【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
32 / 181
第一章 銀狼は青に還りて

30

しおりを挟む
「でも…いつか離れて行くかもしれないじゃないか」

 長の気持ちが嬉しくて声が震えそうになる。

 長の事は嫌いじゃない。仲間想いのいい奴だって今はわかる。

 確かに攫われてルースと引き離され辛い思いをした。でも太陽と触れ合う事で正気を取り戻した彼は、森の瘴気を祓って仲間を救い出した。

 今ではあの時、彼が本当に太陽を必要としていた事も理解できた。

 でも。彼とこれ以上仲良くなって、心を許して。そしてまた辛い別れがあるかもしれないと思うと。

 思わず無意識に長の手を握っていた。

「心配か?ならオレに名をつけろ」
「名前?」
「名をつければオレはお前の物になる。お前に縛られ、お前がオレを捨てようと思わない限り共に有る」

 長、とガソルが躊躇いがちに声をかける。

「オレはもう長じゃない。長はお前だ」
「そうですが、あの方が貴方につけた名はどうするのですか?」
「つけた本人が消え、もう呼ぶ者もいない。そんな名前に意味はないだろう。だからセーヤ、お前がオレに名をつけろ!オレの事を考え、思い、オレに相応しいと思う名前を贈れ!」
「お前に相応しい…」

 そんなの1つしか思いつかない。

そら

 無意識に呟いた。

「お前の青い目は晴れた日の青空の色だ。雲ひとつない澄んだ空の色。だから俺がお前に名をつけるなら空だ」

 瞬間。

 太陽と長の繋いだ手から光が溢れた。

 それは美しい金色の光だった。それがキラキラと太陽と長を、いや、この瞬間にそらとなった男を包み込んで消えた。

「金色…」

 目の前にいたガソルが驚愕で目を見開いていたが、次の瞬間、太陽に向かって片足をつき頭を垂れた。

 それに倣い、空以外の全ての獣人も慌てて跪き同じ様に頭を垂れた。

「金を纏いし者よ。数々のご無礼をお許しください!」
「お許しください!」

 ガソルに続き、他の獣人も声を合わせて太陽に謝罪した。

「な、何?みんなどうしたんだよ?」
「ハッハッハッ!やっぱりオレの見立ては正しかったな!」
「どういう事?」
「オレ以外は生まれた時から空は雲に覆われていた!だから雲の向こうが青いなんて知らないんだ!」
「そ、そうなのか?」
「そう!つまりはそういうことだ!」
「はあ!?どういう事だよ!?」

 太陽の質問を無視して、空は愉快そうにハッハッハッ!と笑った。

 見かねたルースが太陽に声をかけてきた。あれ、とルースが指さす方を見ると、獣人達が頭を深く垂れた謝罪の体勢のままだった。

「セーヤほっておけ。オレがあんなに言ったのに聞かなかったコイツらが悪い」
「何言ってんだよ!皆さん、俺怒ってないですから!顔を上げてください!」
 
 みんながホッとした表情で顔を上げた中、1人大泣きしてる男がいてギョッとする。太陽に襲いかかって来た少年だった。

「オレは、オレは何て事を!空様の恋人でしかも金を纏う者に何て事を!」

 そして突っ伏して激しくまた泣き出した。


ーーー


 次回、第一章の最終話です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...