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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 月日が経つのは、あっという間だ。

 とうとうオレは15歳を迎えた。

 お父様やライバンが盛大に祝おうと言ってくれたけど。オレは丁重に断った。

 貴族学校に入学して3年。いまや、すっかり学校内でも浮いた存在だ。スペッサやトンガリ君、ジェードとも距離が空いてる。

 だから、呼べる友人もいない。寂しいけどね。

 そして、更に月日は経ち、もうすぐ卒業パーティーを迎える。そこで婚約破棄をしてもらって。

 オレはそのまま行方をくらますんだ。

 その為の準備も沢山してきた。お金も貯めて、冒険者として生きる術も磨いた。

 だから。少しでも未練は残したくないんだ。



◇◇◇



 孤児院の扉を開けると、よう、とラナが手を上げて迎えてくれた。

 今では、オレの居場所はココくらいしか無い。本当の自分でいられる、第二の家みたいだ。

「出発に必要な物はあらかた用意できたぜ」
「良かった。オレの方も予定通り、来週には出発出来るよ」
「あぁ、楽しみだな」

 最近のラナとの話題は、2人で計画してる旅についてだ。ラナは17歳。オレは15歳。そろそろ、遠くへ旅をしてもおかしくない年だからな。

 コンコンとノック音がして、孤児院に入って来た奴らがいた。

 オレと同じ年頃の少年が3人と、数人の護衛騎士だった。

「リッチ…?」

 ここ1、2年、この場所に姿を見せなかったリッチだった。

 今ではすっかり逞しくなって、身長も170cm近い。顔立ちも凛々しさが備わってきていた。

「久しぶりリア。元気だった?」

 泣きそうな、でも嬉しそうな笑顔で、リッチは近づいて来た。

 リッチの。ジェードの笑顔を正面から見たのは本当に久しぶりで。オレは何だか胸がいっぱいで、言葉に詰まってしまった。

「おいおいリッチ、私達は紹介してくれないのか?」

 聞き覚えのある声に、帽子越しに目線を向けると。茶髪に茶色目の意地悪そうな顔立ちのイケメン少年と、黒目黒髪のメガネの少年がいた。

 ピカリと光るメガネがあまりにも特徴的なせいで、すぐに気づいた。メガネ君だって。なら側にいるのはネフリティス様だ。

 オレは自然と身体が強張る。彼への苦手意識はいまだに拭えて無かった。

「悪かったよ。リア、ラナ。僕の友達を紹介するね。ネフとメガネだよ」

 メガネ、に危うく吹き出しそうだった。多分偽名にしたかったんだろうけど。

「メガネ?そのまんまだな」

 ラナの言葉に、また吹き出しそうになる。でもお陰で、緊張は解れた。

 大丈夫。ココでは令嬢のヴィラトリアじゃない。普通のいつものオレでいいんだから。

「リアだ。よろしく」
「俺はラナだ。こっちのリアとパーティ仲間だ」

 オレ達の名前を聞いてから、ネフとメガネもよろしくと言って来た。

「リッチ今日はどうしたの?」
「あ、ああ。オレの大事な…パーティ仲間を紹介したくて」

 ほんのりリッチの頬が赤い。数年ぶりだからかパーティ仲間って言うのが恥ずかしいのかも。

「今日はこれから冒険に行くのか!?私はギルドも見たい!」
「ネフ落ち着け!」

 興奮気味のネフを、メガネが抑えてる。多分、ギルドなんか行く機会が無いから興奮してるんだろう。

「いや、今日はー」
「これから向かうよ。な、ラナ」

 オレは慌ててラナの言葉に被せた。本当は今日は買い物や打ち合わせに時間をあてるつもりだった。でも。オレが旅に出る事は、何となくリッチには内緒にしておきたかった。

 止められたら、迷ってしまいそうだったから。

 そんなオレの気持ちを察してくれたのか、ラナはじゃあ行くか、と腰を上げた。

 そして、みすぼらしい少年のオレら2人と、立派な身なりの少年3人と、立派な護衛騎士というアベコベな組み合わせで、ゾロゾロとギルドに向かったのだった。



◇◇◇



「はっはっは!そら行け!」

 ネフから放たれた凄まじい炎の渦たちが、熊を丸こげにした。そこに、太い土槍が襲ブッ刺さって、熊は倒れた。

 森に入るなり、護衛達の言う事も聞かず、ネフが魔法をぶっ放す。ぶっ放す。お前もやれと言われ、メガネ君も土魔法の中魔法をぶっ放してた。

「…これ俺らいらないだろう」

 ラナが呆れてる。それもその筈。

 貴族でも位の高い奴らなら、魔法の性能も魔力量も桁違いだ。魔法の使えないラナや、ショボイ魔法しか使えないオレなんかお呼びじゃ無い。

