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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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 誰かに正面から抱きしめられてる気配がした。誰かの温もりを感じるのは久しぶりだった。

 いつも正体がバレないかと怯えながら生活してたから、こんなに誰かを側へ近寄らせ事なんてない。

 温かくて、気持ちいい…。

 ぼんやり意識が浮上して、瞼を開けると。目の前に茶髪のイケメンがいた。何故か上半身はお互い裸で、オレは抱きしめられながらベッドで横になっていた。下着とズボンは履いていた。

「な、な、何この状況!?」
「ん…起きた?リア、おはよう。身体は大丈夫?」

 オレにつられて起きた男が、幸せそうに微笑みながらオレの頬に触れてきた。茶髪、茶目、それにこの優しくて爽やかなイケメンオーラ。

 こんな奴は1人しか知らない。

「……リッチ?な、何でオレ、リッチと」
「ひどいな。昨日の事、覚えてないの?」
「昨日?」

 思い出されるのは、媚薬液を吐き出す魔物との戦い。確かアイツの体液を浴びて、気づいたら今だった。

「媚薬に当たったとこまでは…」
「いいよ。媚薬効果の最中の記憶は残らないって僕も聞いたから」

 そう。この魔物の媚薬は、効果が発揮してる間の記憶はごっそり消える。だから犯罪に使われる可能性があるから見つけたら即駆除が必要とされてる厄介な魔物だ。

「あの魔物は…」
「もう駆除したよ。あと悪しきエネルギーも見つかって、そっちも騎士と聖職者達で対処済」
「良かった」

 ホッと安堵の息を吐いた時、オレは自分の胸にある闇属性のペンダントに気づいた。あ、と、思わず隠す様にペンダントを握る。

「それには触ってないよ。大事な物かと思ったから」
「ありがとう」

 貴重な物だから、盗まれてもおかしくない。オレはリッチが金持ちで紳士な事に感謝した。

「ところで…オレ、その、何で、お前と、こんな事に…」
「……」

 ジッとリッチが無言でオレを見つめる。いつも優しい顔をしてるから、そんな真剣な表情を向けられると、何だか見慣れなくて。ドキドキして、照れてしまう。

 別にオレは男が好きって訳じゃない。だけど、媚薬を浴びたなら、男女問わず欲情したに違いない。

 そう、このドキドキは、たまたま居合わせた相手がリッチだったからだ。無理やり自分の中の不可解な感情に理由をこじつけた時ー。

「あの時、僕も森にいたんだ。それで悲鳴を聞いて駆けつけたら、あの状況だったわけ」
「そうなのか。助けてくれてありがとう」

 リッチは火属性だ。だからあの時オレとラナを助けてくれたんだと分かった。

「それはいいよ。だってパーティ仲間でしょ?」
「あ、あぁ、そうだな」

 裸の付き合いをしたっぽい相手を、ただのパーティ仲間と言っていいかは、この際置いておこう。うん。

「そ、それで、オレやっぱり、その」
「うん。すっごく発情してて、誰かれ構わず誘いそうだったから、僕が馴染みのホテルに連れて来たんだ。リア、凄く乱れてたよ」
「……」

 やっぱりリッチが相手をしてくれた事で間違いないみたいだ。いたたまれない。そうなると気になるのは…。

「迷惑かけて、ごめん。その、オレって、」

 結局最後までしたのか?したなら、掘ったのか、掘られたのか。聞きたいけど、ものすごく聞きづらい!

「どこまでしたか教えないよ」
「え?何でだよ!」
「…覚えてないんでしょ?なら僕の言った事も、君の言った事も、やった事も全部無効なんでしょ?」
「な、なに?オレ何かやらかした!?」

 リッチの意地悪な言い方に焦る。変な事を口走ったのかもしれない。

「モヤモヤする?なら、そのまずっと僕の事を考えてたらいいよ」

 リッチはニヤリと悪い顔をして、オレに被さって来た。互いに上半身は裸で、相手の方が身体がデカくて、まるでこれから情事が始まるみたいで、恥ずかしい。

 記憶の中にあった少年の頃のリッチより、成長して男になった顔が上からオレを見下ろしている。その表情は、記憶にあるよりずっと男っぽさが増していた。

 あぁ、こんな顔もするんだな、とぼんやりと見惚れてたら。少しずつその顔が下りて来て。

 低い声が耳元で囁いた。

「リアが言いかけた言葉。絶対引き出してやるから。覚悟してね」
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