54 / 60
第三部 乙女ゲーム?高等部編
21
しおりを挟む
「ラナに聞いたよ。何でそんな約束したの?」
ジェードが、オレを木の幹に押しつけまま静かな声で聞いてきた。その声の低さで、怒りを抑えているのが分かる。
「それは…シレネに会う為に…」
「会ってどうするの?それでシレネが覚醒するわけ?何でそんな事の為に、この国を捨てるの?」
「何でって…覚醒するかは分からないけど。だけど、そういう事じゃないだろ? 世界を救える可能性のある奴がいて、自分が何か出来るかもしれない。なら、できる事をやろうと思うだろ?」
オレの言葉にジェードは一瞬、表情を歪めて顔を伏せた。
「…この国から出て行く事になっても?」
「それは…」
「……君はいつもそう。置いていかれる側の気持ち、考えた事ある?」
声を震わせてジェードは泣いていた。
「ネフを助けた時も、突然旅に出た時も、この前の氷だって。僕が、どんな、気持ちで、いたか…」
「ジェード…泣かないで」
「どうして、いつも、自分を、犠牲にして…」
「ごめん」
ジェードの頭を引き寄せて、オレの肩に乗せた。そのまま、あやす様に頭を優しく撫でる。
「もう、勝手に、いなく、ならないで…」
「…ごめん」
「僕を、置いて、行かないでよ…」
「…………ごめん」
リアとして、誠意を持って接する。そう決めたから、分かったとは言えなかった。
ジェードの事を思うなら、突き放した方がいい。これ以上、関わったら互いに傷つくだけだ。そう思うのにー。
「泣くなよ」
オレは…突き放せなかった。
そんなオレの迷いに縋る様に、ジェードがギュッと抱きついてくる。
「君は、何を、恐れてるの?」
「ーっ!」
いやだ。これ以上は、踏み込んで欲しくない。
ジェードを引き離そうともがくけど、キツく抱きしめられて、解けない。
「1人で何を抱えてるの?」
「や、やめろ」
オレが逃げれない様に抱きしめながら、ジェードはオレの耳元に話しかける。
「僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする」
「…ジェード」
「愛してる」
ジェードの言葉に、オレは今どんな顔をしてるんだろう。
オレの表情を見て、ジェードは一瞬驚いた顔をした後、再び口づけてきた。
もうそこに、先程までの荒々しさは無かった。オレを包み込む様な優しい、優しいキスだった。
◇◇◇
次の日。オレは警備室の自分のベッドで目が覚めた。寝室にはもう一つのベッドにラナが寝ていた。
今日と明日は学校が休みだ。だから急いで起きる必要は無いのに…目が覚めてしまった。
起きて警備室の食堂でコーヒーを淹れながら、オレは昨日のジェードとのやりとりを考えていた。
あれから。
ジェードはそれ以上は深掘りせず、おやすみと告げてから寮に帰って行った。
『僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする』
ジェードの言葉を聞いた瞬間。オレは自分の気持ちを自覚してしまった。
もし、もしもこの秘密がどうにか出来るなら。オレはジェードと一緒にいたい。そう思ってしまった。
勝手に家の都合で決められた婚約だと破棄したくせに、別人として出会って惹かれるなんて…なんて皮肉なんだろう。
でもこの恋が成就するとは思えない。アイツは公爵家の跡取りだから、いつか女性と結婚せざるを得ないだろう。それでも、許される間はー。
「…でもまずは、シレネが覚醒しないとな」
世界が滅びたら意味ないからな。オレの事情はその後だ。
オレは気分を変える為にも、自分の鞄から手帳とペンを取り出した。今の状況を書き出すのは、ヴィラトリアとして、離れに住んでいた頃以来だ。
シレネが覚醒するには『真実の愛』が必要だ。乙女ゲームがベースなら、それは恋愛的な成就だろう。
だけど1番可能性が高いメインヒーローのジェードはオレを好きになってしまった。
他の攻略対象者は、ゲームのパッケージに描いていたメンバーだとすると。ネフリティス、メガネ君、トンガリ君、異母兄ライバンだ。
んん?待て待て、このメンバーは全部ヴィラトリアと親交がある奴らだよな? え?て事は?
「……もしかしてオレがヒロインポジ奪った?」
恐ろしい事に気づいてオレは、青ざめる。
いや、待って、とりあえず落ち着こう。妹は何て言ってた?確か最後の夢で言ってたセリフにヒントがあるかもしれない。
確かー。
『何この裏ルートって!』
そうだ。そう言っていた。裏ルートは多分正攻法じゃないって事だ。
なら、普通じゃ恋愛相手にならない、もしくは出来ない相手に惹かれているのかもしれない。子爵令嬢で聖なる乙女のリシアに相応しく無い相手。
そこまで考えて、オレは、ある可能性に気づく。
もしかして、相手は、平民のラナ?