「ごめんね。あの2人も普段からウップンが溜まっててさ」

 リッチが申し訳なさそうに謝ってきた。

 その言葉に、オレはちょっとの違和感を感じる。

「見てる分にはネフはそんな気疲れしそうにないけど。メガネは何かこき使われてそうだね」
「ははっ、確かに」

 リッチが思い当たる節があったみたいで、楽しそうに笑った。

「確かにメガネはこき使われてるかもね。でもネフも色々さ、僕の為とか、周りの為とか、意外に気遣いしてくれるんだ」
「ふーん」

 正直、ネフやメガネの事は興味が無かった。オレから…ヴィラトリアから、親しかった人を奪って孤立させた人間。そんな風に見えてたから。

 隣を歩くリッチが、でも、と話を続けてきた。

「それも、もうすぐ落ち着きそうなんだ。僕もやっと役割から解放される」
「役割?」
「うん。ずっと嫌で嫌で仕方なかったんだけどね。来週にはカタが付きそうなんだ」

 ドキリとした。

 来週、カタが付く。きっと婚約破棄の事だ。

 『嫌で嫌で仕方なかった』

 リッチの言葉が頭で反芻する。

 そんなに嫌だった? 少なくともオレは、相手がお前で良かったと思ってた。

 婚約解消の話をしたあの日から、勝手に同じ目的を持った戦友みたいな気持ちでいたし。目的の為とはいえ、学校内で距離ができた事に淋しさを感じてた。

 でも、お前はそうじゃなかったんだな。

 気持ちが暗く沈む。

「ねぇ来週、大事な話があるんだけどー」

 リッチがまだ何か言ってたけど、頭には入って来なかった。

「王子!逃げて下さい!」
「それは魔物です!」

 突然、護衛達が叫んだ。控えていた護衛騎士達が、ネフリティスを守る様に前に躍り出る。

 正面には、土槍が刺さった状態にも関わらず、立った状態のウルフがいた。

 いや、頭に歪な形で角が生えているから、正確には悪しきエネルギーから生まれた魔物だ。普通のウルフとは全然強さが違う!

「アイツ王子だったのかよ!」

 ラナが呆れながら大剣を構えた。護衛のほとんどが王子とメガネの方を囲んだので、オレらはリッチを守る様に臨戦体制をとる。

 騎士が魔物の相手をしている間に、ネフとメガネがこっち側へやって来た。見た事も無い魔物に、珍しく慌てふためいている。

「何で魔物がいるんだ!?この場所は安全じゃ無かったのか!?」
「本来はいませんでしたよ。多分、悪しきエネルギーが強まってるんです」

 オレの言葉に、ネフは頭を抱える。

「まさか、本当に悪しきエネルギーが!?」

 ネフの顔色は悪い。

 逆にその言葉が不思議だった。一年の時に、シレネが聖属性を開花させた。それから彼女は『遣わされし聖なる乙女』の再来だと噂されていた筈だ。

「ネフ、とりあえず城に戻って報告しよう」
「あぁ。一度この場所を偵察させないと」

 メガネ君と2人、頷きあってる。もう姿を偽る余裕も無いみたいだ。その時、騎士達が相手にしていた魔物が咆哮を上げた。

 ビリビリ、と空気を振るわせる衝撃が走った。これは…この魔物特有のスキルで、咆哮を聞いた者の動きを止める技だ。

 マズい、と思った時には遅かった。

 魔物にはある特徴がある。

 絶命する前に、 1番ヘイトを稼いだ奴を狙う、と言われている。

 そして、この魔物も例外ではなかった。

 護衛騎士達が奴を討ち取る寸前。魔物は頭を振りかぶって、角を飛ばして来た。

 そしてそれは真っ直ぐ、ネフを狙って飛んだ。

 オレは正直言うとネフリティスが嫌いだ。
 権力を振りかざしてオレを脅して来たし。
 大切な人達をオレから奪った。

 だけど。

 この国唯一の王子で。
 ジェードにとって大事な従兄弟で。

 そして、オレは闇属性に耐性があって。
 多分この中で唯一動けるのがオレだけだったんだ。

「ゔっ、が…」
「リア!」

 遠のく意識に悲痛なリッチの叫び声が聞こえた。背中が熱い。ごふっ、と口から何かが溢れ出た。

「其方…何故」

 目の前には、信じられないとでも言う様に、愕然とした表情のネフがいた。

 そう。オレは魔物の角がネフに届く前に、ネフの前に飛び出した。そして背中から突き刺さった角が、多分腹辺りを貫通してるだろう。

 でも痛いというより、熱くて、意識が朦朧として眼前が暗くなってくる。

「おい!死ぬな、おい!」
「誰か、回復薬を!」
「リア!リア!」

 馬鹿やろう。王族がこんな所にノコノコ来るんじゃない…みんなが、気を使うだろう…。

 言いたい事を言う暇もなく。
 オレは意識を手放した。
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