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第三部 乙女ゲーム?高等部編

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「そろそろ授業だから戻るってよ」

 警備室の奥から戻ったオレに、ラナがジェードの行き先を教えてくれた。

「そう」

 オレはもう平民だから教室には行けない。だから、ジェードが会いに来ない限り、オレ達はもう会えない。

 昔とはもう違うんだ。

 それが今のオレとジェードの立場だ。



◇◇◇



 仕事の内容は簡単だった。
 ほどんど人の出入りの無い裏門をひたすら警護する、果てしなく暇な仕事でもあった。

「よく考えたら食料ないな」
「そうだね」

 昼過ぎ。そろそろ昼飯にするか、と話してて気づいた事。

 キッチンはあれど食材が無い。

「学食で調達できるか聞いてみようか」
「そうだな。お前の方が適任だから任せた」
「わかった」

 ちょっと背が低いオレだけど。やっぱり顔だけは超絶イイらしい。

「食材だけでいいの!?お腹空いたでしょ?これも持って行きなさい」

 少女の様に頬を赤らめた食堂のおばちゃんがが、袋いっぱいの食材と。昼飯を装って渡してくれた。

 それにオレはキラキラスマイルをイメージしながらお礼を述べる。

「ありがとうございます」
「いいのよ、また来なさいな」

 普段、顔を隠すオレだけど、こういう交渉事には便利だ。

 沢山の戦利品にホクホク顔で裏門へ向かう途中。魔法練習場の側を通った。

 ドカン、と音がする。誰かが威力の高い魔法を使ってるみたいだ。ちょうど囲まれた壁を抜けて出入口の側を通り過ぎる時ー。

「危ない!よけて~!」

 少し高めの男の声がして横を見れば、いくつかの小さな火の玉が飛んでくる所だった。

 オレはもらった料理で両手が塞がっていて、咄嗟に魔法玉を出せなかった。だから直接無詠唱で土と氷を組み合わせた壁を作り出す。

 ギリギリで作り上げた防御壁に当たって、火の玉は消滅した。氷とぶつかったせいか辺りに水蒸気が立ち込める。

 蒸気のモヤの中、奥から小柄の男がやって来た。

「ごめんね~。むしくしゃして、魔法ぶっ放してたら、珍しく暴走しちゃって~」

 ふわふわのオレンジの髪に、かわいいオレンジの大きな目。間違える筈もない。友人のスペッサだった。

「あれ?君見たこと無いや。もしかして新しく来た警備の人~」
「…はい」
「すごいね。君、氷と土の2属性もあるんだ~。しかも無詠唱なんて」

 さっきの一瞬の出来事で、オレの練り出した魔法を解析して見せた。さすが魔術師界の秘蔵っ子。

「冒険者はそれが普通ですから。では失礼します」

 長居は無用とオレは一礼してその場を歩き出す。後ろからスペッサが声をかけてきた。

「ねえ!もしかして、冒険者のリアって君?」
「そうですが、何故ですか?」
「ふーん。ジェードがずっと探してたのは君だったんだね~」

 ジェードがずっと探してた。その言葉に何だか気恥ずかしくなる。

 オレはもう一度頭を下げて、その場を逃げる様に走り去った。



◇◇◇



 昼飯を交代で食べた後、再び暇な仕事に戻った。学生達が帰るまでが警備の時間だ。

 生徒が下校すれば警備は終わり。あとは別で巡回している警備がいるらしい。

「夕飯どうする?」
「学食行こうか。情報収集しないといけないしね」

 夜。仕事が終わってから、ラナと2人で学食へ向かった。

 学校長からは制服姿であれば、無料で学食を利用して良いと許可を得ている。

 この時間、学生寮の生徒がいるから噂話くらいは聞けるだろう。

 狙い通り、学食はなかなかに賑わっていた。さっきの食堂のおばちゃんに挨拶して、それぞれ好きな料理をとって席についた。

 聞こえてくる噂話に耳を澄ます。

 授業の事、恋愛話、人間関係の悩み、etc。

 なかなか有益な情報が無い。

 初日は収穫無しか。気を取り直して食事を再開してると。食堂の入口が騒がしくなった。

 数人の学生と、付き添いの護衛が中に入って来たみたいだ。その集団がどんどん近づいて、何故かオレらの側で止まった。

「……」

 ただでさえ目立ちたくないのに、一体何なんだ?

