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第一章 銀狼は青に還りて

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「瘴気?」
「瘴気についても話しておこうか。お茶でも飲みながら話そう」

 食卓についた太陽にお茶を出しながら、ルースがバスタオルの様な布を肩にかけてくれた。その気遣いが嬉しい。
 
 太陽の向かいに座ってルースが簡単に瘴気について説明してくれた。

 この世界には光の女神が根源になる聖気と、魔王が根源となる瘴気がある。

 魔王が現れると世に瘴気が溢れて、生き物は狂い魔物となる。その時に目が徐々に黒く濁るそうだ。

 本来なら光の聖女と光の勇者が魔王を封印する事で、この瘴気は治まるらしい。

 ルースの話だとあの獣は闇堕ちした動物で間違いないそうだ。ただ、そういえば最後に見た目は少し色が変わっていた様な。

「ルースさん。濁った色が薄まるって事ありますか?」
「どういう事だい?」
「最後に見た時、あいつの目の濁りが薄まってた気がするんです」
「薄まる?」

 何か思い当たる事があるのか、じゃあやっぱりあれは、とルースはぶつぶつ呟いている。

「ルースさん?」
「あ、ごめん。僕の気のせいかと思ったんだけどね。実は森が少し持ち直してたんだ」

 ルースは旅をしながら、定期的に各地の森の様子を見て回っているそうだ。今日改めてこの森の様子を見て回ったところ、前回より改善の兆しが見られたらしい。

 木々や花々はまだまだ少ないが、これ以上枯れそうな気配はないそうだ。

「長い年月をかけて木々が減少してしまったけどね。ここからまた年月をかけて緑が戻ってくれたらいいんだけど」

 太陽がココに来た時、開けた場所にポツポツ木が生えていると思ったが、どうやら本来はこの地は森だったらしい。

「よし、じゃあ話も落ち着いた事だし。新しい服を用意しようか」
「あ、それなんですけど、その前にお風呂か川とか無いですか?身体を洗いたくて」

 さっきの獣に身体の匂いを嗅がれたのはちょっとしたトラウマだ。それに身体や顔を舐められて気持ち悪い。

「え?身体を洗いたいの?」

 ルースにちょっと驚かれる。もしかして…ココではあまり風呂に入る文化がない?慌てて太陽は言い直す。

「もしそれが無理なら、濡れたタオルでも」
「いや、それならちょうど近くに湖があるから行ってみる?」
「いいんですか?はい!お願いします」

 ルースの提案に太陽は喜んで承諾した。



 小屋から少し歩いた所に、思いのほか広い湖があった。透明まではいかないまでも、そこそこに綺麗な湖だった。

「良かった。この湖も前よりは綺麗になってる」

 水に手をつけながらルースがホッとした様に呟いたのが聞こえた。もしかしたら風呂に入る文化がないとか言うより、瘴気が気になったのかもしれない。

 少し安堵して、太陽は身につけていた服を脱いで湖に飛び込んだ。飛沫が跳ねて水がキラキラ輝いた。

 頭から水を浴びて、久しぶりに汚れが落ちた様で気持ちが良い。

 空を見上げると、相変わらず厚い雲に覆われていた。雲の向こうがほんのり茜色に染まっている。

 こんなに覆われた世界でも太陽の変化が見受けられるんだな、とぼんやりと思った。

 ルースの方を見ると、岸辺でポチャポチャと水に手を浸していた。

「ルースさんもどうですか?」
「え?僕も?一緒に入っていいの?」
「勿論です。気持ち良いですよ」
「あ、うん。じゃあ一緒に入ろうかな」

 太陽の言葉に何故かルースがほんのり赤くなっている。

 あれ?今の会話に恥ずかしくなる要素なんてあったけ?

 不思議に思いながらも、太陽はとりあえず身体を清める事に専念した。特に獣に舐められた辺りは念入りに洗い流す。

「セーヤ。そんなに洗うと肌を痛めてしまうよ」

 急に耳元でルースの声がして、思わずビクッとする。後ろを振り返ると真後ろにルースが立っていた。
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