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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

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 そもそも、男同士のオレとジェードが何故婚約したのか。

 また、婚約解消したにも関わらず、何故こんな熱い告白を受ける事になったのか。

 それは、オレの幼少期の特殊な生い立ちに、原因がある。



◇◇◇



 オレが前世の事を思い出したのは6歳の時だった。

 邸内の噴水を覗き込んだ時に足を滑らせて溺れて、高熱を出してうなされていた時。突然、前世の記憶の数々が蘇ってきたんだ。

 20代前半くらいの時に、道路に飛び出た子犬を助けようとして、トラックにつっこまれて事故に遭った。それを思い出した。

 そっか、あの時、オレ死んじゃったのか。

「……」

 悲しい、辛い、という気持ちが湧き上がる。と同時に、新しい生を受けたんだという感謝の気持ちもあって、頭の中がグチャグチャになった。

 ベッドに横たわったまま、腕で目を押さえても、涙が止まらない。

「……っ、ひっく、ないても、しかたないのに」

 こうなったら今の人生を全うするしかない。

 そこまで考えて、オレはふと気づく。重大な事に。

 ガバっとベッドから飛び起きたオレは、ふらふらしながら、部屋の大鏡に自分を映し出した。

 サラサラの長い銀髪に。
 キラキラした紫の瞳。
 白く美しい透明感のある肌。
 ぷっくりした桜色の唇。

 ものすごい美少女、いや美幼女がそこにはいた。

 侯爵令嬢ヴィラトリア・トルマリン。

 それが今のオレだ。ヴィラトリアとしての記憶だってちゃんとある。

 だが、その記憶の中に、前世の記憶を思い出したからこそ感じる違和感があった。

 恐る恐る、オレは鏡の前でパジャマのワンピースをたくし上げ、下着を下ろすとー。

「ギャアーーー!」

 オレは令嬢らしからぬ声を上げて、そのまま気絶した。それ位にショックだったから。

 だって。だって。

 オレの股下には、まだまだ小さくはあるけど。明らかな男性の印があったんだもん。



◇◇◇



 オレが意識を戻した時、再びベッドに寝かされていた。側には、今世の母親が付き添っていた。

「ヴィラちゃん?大丈夫?」

 銀髪に麗しき紫の瞳をした小柄で儚げな美人。それが今のオレの母親。

 そんな彼女にオレは、今1番聞きたい事を突きつけた。

「おかあ様。ワタクシ、おとこのこですの?」
「っ!どうして、それを」

 母親は明らかに顔を青ざめてさせて、ブルブルと震え出した。

「どうして、おとこのこなのに、おんなのこのカッコウをしてるんですの?」

 誤魔化せないと母親は悟ったのか、涙ながらにオレを女の子として育てている理由を語った。

 母親の立場は愛人。既にトルマリン家には正妻の産んだ嫡男が存在している。そんな中、年の近いオレが産まれた。

 後継ぎ問題によっては、オレや母親が危険に晒されるかもしれない。

 だから母親はオレを女の子として父親に申告して、離れの館でこっそり育てる事にしたらい。

「…………」

 事情だけ聞けば、仕方ない様にも思える。

 けれど。

「ジェード様とのこんやくは?」
「それが想定外なのよね。どうしたらいいのかしらね」

 母親は困ったように笑った。

 どうしよう。

 うちの母親はアホかもしない。

 先日、オレはトルマリン家の娘として、ネフライト家のジェードと正式に婚約を結んだ。

 貴族間の婚約なんだから、きっと政治的な事情だよね?

 なのに。なのに。

 これって、オレ、立派な結婚詐欺だよね?

「……ひっく」
「ヴィラちゃん、泣かないで、きっとどうにかなるわよ」

 どうにかなるか~!

 心の中でオレは叫んだ。
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