『孤児院に帰りたいって。ラナやリアに会いたいって言ってたよ~』
スペッサの言葉を思い出す。そうだ。シレネは、幼い頃からずっとラナと一緒にいた。だけど身分差が出来てから、ずっと会えていない。
「…賭けてみる価値は、あるよな」
ラナとシレネを会わせる。オレの作戦は決まった。
ジェードが、オレを木の幹に押しつけまま静かな声で聞いてきた。その声の低さで、怒りを抑えているのが分かる。
「それは…シレネに会う為に…」
「会ってどうするの?それでシレネが覚醒するわけ?何でそんな事の為に、この国を捨てるの?」
「何でって…覚醒するかは分からないけど。だけど、そういう事じゃないだろ? 世界を救える可能性のある奴がいて、自分が何か出来るかもしれない。なら、できる事をやろうと思うだろ?」
オレの言葉にジェードは一瞬、表情を歪めて顔を伏せた。
「…この国から出て行く事になっても?」
「それは…」
「……君はいつもそう。置いていかれる側の気持ち、考えた事ある?」
声を震わせてジェードは泣いていた。
「ネフを助けた時も、突然旅に出た時も、この前の氷だって。僕が、どんな、気持ちで、いたか…」
「ジェード…泣かないで」
「どうして、いつも、自分を、犠牲にして…」
「ごめん」
ジェードの頭を引き寄せて、オレの肩に乗せた。そのまま、あやす様に頭を優しく撫でる。
「もう、勝手に、いなく、ならないで…」
「…ごめん」
「僕を、置いて、行かないでよ…」
「…………ごめん」
リアとして、誠意を持って接する。そう決めたから、分かったとは言えなかった。
ジェードの事を思うなら、突き放した方がいい。これ以上、関わったら互いに傷つくだけだ。そう思うのにー。
「泣くなよ」
オレは…突き放せなかった。
そんなオレの迷いに縋る様に、ジェードがギュッと抱きついてくる。
「君は、何を、恐れてるの?」
「ーっ!」
いやだ。これ以上は、踏み込んで欲しくない。
ジェードを引き離そうともがくけど、キツく抱きしめられて、解けない。
「1人で何を抱えてるの?」
「や、やめろ」
オレが逃げれない様に抱きしめながら、ジェードはオレの耳元に話しかける。
「僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする」
「…ジェード」
「愛してる」
ジェードの言葉に、オレは今どんな顔をしてるんだろう。
オレの表情を見て、ジェードは一瞬驚いた顔をした後、再び口づけてきた。
もうそこに、先程までの荒々しさは無かった。オレを包み込む様な優しい、優しいキスだった。
◇◇◇
次の日。オレは警備室の自分のベッドで目が覚めた。寝室にはもう一つのベッドにラナが寝ていた。
今日と明日は学校が休みだ。だから急いで起きる必要は無いのに…目が覚めてしまった。
起きて警備室の食堂でコーヒーを淹れながら、オレは昨日のジェードとのやりとりを考えていた。
あれから。
ジェードはそれ以上は深掘りせず、おやすみと告げてから寮に帰って行った。
『僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする』
ジェードの言葉を聞いた瞬間。オレは自分の気持ちを自覚してしまった。
もし、もしもこの秘密がどうにか出来るなら。オレはジェードと一緒にいたい。そう思ってしまった。
勝手に家の都合で決められた婚約だと破棄したくせに、別人として出会って惹かれるなんて…なんて皮肉なんだろう。
でもこの恋が成就するとは思えない。アイツは公爵家の跡取りだから、いつか女性と結婚せざるを得ないだろう。それでも、許される間はー。
「…でもまずは、シレネが覚醒しないとな」
世界が滅びたら意味ないからな。オレの事情はその後だ。
オレは気分を変える為にも、自分の鞄から手帳とペンを取り出した。今の状況を書き出すのは、ヴィラトリアとして、離れに住んでいた頃以来だ。
シレネが覚醒するには『真実の愛』が必要だ。乙女ゲームがベースなら、それは恋愛的な成就だろう。
だけど1番可能性が高いメインヒーローのジェードはオレを好きになってしまった。
他の攻略対象者は、ゲームのパッケージに描いていたメンバーだとすると。ネフリティス、メガネ君、トンガリ君、異母兄ライバンだ。
んん?待て待て、このメンバーは全部ヴィラトリアと親交がある奴らだよな? え?て事は?
「……もしかしてオレがヒロインポジ奪った?」
恐ろしい事に気づいてオレは、青ざめる。
いや、待って、とりあえず落ち着こう。妹は何て言ってた?確か最後の夢で言ってたセリフにヒントがあるかもしれない。
確かー。
『何この裏ルートって!』
そうだ。そう言っていた。裏ルートは多分正攻法じゃないって事だ。
なら、普通じゃ恋愛相手にならない、もしくは出来ない相手に惹かれているのかもしれない。子爵令嬢で聖なる乙女のリシアに相応しく無い相手。
そこまで考えて、オレは、ある可能性に気づく。
もしかして、相手は、平民のラナ?
『孤児院に帰りたいって。ラナやリアに会いたいって言ってたよ~』
スペッサの言葉を思い出す。そうだ。シレネは、幼い頃からずっとラナと一緒にいた。だけど身分差が出来てから、ずっと会えていない。
「…賭けてみる価値は、あるよな」
ラナとシレネを会わせる。オレの作戦は決まった。
430
お気に入りに追加
1,102
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます
逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?
左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。
それが僕。
この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。
だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。
僕は断罪される側だ。
まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。
途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。
神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。
男性妊娠の描写があります。
誤字脱字等があればお知らせください。
必要なタグがあれば付け足して行きます。
総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる