上 下
35 / 75
第三部 乙女ゲーム?高等部編

しおりを挟む
 3年ぶりの故郷の王都は『活気が無い』その一言に尽きた。

 この国の王都は城を奥に配置し、貴族街、平民街、貧民街と広がっている。

 どの国でもその国の様子を知るには、平民街を探るのが一番だ。一番人口比率が多いからな。

 その肝心の平民街は、疲労感に包まれている。そんな印象だった。

 ラナと相談して情報収集も兼ねて、懐かしの孤児院へ向かった。

「ラナ、リアもすっかり大きくなって」

 迎えてくれたのは院長シスターだった。オレとラナをハグで快く迎えてくれた。相変わらずの包容力オーラがハンパない。

 オレ達はお土産代わりに道中で得た肉や野菜を提供した。それからオレ達が居なくなってからの3年間の王都の状況を教えてもらった。

 どういう訳か貴族間で対立する派閥が表面化して、王族も巻き込んで足の引っ張り合いをしているらしい。でも原因までは分からず、それが王都中をピリピリさせてるんだとか。

 王都近辺の魔物討伐もあまり進んでいないらしく、国全体の魔物対策もゴテゴテに回ってるらしい。

 王族や騎士団は何をやってるんだ。仕事をしない国に対して、イライラが募る。多分、この街のみんなもそんな風に感じてるんだろう。

「遣わされし聖なる乙女は?」

 ラナが1番気にしていた事を院長シスターに尋ねた。乙女はピンクの髪にピンクの目の子爵令嬢。これは既に周知されている。

「噂によると、普通の聖属性魔法は問題ないけど、肝心の悪しきエネルギーへの浄化と回復系の上級魔法に苦戦してるらしいわ。今では正教会に篭り修行されてるらしいけど」
「浄化魔法…修行」

 悪しきエネルギーの浄化には、莫大な聖なる力が必要とされている。本来なら大勢の聖職者の力が必要だ。それをたった1人でこなしてみせるのが、遣わされし聖なる乙女の能力だと言われてる。

 だけど、このゲームに修行要素なんてあったかな?

 妹はただ、選択でルートの選ぶだけの簡単なゲームだって言ってた。確か、好きな人と心を通じ合わせるだけで能力が開花したと思うんだけど…。

「これだけだと、情報が少ないな」
「確かにな」

 ラナと頭を悩ませる。この程度の情報で隣国の指名依頼を果たせるとは思えない。

「ならギルドに行ってみたら?最近は貴族側からの依頼を増えてるらしいわ」
「ギルドか、行ってみるか」

 院長シスターのアドバイスに、オレ達は早速ギルドへ向かった。



 ギルドは相変わらずの混み具合だった。そんな中、依頼を見ているといきなり肩を掴まれた。この街のギルド長だった。

「リア坊か!?久しぶりだな!」
「ギルド長?急にどうして…」
「とりあえず大事な話がある!こっちこい!」

 ギルド内の奥の部屋に、ラナ共々連れ込まれた。さっそくだが、とギルド長が用件を述べてきた。

「お前らがいなくなってから、リア坊を探してるという依頼が、貴族から2件も上がってんだ。お前、何やらかしたんだ?」

 そう言ってギルド長から見せられた依頼書は、3年位前に出されていた物だった。黒目黒髪のリアという少年を探してると書かれていた。依頼主はー。

「ネフリティスとジェード!?何で!?」
「馬鹿!相手は王族と公爵家だぞ!様をつけろ!」

 オレの素性を知らないギルド長に叱られた。その様子を見てラナが助け舟を出してくれた。

「落ち着けよギルド長、大丈夫だ。公爵家は知らねえけど、王族の方は、以前にリアが身体を張って王子の危機を救ったんだ。だから悪いようにはならねえよ」
「…本当か?」

 ギルド長は訝しんでるが、オレが本当です、と頷くと、とりあえずヤバい案件では無いとわかってくれたみたいだ。

「なら、2人に伝えても平気か?」
「出来れば貴族には関わりたく無いな」
「こっちも依頼が出てるから無視する訳にはいかないんだ…なら、これはどうだ?」

 もう一枚の依頼書を見せられる。

 内容は貴族学校からで、腕のたつ冒険者を数名、学校の防衛で募集しているという物だった。

「貴族学校?騎士団がいるんじゃないの?」
「リア坊は詳しいな。そうなんだが、最近は魔物が活発化してるからな。騎士団は討伐に数を裂かれてるんだ。だが貴族学校の守りを疎かにもできねーだろ?だから体裁を守る為にもこんな募集を出しているんだ」

 ギルド長の提案は、オレにこの依頼を受けろという事だった。

 オレを王族、公爵、どちらかに連れて行けば残りに角が立つ。

 なら貴族学校の護衛についたと報告だけすれば、2人は学生だから会おうと思えば会えるし、一気に3つの依頼を消化できるんだとか。

「それに隣国からの依頼あんだろ?情報収集にはうってつけだろ?」

 ギルド長がニヤリと笑った。こういうやり手だからこそのギルド長なんだろうな。

「ラナ、お前も行くか?」
「もちろん」

 確かに貴族学校なら、きっと情報収集に役立つだろう。オレとラナは貴族学校の護衛を受けた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

処理中です...