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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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「ラナに聞いたよ。何でそんな約束したの?」

 ジェードが、オレを木の幹に押しつけまま静かな声で聞いてきた。その声の低さで、怒りを抑えているのが分かる。

「それは…シレネに会う為に…」
「会ってどうするの?それでシレネが覚醒するわけ?何でそんな事の為に、この国を捨てるの?」
「何でって…覚醒するかは分からないけど。だけど、そういう事じゃないだろ? 世界を救える可能性のある奴がいて、自分が何か出来るかもしれない。なら、できる事をやろうと思うだろ?」

 オレの言葉にジェードは一瞬、表情を歪めて顔を伏せた。

「…この国から出て行く事になっても?」
「それは…」
「……君はいつもそう。置いていかれる側の気持ち、考えた事ある?」

 声を震わせてジェードは泣いていた。

「ネフを助けた時も、突然旅に出た時も、この前の氷だって。僕が、どんな、気持ちで、いたか…」
「ジェード…泣かないで」
「どうして、いつも、自分を、犠牲にして…」
「ごめん」

 ジェードの頭を引き寄せて、オレの肩に乗せた。そのまま、あやす様に頭を優しく撫でる。

「もう、勝手に、いなく、ならないで…」
「…ごめん」
「僕を、置いて、行かないでよ…」
「…………ごめん」

 リアとして、誠意を持って接する。そう決めたから、分かったとは言えなかった。

 ジェードの事を思うなら、突き放した方がいい。これ以上、関わったら互いに傷つくだけだ。そう思うのにー。

「泣くなよ」

 オレは…突き放せなかった。

 そんなオレの迷いに縋る様に、ジェードがギュッと抱きついてくる。

「君は、何を、恐れてるの?」
「ーっ!」

 いやだ。これ以上は、踏み込んで欲しくない。

 ジェードを引き離そうともがくけど、キツく抱きしめられて、解けない。

「1人で何を抱えてるの?」
「や、やめろ」

 オレが逃げれない様に抱きしめながら、ジェードはオレの耳元に話しかける。

「僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする」
「…ジェード」
「愛してる」

 ジェードの言葉に、オレは今どんな顔をしてるんだろう。

 オレの表情を見て、ジェードは一瞬驚いた顔をした後、再び口づけてきた。

 もうそこに、先程までの荒々しさは無かった。オレを包み込む様な優しい、優しいキスだった。



◇◇◇



 次の日。オレは警備室の自分のベッドで目が覚めた。寝室にはもう一つのベッドにラナが寝ていた。

 今日と明日は学校が休みだ。だから急いで起きる必要は無いのに…目が覚めてしまった。

 起きて警備室の食堂でコーヒーを淹れながら、オレは昨日のジェードとのやりとりを考えていた。

 あれから。

 ジェードはそれ以上は深掘りせず、おやすみと告げてから寮に帰って行った。

『僕が君を守るから。抱えてる秘密も全部、僕がどうにかする』

 ジェードの言葉を聞いた瞬間。オレは自分の気持ちを自覚してしまった。

 もし、もしもこの秘密がどうにか出来るなら。オレはジェードと一緒にいたい。そう思ってしまった。

 勝手に家の都合で決められた婚約だと破棄したくせに、別人として出会って惹かれるなんて…なんて皮肉なんだろう。

 でもこの恋が成就するとは思えない。アイツは公爵家の跡取りだから、いつか女性と結婚せざるを得ないだろう。それでも、許される間はー。

「…でもまずは、シレネが覚醒しないとな」

 世界が滅びたら意味ないからな。オレの事情はその後だ。

 オレは気分を変える為にも、自分の鞄から手帳とペンを取り出した。今の状況を書き出すのは、ヴィラトリアとして、離れに住んでいた頃以来だ。

 シレネが覚醒するには『真実の愛』が必要だ。乙女ゲームがベースなら、それは恋愛的な成就だろう。

 だけど1番可能性が高いメインヒーローのジェードはオレを好きになってしまった。

 他の攻略対象者は、ゲームのパッケージに描いていたメンバーだとすると。ネフリティス、メガネ君、トンガリ君、異母兄ライバンだ。

 んん?待て待て、このメンバーは全部ヴィラトリアと親交がある奴らだよな? え?て事は?

「……もしかしてオレがヒロインポジ奪った?」

 恐ろしい事に気づいてオレは、青ざめる。

 いや、待って、とりあえず落ち着こう。妹は何て言ってた?確か最後の夢で言ってたセリフにヒントがあるかもしれない。

 確かー。

『何この裏ルートって!』

 そうだ。そう言っていた。裏ルートは多分正攻法じゃないって事だ。

 なら、普通じゃ恋愛相手にならない、もしくは出来ない相手に惹かれているのかもしれない。子爵令嬢で聖なる乙女のリシアに相応しく無い相手。

 そこまで考えて、オレは、ある可能性に気づく。

 もしかして、相手は、平民のラナ?

『孤児院に帰りたいって。ラナやリアに会いたいって言ってたよ~』

 スペッサの言葉を思い出す。そうだ。シレネは、幼い頃からずっとラナと一緒にいた。だけど身分差が出来てから、ずっと会えていない。

「…賭けてみる価値は、あるよな」

 ラナとシレネを会わせる。オレの作戦は決まった。
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