29 / 181
第一章 銀狼は青に還りて
27
しおりを挟む
一通り仲間が集まったのを確認して、力を放った銀狼は人型に戻った。
それに合わせる様に、他の銀狼達も人間の姿に変わり、そのままその場で片足をついて男に頭を垂れた。
男も女もいる。だが全員共通して獣耳と尻尾がついていた。
「長」
1人の男が代表して未だ崖端に佇む彼に話しかけた。
「長、私達を救ってくださり感謝します」
「ガソルか。瘴気は祓った。今は聖気で満ちている。やがて森や動物も少しずつ元気を取り戻すだろう」
「おお!さすが森神、我らの長よ!」
周囲から歓喜の声が起こり、喜びがさざ波の様に広がって行く。
長と呼ばれた彼が、太陽の方を向いて手を差し伸べてきた。
「こちらへ来い」
周囲の視線が一気に太陽へ集まった。太陽を見た瞬間に彼らから鋭い殺気が放たれた。その迫力に思わず身を竦める。
「何故ここに黒の者が!」
「今まで気づかせぬとは、気配を消していたか!」
「殺せ!生きて北に帰すな!」
近くにいた若い少年が、剥き出しの爪で太陽に襲いかかろうとした!
「静まれ!愚か者!」
長の声は力があるのだろうか。彼の放った言葉1つで、周囲の者達は硬直した様に動かなくなった。
「この者は北の者ではない!」
そう言うと長自ら太陽の元へ来ると、太陽を横抱きにして洞内の奥へ歩いて行く。
硬直が解けた彼らは、長、長、と彼を呼びながら後を追って来た。
洞内の広場の奥。長の部屋に続く手前に、いつの間にか複雑な紋様が彫り込まれた大きな椅子が出来ていた。
見ようによっては玉座の様にも見えた。
そこに長は座り、そのまま太陽を膝に乗せた。
「あの、恥ずかしいので、下ろしてください」
「嫌だ。コイツらは血の気が多いからな。ココが1番安全だ」
平然と楽しそうに長は言った。下ろす気は微塵もなさそうだ。
周囲の視線が刺さって痛い。いきなり現れたコイツは何者だと、彼らの視線が物語っている。
それに黒とか北とかの意味もわからない。
「長よ。説明をお願いします。この通り皆納得していない」
また先程のガソルと呼ばれた男が代表して長に話しかけた。
長が30代前半に見えるのに対し、その男は20代後半位に見える。恐らく長の次に力がある者なのだろう。
「オレが力を取り戻したのはこの者のお陰だ」
ザワリ、と周囲が動揺した。そんな!まさか!と声が聞こえて来た。獣人の誰かが叫んだ。
「だが、その者は黒を纏っている!ならば魔王の手下じゃないのか!」
その言葉に、太陽は思わず、え?と驚愕に目を見開いた。
ルースにこの髪と目の色は珍しいと聞いてはいた。でも魔王の色だなんて知らない。
「違う。俺は魔王の手下じゃない!」
思わず反論したが、何人かが信じられるか!と怒鳴り声を上げた。
「静まれと言っただろう」
低い長の声が響き渡った。
「貴様らは長であり、森神であるオレの言う事が信じられないのか!」
ビリビリと緊張した気配が広がった。皆、長に怯えている。
「ガソルよ、お前はこの者をどう見る」
ガソルは呼ばれ一歩前に出た。長より少し背が低いが、精悍な顔つきをしている。
「その者からは人間の匂いに混じって、これまで嗅いだ事の無い珍しい匂いがします」
ザワザワと皆が騒ぎだす。
「ふむ。どんな匂いだ」
「うまく言えませんが…とても良い匂いです。不思議と懐かしい様な心惹かれる匂いがします」
「合格だ」
満足そうに長は頷いた。
「じゃあ次はお前が長な。森神も任せた」
「は?」
「オレはコイツについて旅に出るから、後は任せた」
長の軽い発言に「はあぁー!?」と、太陽を含めた長以外の全員が仲良くハモった。
それに合わせる様に、他の銀狼達も人間の姿に変わり、そのままその場で片足をついて男に頭を垂れた。
男も女もいる。だが全員共通して獣耳と尻尾がついていた。
「長」
1人の男が代表して未だ崖端に佇む彼に話しかけた。
「長、私達を救ってくださり感謝します」
「ガソルか。瘴気は祓った。今は聖気で満ちている。やがて森や動物も少しずつ元気を取り戻すだろう」
「おお!さすが森神、我らの長よ!」
周囲から歓喜の声が起こり、喜びがさざ波の様に広がって行く。
長と呼ばれた彼が、太陽の方を向いて手を差し伸べてきた。
「こちらへ来い」
周囲の視線が一気に太陽へ集まった。太陽を見た瞬間に彼らから鋭い殺気が放たれた。その迫力に思わず身を竦める。
「何故ここに黒の者が!」
「今まで気づかせぬとは、気配を消していたか!」
「殺せ!生きて北に帰すな!」
近くにいた若い少年が、剥き出しの爪で太陽に襲いかかろうとした!
「静まれ!愚か者!」
長の声は力があるのだろうか。彼の放った言葉1つで、周囲の者達は硬直した様に動かなくなった。
「この者は北の者ではない!」
そう言うと長自ら太陽の元へ来ると、太陽を横抱きにして洞内の奥へ歩いて行く。
硬直が解けた彼らは、長、長、と彼を呼びながら後を追って来た。
洞内の広場の奥。長の部屋に続く手前に、いつの間にか複雑な紋様が彫り込まれた大きな椅子が出来ていた。
見ようによっては玉座の様にも見えた。
そこに長は座り、そのまま太陽を膝に乗せた。
「あの、恥ずかしいので、下ろしてください」
「嫌だ。コイツらは血の気が多いからな。ココが1番安全だ」
平然と楽しそうに長は言った。下ろす気は微塵もなさそうだ。
周囲の視線が刺さって痛い。いきなり現れたコイツは何者だと、彼らの視線が物語っている。
それに黒とか北とかの意味もわからない。
「長よ。説明をお願いします。この通り皆納得していない」
また先程のガソルと呼ばれた男が代表して長に話しかけた。
長が30代前半に見えるのに対し、その男は20代後半位に見える。恐らく長の次に力がある者なのだろう。
「オレが力を取り戻したのはこの者のお陰だ」
ザワリ、と周囲が動揺した。そんな!まさか!と声が聞こえて来た。獣人の誰かが叫んだ。
「だが、その者は黒を纏っている!ならば魔王の手下じゃないのか!」
その言葉に、太陽は思わず、え?と驚愕に目を見開いた。
ルースにこの髪と目の色は珍しいと聞いてはいた。でも魔王の色だなんて知らない。
「違う。俺は魔王の手下じゃない!」
思わず反論したが、何人かが信じられるか!と怒鳴り声を上げた。
「静まれと言っただろう」
低い長の声が響き渡った。
「貴様らは長であり、森神であるオレの言う事が信じられないのか!」
ビリビリと緊張した気配が広がった。皆、長に怯えている。
「ガソルよ、お前はこの者をどう見る」
ガソルは呼ばれ一歩前に出た。長より少し背が低いが、精悍な顔つきをしている。
「その者からは人間の匂いに混じって、これまで嗅いだ事の無い珍しい匂いがします」
ザワザワと皆が騒ぎだす。
「ふむ。どんな匂いだ」
「うまく言えませんが…とても良い匂いです。不思議と懐かしい様な心惹かれる匂いがします」
「合格だ」
満足そうに長は頷いた。
「じゃあ次はお前が長な。森神も任せた」
「は?」
「オレはコイツについて旅に出るから、後は任せた」
長の軽い発言に「はあぁー!?」と、太陽を含めた長以外の全員が仲良くハモった。
24
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。
アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!
古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。
怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。
世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。
『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』
趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる