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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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 気づいたら朝だった。

 ベッドにジェードと2人。互いの制服のまま、一緒に横になってた。

 魔力が戻って来たのか。身体は普通に動く様になったけど。まだ疲労感は伴った。

 側に寝るジェードは、目元はもう腫れがひいていた。ホッとしてジェードの目元に触れる。コイツの泣き顔はもう見たく無い。

 昨日は、互いを慰め合う様にキスし合って、そのまま抱き合いながら眠った。ただ、それだけだ。

 なのに、オレの気持ちは不思議なほど満たされていた。

 不意に、オレの手をギュッと握る手があった。

 見ればジェードの目元に触れていた手を、目を覚ました彼に握られていた。

「リア、おはよう」
「ん、おはよ」

 昨日カーテンを閉め忘れたせいで、朝の光に照らされて微笑むジェードは、とてもキレイでカッコ良い。

 そんなジェードが、ちょっと眩しそうに表情を歪めた。

「眩しい?」
「うん、リアが綺麗過ぎて」
「…は?」

 ポカンとするオレの腕をジェードが引っ張って、ブランケットの中に引きずり込んだ。

 抱きしめられて、そしてー。

「ん…」

 昨日みたく、優しく口づけてくる。

 壊れ物を扱うような、優しいキスに、また溺れそうになる。

「待って、オレ、仕事」
「まだ、もう少し時間があるよ」

 耳元で囁かれると、全身から力が抜けてしまいそうで、必死にオレは抵抗する。

「風呂も入りたいから、これ以上はヤダ」
「…じゃあ、一緒に入ろう」
「え?一緒?」

 唖然としてる間にジェードがオレを横抱きにして、さっさと歩き出す。出入り用のドア以外にも2つドアがあったけど。その内の1つが風呂場だったみたいだ。

「ひ、広い!」

 ジェードが連れてってくれた風呂場は、5、6人は余裕で入れそうな広さで、何よりも豪華な湯船が設置されていた。

「ゆ、湯船…!」

 この世界に生まれて入ったのは、本宅でお風呂に入れられたほんの数回だけだ。

「お風呂好きなの?」
「好き!大好き!久しぶりに入りたい!」

 ジェードが風呂場に置かれていたガラス玉に手を触れると、湯船はすぐに水が満タンになった。

「あとは、火魔法で熱をー」
「オレやる!オレやる!」

 これだけ大量の水を温めるのは至難の技だ。普段やらない詠唱を使って、オレは湯船の水に熱を送って何とか温めた。

 それだけで、もうオレはグッタリだ。

「リア、大丈夫?」
「ん。オレ属性は多いけど、魔力量が乏しいんだ」
「無理しなくて良かったのに」

 風呂用に火魔法のストックは準備してたよ、と笑いながらオレを一旦部屋へ連れて行く。

 そしてー。

「何で服脱がすんだよ!」
「だって風呂に入るなら脱がないとでしょ?」

 ジェードが楽しそうにオレの詰襟ボタンをどんどん外していく。抵抗するけど、さっきの火魔法のせいで力が入らず、簡単に制服と中のシャツのボタンを開けられてしまった。

 その拍子に、はだけたオレの胸元から黒い石のついたペンダントが晒されていた。パッとそれを掴んでオレは身を捩らせた。

 バカ。オレ、何絆されてるんだ。これ以上踏み込まれたらきっとボロが出る。

「もう風呂はいい。帰る」
「リア…?」
「どけよ」

 ジェードを押し除けて立ちあがろうとするオレを見て、ジェードが先に立ち上がった。

「ごめん、悪ふざけが過ぎたよ。僕はネフに君の体調報告してくるから、ゆっくり入って」

 そう言ってジェードは部屋を出て行った。

 どうしようか一瞬迷う。でも、念の為確認したい事もあって。オレは素直に風呂場に入った。

 服を脱いで全裸になって、全身鏡の前に立つ。黒い髪と目。胸元に黒いペンダントをした男が映っていた。

 冒険者にしては、細めのしなやかな身体。腹部分に、昔ネフリティスを庇った時に負った傷跡が目立つ。

 オレは闇属性のペンダントを外した。途端、髪は美しく艶やかな銀髪。瞳は紫に変わった。そして、胸元に銀のネックレスが現れた。

 ちゃんとネックレスがある事に安堵して、それに清浄と保存の魔法をかけ直した。

 お母様がオレが家を出る最後の日に贈ってくれた物だ。
 
 お母様が男爵家を出る時に、お祖父様からプレゼントされた男爵家の紋章入りのネックレス。いつかオレに何かあった時に、男爵家を頼れる様と渡された物だ。

 オレが闇魔法のペンダントをしている1番の理由は、これを隠したいからだ。

 だからー。

「今まで…他人を避けてたのにな」

 これまで人肌が恋しいと思った事も勿論ある。だけど、誰かと肌が触れ合う関係になった時。もし何かの拍子でオレの正体がバレてしまったら。

 そう思うと誰かと深い関係なんて作れなかった。

 だって、オレだけじゃなくて、お母様にも被害が及ぶからー。

 ずっと気をつけてたのに。アイツはいとも簡単に、オレと距離を縮めてきた。思わず、もっと触れたいと思ってしまう位に。

 アイツは危険だ。

「早くこの国を出なきゃ。そして、もう会わない」

 改めて決意する。

 なのに。

 鏡に映ったオレは泣きそうな顔をしていた。
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