婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林

文字の大きさ
上 下
43 / 75
第三部 乙女ゲーム?高等部編

10

しおりを挟む
 翌朝起きたら、何故か同じベッドにジェードが寝ていた。

 びっくりしすぎて、目玉が飛び出るかと思った!

「おい、ジェード、起きろ。朝だぞ?」
「んん、もう朝?」

 ジェードが目を擦りながら上半身を起こす。

「何で、お前ココにいるんだよ」
「昨日、泊まるって言ったでしょ?」
「なら、食堂のソファがあるだろ?もしくは、お前がこっちに寝て、オレがソファとか…」

 必死に話すオレを、ジェードはジッと見てる。何かを探るみたいに。

「な、なんだよ」
「昨日少し肌寒かったでしょ?だから一緒に寝たかったんだ」
「肌寒かったって…」

 そういえば、昨日、背中から温もりを感じたような。まるで後ろから誰かに抱きしめられてる様な…。

 目の前のジェードはラナから借りたのか、軽装のシャツとズボンになっていた。大きく開いた胸元からは均整の取れた胸元がはだけていて、何だか、とても…。

 馬鹿、オレ、何考えてんだ!

 ものすごく恥ずかしくなって、オレは顔を背けた。顔が熱い。もしかしたら真っ赤になってるかも。

 気のせいかジェードが笑った気配がした。でも恥ずかしく、見れない。

「鈍いリアには、この位しないとダメなんだね」
「な、何だよ、鈍いって」
「何でもないよ。朝ごはん、食べに行こう」

 ジェードが先にベッドを降りて、手を差し出してくる。何だかドキドキしながら、その手を取った。

 ……何でオレドキドキしてるんだろう?

 不思議に思いながら、ジェードに連れられて食堂に行くと、何故かソファにラナが寝ていた。

「ラナ?何でココで寝てんの?」
「…んん、もう朝かよ。ふわぁ」

 ラナが背伸びしながら、チラリとコッチを見て来た。

「んー?その様子じゃ実ったのかな?」
「残念まだ。でも意識はしてもらえたかも」
「何が?」

 2人の会話がよく分からない。

「何でもねえよ。それより制服じゃ無いとダメだろ」
「そうだった」

 寝室に戻ろうとすると、ツンと何かに引っ張られて…。見ると、ジェードと手を繋いだままだった。

「…ジェード、手、離してよ」
「僕も一緒に行っていい?着替えるの手伝うよ?」
「なっ…子供じゃないんだから、手伝いなんかいらないしっ!」

 恥ずかしくなって、パッと手を振り払って、逃げ出した。何なんだよ!もう!

 寝室に駆け込んでドアを閉める寸前。笑ってるラナの声が聞こえてきた。

「だから言ったろ?露骨にアピールしてちょうどいい位だって」

 何の事かは分からないけど。何だか、気恥ずかしかった。



 3人で食堂で朝ご飯を摂った。学生の姿はまだまばらだ。食堂のおばちゃんは今日も元気で、おかずを一品多くしてくれた。ラッキー。

 食事の後は、ジェードは授業だからと帰って行った。

 さて、今日は今日とて、仕事を頑張るか。

 暇な裏門警備。交代で素振りや剣の練習などもしながら、時間が過ぎるのを待つ。

 てか、これだと、いつまで経っても、情報収集なんか出来ないぞ!

「なぁ、情報収集の為にちょっと歩き回った方がいいかな」
「そうだな。だけど、あまりウロウロしてると目立つしな…」
「こんにちは~」

 突然、男にしては高めの声がした。

 振り返ると、オレンジのふわふわ髪と、目がくりんとした可愛い少年。スペッサがいた。

 いつの間に?全然気配がしなかった!

「こ、こんにちは。今は授業の時間じゃないんですか?」
「ボク優秀だから、もう先生から教わる事が無いんだ~。だから暇してて、遊びに来ちゃった~」

 まるで語尾にハートがついていそうな可愛さで、コテとスペッサが首を傾げた。

 相変わらずの、あざとい可愛さ。なのに、オレは違和感を覚える。

 温かみのあるスペッサのオレンジの瞳が、全く笑っていなかった。

「あれ?アンタ…前に孤児院に来てくれた貴族様だよな?」

 ラナが、スペッサの顔を見て思い出した様に言った。

「ん~?一回だけあるよ?」
「やっぱり。アンタが来た時にオレもあの場にいたんだ」
「あ~もしかして、シレネのお友達?」

 また、コテと首を傾げた。

 話し方や仕草は、前のスペッサのままなのに。目や声に感情が感じられない。何だか、本心を隠して、演技してるみたいでー。

 何だか不気味だった。

「そうだ。オレとそっちのリアはシレネと仲良いぞ」
「ふ~ん。じゃあ、彼女最近『遣わされし聖なる乙女』の訓練がうまくいってないみたいだから、元気づけてあげたらいいよ~」
「…そうなのか?」
「まぁ~、あんな事があったら、仕方ないよね?」

 ふふ、とスペッサが笑う。相変わらず目は全く笑って無い。

「あんな事って…」
「聞いてない?3年前の令嬢の失踪事件」
「卒業パーティーの事件てやつ?」
「そう!」

 それだよ~と、楽しそうにスペッサが両手の人差し指をくるんくるんと回す。

「だってさ~、ヴィラは、シレネの為に自分が悪役になってさ~、マナーとか?貴族の常識とか?教えてあげてさ~。なのに、卒業パーティーの日に、みんなの前で婚約者のジェードから婚約破棄されたんだよ~?」
「……」
「でさ~、その後、泣きながら広間から出て行って、何者かに誘拐されて、血のついたドレスが発見されたなんてさ~。報われないよね~、ハハハッ!」

 スペッサがおかしそうに笑うけれど、オレとラナは何がおかしいのか、理解できない。まるで、精神が壊れてる様な、不気味さを感じる。

「だから、さ~、ジェードも~、シレネも~、王子も~、メガネ君も~、幸せになっちゃダメだと思うんだよね~」
「ーなっ」
「あ~、でも、シレネはヴィラが妹みたいに気にかけてたから、大目に見てあげるね~」

 良かったね~、君たち~、と手を振りながら、スペッサは帰って行った。

「なぁ、あいつヤバくないか?」

 ラナの言葉にオレも無言で頷いた。

 ジェードと、王子と、メガネは幸せになっちゃダメ。まさか、あの無邪気なスペッサから、そんな言葉が出るなんて。

 なまじ、魔術の天才なだけに、オレの背筋に冷や汗が流れる。

 3年前のオレの失踪事件が、元友人達にこんな影を落としてるなんて。改めて、オレは自分のしでかした事の重大さを理解し始めていた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...