬉しかった。

「今日はもう寝ろ。明日また話せばいい」
「わかった。側にいてくれて、ありがとう」

 空の温もりで寂しさを紛らわせながら、太陽は目を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...