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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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 翌朝起きたら、何故か同じベッドにジェードが寝ていた。

 びっくりしすぎて、目玉が飛び出るかと思った!

「おい、ジェード、起きろ。朝だぞ?」
「んん、もう朝?」

 ジェードが目を擦りながら上半身を起こす。

「何で、お前ココにいるんだよ」
「昨日、泊まるって言ったでしょ?」
「なら、食堂のソファがあるだろ?もしくは、お前がこっちに寝て、オレがソファとか…」

 必死に話すオレを、ジェードはジッと見てる。何かを探るみたいに。

「な、なんだよ」
「昨日少し肌寒かったでしょ?だから一緒に寝たかったんだ」
「肌寒かったって…」

 そういえば、昨日、背中から温もりを感じたような。まるで後ろから誰かに抱きしめられてる様な…。

 目の前のジェードはラナから借りたのか、軽装のシャツとズボンになっていた。大きく開いた胸元からは均整の取れた胸元がはだけていて、何だか、とても…。

 馬鹿、オレ、何考えてんだ!

 ものすごく恥ずかしくなって、オレは顔を背けた。顔が熱い。もしかしたら真っ赤になってるかも。

 気のせいかジェードが笑った気配がした。でも恥ずかしく、見れない。

「鈍いリアには、この位しないとダメなんだね」
「な、何だよ、鈍いって」
「何でもないよ。朝ごはん、食べに行こう」

 ジェードが先にベッドを降りて、手を差し出してくる。何だかドキドキしながら、その手を取った。

 ……何でオレドキドキしてるんだろう?

 不思議に思いながら、ジェードに連れられて食堂に行くと、何故かソファにラナが寝ていた。

「ラナ?何でココで寝てんの?」
「…んん、もう朝かよ。ふわぁ」

 ラナが背伸びしながら、チラリとコッチを見て来た。

「んー?その様子じゃ実ったのかな?」
「残念まだ。でも意識はしてもらえたかも」
「何が?」

 2人の会話がよく分からない。

「何でもねえよ。それより制服じゃ無いとダメだろ」
「そうだった」

 寝室に戻ろうとすると、ツンと何かに引っ張られて…。見ると、ジェードと手を繋いだままだった。

「…ジェード、手、離してよ」
「僕も一緒に行っていい?着替えるの手伝うよ?」
「なっ…子供じゃないんだから、手伝いなんかいらないしっ!」

 恥ずかしくなって、パッと手を振り払って、逃げ出した。何なんだよ!もう!

 寝室に駆け込んでドアを閉める寸前。笑ってるラナの声が聞こえてきた。

「だから言ったろ?露骨にアピールしてちょうどいい位だって」

 何の事かは分からないけど。何だか、気恥ずかしかった。



 3人で食堂で朝ご飯を摂った。学生の姿はまだまばらだ。食堂のおばちゃんは今日も元気で、おかずを一品多くしてくれた。ラッキー。

 食事の後は、ジェードは授業だからと帰って行った。

 さて、今日は今日とて、仕事を頑張るか。

 暇な裏門警備。交代で素振りや剣の練習などもしながら、時間が過ぎるのを待つ。

 てか、これだと、いつまで経っても、情報収集なんか出来ないぞ!

「なぁ、情報収集の為にちょっと歩き回った方がいいかな」
「そうだな。だけど、あまりウロウロしてると目立つしな…」
「こんにちは~」

 突然、男にしては高めの声がした。

 振り返ると、オレンジのふわふわ髪と、目がくりんとした可愛い少年。スペッサがいた。

 いつの間に?全然気配がしなかった!

「こ、こんにちは。今は授業の時間じゃないんですか?」
「ボク優秀だから、もう先生から教わる事が無いんだ~。だから暇してて、遊びに来ちゃった~」

 まるで語尾にハートがついていそうな可愛さで、コテとスペッサが首を傾げた。

 相変わらずの、あざとい可愛さ。なのに、オレは違和感を覚える。

 温かみのあるスペッサのオレンジの瞳が、全く笑っていなかった。

「あれ?アンタ…前に孤児院に来てくれた貴族様だよな?」

 ラナが、スペッサの顔を見て思い出した様に言った。

「ん~?一回だけあるよ?」
「やっぱり。アンタが来た時にオレもあの場にいたんだ」
「あ~もしかして、シレネのお友達?」

 また、コテと首を傾げた。

 話し方や仕草は、前のスペッサのままなのに。目や声に感情が感じられない。何だか、本心を隠して、演技してるみたいでー。

 何だか不気味だった。

「そうだ。オレとそっちのリアはシレネと仲良いぞ」
「ふ~ん。じゃあ、彼女最近『遣わされし聖なる乙女』の訓練がうまくいってないみたいだから、元気づけてあげたらいいよ~」
「…そうなのか?」
「まぁ~、あんな事があったら、仕方ないよね?」

 ふふ、とスペッサが笑う。相変わらず目は全く笑って無い。

「あんな事って…」
「聞いてない?3年前の令嬢の失踪事件」
「卒業パーティーの事件てやつ?」
「そう!」

 それだよ~と、楽しそうにスペッサが両手の人差し指をくるんくるんと回す。

「だってさ~、ヴィラは、シレネの為に自分が悪役になってさ~、マナーとか?貴族の常識とか?教えてあげてさ~。なのに、卒業パーティーの日に、みんなの前で婚約者のジェードから婚約破棄されたんだよ~?」
「……」
「でさ~、その後、泣きながら広間から出て行って、何者かに誘拐されて、血のついたドレスが発見されたなんてさ~。報われないよね~、ハハハッ!」

 スペッサがおかしそうに笑うけれど、オレとラナは何がおかしいのか、理解できない。まるで、精神が壊れてる様な、不気味さを感じる。

「だから、さ~、ジェードも~、シレネも~、王子も~、メガネ君も~、幸せになっちゃダメだと思うんだよね~」
「ーなっ」
「あ~、でも、シレネはヴィラが妹みたいに気にかけてたから、大目に見てあげるね~」

 良かったね~、君たち~、と手を振りながら、スペッサは帰って行った。

「なぁ、あいつヤバくないか?」

 ラナの言葉にオレも無言で頷いた。

 ジェードと、王子と、メガネは幸せになっちゃダメ。まさか、あの無邪気なスペッサから、そんな言葉が出るなんて。

 なまじ、魔術の天才なだけに、オレの背筋に冷や汗が流れる。

 3年前のオレの失踪事件が、元友人達にこんな影を落としてるなんて。改めて、オレは自分のしでかした事の重大さを理解し始めていた。
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