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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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 2人ともこの国から出ていけ。そうスペッサは言った。

「どうして?」
「お前らがいると、周りが騒がしいんだよ!ジェードと王子らもリア、リアって!トンガリだって、あんなに恨んでたくせに、いつの間にか和解して!」

 一気にスペッサが捲し立てて、肩で息をしている。その姿にオレは心を決めた。

「わかった。でも出て行くのはオレだけにして欲しい」
「リア!お前?」
「ラナは黙ってろ。こいつはこの街の孤児院出身だ。帰る家がある。でもオレは違う。だからオレなら問題ない」
「リア!」

 冷静なオレの言葉に、スペッサは、ふうふうと息を整えながら、不思議そうな顔をした。

「君は孤児院の子じゃないの?」
「違う。帰るとこなんか……ない」
「ふ、ふ、ふ。あっははは!君、住所不定の浮浪者の子なの!?」
「…似た様なもんだ」
「あっははは!こんな卑しい奴に、ジェード達はバッカみたい!」

 ひとしきり笑い終わった後、スペッサが息を整えてこっちを見た。大笑いしたせいか、いつもより瞳や顔に表情が戻っていた。

「いいよ、それで。でも2人連れてくんだから、もう1つお願い聞いてよ」 
「なに?」
「ふふ、良いこと思いついたんだ~」



 一日の仕事が終わって、ラナと夕飯の相談をしている時。警備室にジェードがやって来た。

「リア一緒に食堂に行こう」

 何事も無かった様にニコニコしているジェードを見るのが辛くて、オレはすぐ背を向けた。

「オレは結構です」
「助けてもらったお礼にって、ロード達が君の為に魚料理を準備してくれたんだよ」
「…魚」

 食べたい。それにロード達が準備してくれたなら断るなんて失礼だ。でも、スペッサとの約束があるから、ほいほいついて行けない。

 オレが困ってると、もう1人警備室に誰かやって来た。

「リア~。一緒に学食でご飯食べよ~」

 スペッサだった。ジェードの姿を見つけると、ムッとした表情を浮かべた。

 逆にジェードは、何でココにスペッサがいるのか分からず戸惑いの表情を浮かべている。

「分かりました。ラナ。先に行ってる」

 オレは目の前のジェードを無視して歩き出す。ジェードが、待って!とオレの腕を掴んだ。

「何でスペッサと?」
「…オレの勝手でしょう」

 ジェードの手をはらう。傷ついた表情が一瞬視界に入ったけど、オレは見ない様に顔を背けた。

「スペッサ様、行きましょうか」

 スペッサの二つ目のお願い通り、オレがジェードよりスペッサを優先したのが嬉しかったのか、スペッサがニコニコ楽しそうな表情を浮かべた。

「うん、行こ~。バイバイ、ジェード」

 スペッサがオレの腕を掴んで、早く早く~と子供みたいに引っ張って歩き出す。オレはただその後をついていく。

 最後まで、ジェードの顔は見れなかった。



 学食に着くと沢山の魚料理が並んでいた。焼いた物から新鮮な物まで様々だった。

 ロード達が食材を調達して、食堂のおばちゃん達や助っ人のシェフ達が腕をふるってくれたらしい。感動で泣きそうだ。

「え~、リアお魚好きなの?」
「大好きです」

 ブッフェ形式の豊富な魚料理にもうオレのハートはメロメロだ。スペッサそっちのけで、オレが料理を選んでいると、授業を終えたトンガリ君達がやって来た。

「もう体調はいいのか?」
「ロード様、みなさん、こんなに沢山の料理ありがとうございます」
「みんなで持ち寄りましたのよ!」
「俺はシェフを派遣したんだ」

 初めて見た時は仲が悪そうだったトンガリ君と令嬢達も、あの一件で仲良くなったみたいだ。

「これも美味しい」

 初めて食べる料理にオレはホクホクだ。そんなオレの正面には不機嫌そうなスペッサが座ってる。

 スペッサは野菜が好きで、本日野菜料理が少なかった事に不満みたいだ。

「ところで、スペッサ様、通いじゃないんですか?帰りは?」
「ボクも入寮したの」
「何でですか?」
「……別にいいだろ」

 無愛想だし、不機嫌そうだし。こんな態度を取られたら、メシも不味くなる。

 だからオレは自分の皿から、スペッサが好きそうな味付けの魚を取って。

「スペッサ様」
「何?むぐっ」

 口に突っ込んでやった。スペッサは目を白黒させながらモグモグして、飲み込んだ。

「おいしい…」
「これもおススメですよ」
「な、むぐっ」

 文句を言われそうだったから、どんどん口に突っ込んでやる。スペッサは大人しくされるがままだ。

「珍しいなスペッサが誰かと食事してるのは」

 トンガリ君がオレ達の席にやって来た。オレの横に座ると、コレも食べろと新しい魚料理を差し出してくれた。

「ふあぁ!刺身!」

 もうオレは大興奮だ。早速一切れ口にする。醤油が無い代わりに軽く塩を振っただけだが、それでも新鮮な魚は美味かった。

「うっまぁ~」
「ふん、生の魚なんて、下品だよ」
「……コレはスペッサ様にはあげませんよ」
「なっ、なんで!?」
「スペッサ落ち着け」

 いつの間にか、昼の落ち込んだ気分も忘れて、オレはスペッサやトンガリ君達と楽しい時間を過ごした。

 食事が終わると、生徒達は帰って行った。あんなにウザかったスペッサも、結局は楽しかったみたいで機嫌良さそうに寮へ帰って行った。

 みんなを見送ると、ラナがそろそろ戻るか?と声をかけて来た。側にジェードもいる。

「オレ、ここの片付けしてから戻るよ。先帰ってて」
「わかった。先戻るな」

 ジェードには声をかけずにオレは背を向け。それから、おばちゃん達の片付けを手伝った。



「今日はオレの為にありがとうございました」
「いいのよ!アンタ大活躍だったんでしょ?これからも頑張んなさい。あーあ、私がもう少し若ければねぇ~」

 食堂のおばちゃんの激励を受けて(?)オレは食堂を後にした。

 もうすっかり夜で、空には美しい星空が広がっていた。昼はまだ暖かいのに、夜は冷える。

 もうすぐ警備室という所で、通りかかった大きな木の陰から、いきなり人が出て来た。

「なっー」

 腕を掴まれて、木の裏に引き込まれて、背中から木の幹に叩きつけられた。そんなに強い力じゃ無かったから痛くは無かった。

 それよりも、そんな事をした奴の顔を見て、オレは衝撃を受けた。

「ジェード、なん…っ」

 言葉は全部言えなかった。ジェードに口を塞がれたから。

 木の幹に両肩を押さえたまま、ジェードが荒々しくオレの唇を奪った。この前の様な優しさは微塵も無かった。

 ジェードがオレの顎に触れて、少し下に押される。自然と開いた口の隙間から、柔らかい何かが入ってきた。

 荒々しいキスなのに、ソレはまるで舌を愛撫する様に優しく触れてくる。上顎や口内を舐められて、やっとソレがジェードの舌だと気づいた。

「ふ…あ…」
「リア…リア…」

 暗闇の中、2人の荒い息遣いと、切なそうにオレの名を呼ぶジェードの声だけが聞こえた。
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