 不思議に思って手を止めて顔を上げれば。

 金髪に緑の目の凛々しい顔立ちの男が立っていた。側に茶髪茶目のピカリと光るメガネをつけた奴もいた。

 間違え様もない。

「ネフ…と、メガネ?」

 オレが思わず呟いた言葉に、護衛達が殺気だった。

「貴様、王子を呼び捨てにするか!」
「よい。彼には許している」

 ネフリティスが手を軽く上げて護衛を静めた。いつの間にか、王子の登場と不敬な平民の存在に、食堂が静かになっていた。

 みんながこっちを注目してるのが分かる。

 そんな中、ネフリティスがフッと笑顔を浮べた。

「リア。久しいな。あの時は私の生命を守ってくれた事、感謝する」
「あ、ああ」
「ずっと、こうやってお礼を述べたかった」
「もう、気にすんなよ」

 護衛達が、オレの口調に、不敬だと騒ぎ出してる。そんな事言われても、唐突すぎて、敬語なんか吹き飛んだよ!

 スッと1人の護衛が前に出た。口元に髭を蓄えた、壮年の騎士だった。位が高そうだ。

 他の護衛達が楽しそうに成り行きを見ている。オレが注意されるのを期待してるみたいだ。

 そいつが、何故かオレの前に膝を折った。
 
「私は当時、王子の護衛をしていた者だ。あの時の君の勇気は尊敬に値する。私達の代わりに王子を守ってくれた事に感謝する」
「は、はい」

 壮年の騎士の言葉に、何人か思い当たった奴がいた様だ。ハッとした顔で、同じ様にオレに対して膝を折った。

「君はあの時、身を挺して王子を守った子だな」
「生きてたのか、本当に良かった!」

 騎士達の様子に、食堂のみんなも、ザワザワし出した。そりゃそうだ!貴族の騎士が平民に感謝を示してるのだから!

「皆さん、お立ちください」

 慌ててオレは騎士のみんなに、膝を折る体勢を止めてもらった。騎士達が立ち上がる。

「皆さんからの感謝は受け取ります。でも、あの時のオレは一国民、一冒険者として当たり前の事をしただけです。だから、この話はもうこれで終いです」
「君は…」

 オレの言葉に、何故か騎士達は感動したみたいだ。何で?一国の王子のピンチなら、みんなだって同じ事するよね?え?するよね?

 それまで空気だったメガネ君がネフリティスに囁いた。

「ネフ、彼ならいいんじゃない?」
「あぁ」

 何故か2人顔を合わせて頷いている。

 オレの経験上、この2人のこういう態度は、嬉しくない状況を呼び寄せる。

 …主にヴィラトリアにとって。

 そして、案の定、それは的中した。

「リア。私の護衛騎士にならないか?」
「へ?」

 ネフの護衛?王子の護衛は要職だ。平民のオレにそんな声かけがある訳ない。そうある訳…。

「お前の様な立派な志しを持つ若者をただの冒険者にしておくのは惜しい。貴族ほどは無理でも、それなりの年俸は払うつもりだ」

 ある訳あった!

 やっと脱貴族したのに、ネフの護衛なんかになったら、貴族の巣に乗り込む様な物だ。

 どうしよう、どうしよう。

 王子に直接誘われたのに断っていいのか?でも、もう自分を隠して、身分に縛られたくはない。

「ネフ、そこまでにして」

 オレに救いの手を伸ばしくれたのはー。

「ジェード?どうしたんだ、珍しいな」
「ネフこそ。何でココにいるの?」

 夕食を手にしたジェードだった。
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