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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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「も、もしかして、魔物退治が進んでないのも」
「王家と騎士団は魔物討伐に積極的だよ。まだ覚醒していないシレネを参加させて、現場で実践を積ませようとしたんだ。でも、これにトルマリンとガーネットと教会側が反対して、聖なる乙女を先に覚醒させるべきだと訴えているんだ。実際、今はシレネは教会に篭って頑張ってるらしいけど、なかなか能力が開花してないんだ」

 魔物討伐も聖なる乙女の育成も進んでない理由は分かった。
 
 それは国外が予想した通りだった。内部で王族と貴族の対立が互いに足を引っ張ってるんだ。

 しかもキッカケは公爵家の希望で結ばれた婚約を、公爵家が勝手に破棄したこと。

 しかも、当事者はジェードと、オレ!

 ダメだ!こんなの他国に報告できない。

 現状と他国への依頼で頭を悩ませてると、ジェードがジッとオレを見つめてるのに気づいた。

「何だ?」
「リア、僕の事、軽蔑する?」
「へ?何で?」

 軽蔑どころか、申し訳なさと、感謝しかない。

「だってさ、僕は、1人の令嬢の未来を奪ったんだよ?」
「ジェード…」
「とても良い子だったんだ。いつも前向きで、賢くて、リアみたいに周囲への気遣いがすごくて…」

 ジェードの声が詰まる。懸命に泣きそうになるのを堪えてるのが分かった。まるで小さな子みたいに。

 かろうじて、動く両腕でジェードの頭を抱き寄せた。涙が見えない様、オレの胸を貸してやる。

「オレにその令嬢の良さは分からないよ。でも何か理由があってした事だろ?」
「うん。彼女からその日、どうしても破棄して欲しいってお願いされたんだ。きっと何か事情があったんだと思う」
「……そうだよ。だからさ、もしかしたら令嬢は今頃自由を謳歌してるかもしれないだろ?」
「…へ?自由?」

 予想外の意見にジェードが変な声を出して顔を上げた。

「例えばだよ。ジェードが婚約破棄した事で、彼女が救われたと感じてる部分もあるかもしれないって話」

 オレはまたジェードの頭を胸に引き寄せた。

「だからさ、もう自分を責めるなよ」
「……っ」

 ジェードは何も言わなかった。ただ静かにオレの胸で泣いてる。オレも無言で、ただその頭を撫でてやる。

 そう。ジェードは悪くない。

 悪いのは、全部、オレだから。

「リア…何で泣いてるの?」
「…泣いてない」

 気づけばオレの目からも涙が流れてた。泣く資格なんて、ないのに。

 ジェードがちょっと身体を起こしてオレの目元を拭った。自分だって泣いてるくせに。

 ジェードの綺麗な顔が近づいて来て、オレの目元にそっと口づけた。

 まるでオレの涙を、苦しみを救う様に。

 ジェードと視線がぶつかる。子供の時から見ている柔らかい緑の瞳が潤んで。その目尻から涙が溢れた。

 今度はオレがその涙を救う様に、ジェードの目元に口付ける。

 そしてまた、視線が絡むー。

 まるで互いが吸い寄せられる様に、オレとジェードは唇を重ねた。



 ジェードの唇は柔らかくて。ふに、と弾力があった。

 気持ち良い。そう感じる。ただ触れただけなのに。何だか気持ちが通じ合うみたいで。

 もっとしたくなった。

 無意識にジェードの服を掴む。

 ジェードが再び唇を重ねてきた。ふに、という柔らかさと、微かにリップ音がした。

 それが耳を刺激して。甘酸っぱい気持ちが胸に広がる。

 この感情を何て呼ぶのか、分からない。

 だけど、胸がいっぱいで、なんだかまた泣きたくなって、少し、身体が震えた。

 オレが微かに震えたのに気づいたのか、ジェードはチュッとリップ音を鳴らして、またキスしてきた。

 そして。唇から、頬、おでこ、瞼。いたる所に、口づける。その度に、オレは溢れそうになる感情に身体が震えた。

「ジェード…」
「…なに?」

 優しい瞳がオレを見つめる。この視線を独り占めしたい。そんな自分の気持ちに戸惑う。

「…何でもない」
「ふふ、どうしたの?赤くなってるよ」
「言うな」

 拗ねて離れ様としたオレを。今度はジェードが抱き寄せた。さっきまでと体勢が逆転して、すっぽり奴の腕の中に収まる。それがちょっと悔しくて。不思議と安心した。

 ジェードがオレの顎に手をかけて、持ち上げる。またキスされる。そう思ったけど。全然嫌じゃ無くてー。

 オレは目を閉じて、されるがままジェードを受け入れた。
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