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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 数日後。学校で向かう馬車の中で、ライバンから衝撃的な話が出た。

「ネフリティス様の側近候補…ですの?」
「あぁ。オレもそろそろ将来の方向性を決めなきゃいけないしな」

 元々ライバンはトンガリ君と競って剣を学ぶ程、剣術が好きだ。だから将来は騎士団に進むと思ってたのに。

「お兄様は、剣術を極めるのだと思ってましたの」
「はは、いつまでも子供のままではいられないさ。元々、お父様の様に国の要職につく為に、城で働くつもりではあったんだ」

 そう言うライバンが急に大人びて見えて。何だ知らない人みたいに見えた。

「そんな顔をするな。何があってもオレがお前を守ってやるから」

 ライバンが水色の瞳を細めて、オレの頬に手を差し伸べた。手の平が温かい。

「でも、いつかはワタクシも家から出ますの」
「嫁になんか行かなくてもいいぞ?オレが養ってやる」
「お兄様…過保護過ぎます」

 ライバンの優しさが嬉しい。オレだって、本当は家から出たくないよ。

 ライバンもベルデラの事も好きだ。でも、いつまでも、隠していられない。だってオレは男だから。

 まだ、身体は小さいけど。その内、身長だって伸びるし。筋肉だってつくかもしれないし。声だってきっと低くなるだろう。

 だから、きっと、妹として側にいれるのも、あと少しだと思うー。

「何故泣く?」
「…お兄様の…妹で、ワタクシは幸せですの」
「……」

 ライバンが、側に座るオレを無言で抱き寄せた。学校に着くまでの間、ライバンはずっとオレの背を撫で続けてくれた。

 やがて、馬車が到着するとライバンは腕を離した。

「今日は先に行っててくれるか?」
「お兄様?」
「ハハ、少し馬車酔いしたみたいなんだ」

 力なく笑うライバンはどこか泣きそうにも見えて。オレはそれ以上、踏み込め無かった。



 馬車の外にはスペッサとトンガリ君が居た。ジェードの姿は無い。

 婚約解消の作戦を本格的に開始してから、ジェードはオレを迎えに来なくなった。不仲を装おう為だけど。これまで仲良くしていたせいか、ちょっと寂しさも感じる。

 教室の席に着くと、ネフリティスとメガネ君がやって来た。

「おはよう」
「おはようございますの」

 前に学食でネフリティスに恐怖を覚えてから、オレはどうも王子が苦手だ。知らず身体が強張る。

「あぁ、ヴィラトリ嬢。そんな緊張しないで。私はそっちの2人に話があって来たんだ」

 にこやかに王子は笑う。何だか機嫌が良さそうだ。また側近の誘いかな、と思わず2人の様子を見る。

「今日は帰りに特別室に寄ってくれるかい?側近の件で話があるから」
「分かった」
「は~い」

 2人の返事に満足気な表情を浮かべて、ネフリティスとメガネ君は去って行った。

「側近の件て…」
「あぁ。受ける事にしたんだ」
「どのみち~、高等部を卒業したら魔術師団に入るつもりだったからね~。王子の側近だと将来有利でしょ~?」

 何でもない事の様に話すスペッサに、ちょっとの違和感を感じる。だって、彼は3属性で魔力量も膨大だから、そんな事をしなくても重宝される筈だ。

「トンガリ君は何で急に…」
「俺は四男だから。何か功績を上げないととは思ってたんだ…。将来の為にも、痛っ!」

 何故か照れ顔をしていたトンガリ君を、スペッサが蹴った。そして、毎度の様にケンカが始まる。だから、それ以上の事は結局聞けなかった。

 仕方なく正面を向いたオレの視界に、教室に入って来たジェードとシレネの姿が見えた。

 2人楽しそうに談笑している。この世界のメインヒーローとヒロイン。

 きっとこれが正しい姿。正しい光景だ。

 なのに。

「…………」

 何だか、胸が痛い気がした。



 その日から、オレの日常は変化した。

 行きの馬車はライバンと一緒だけど、スペッサとトンガリ君のお出迎えは無くなった。側近候補として、ネフリティスの迎えに行ってるらしい。

 教室やお昼も、2人はネフリティスの側にいる。ネフリティスはオレにも声をかけてくれるけど、オレは怖くて近寄れなかった。

 ジェードは変わらず、シレネと一緒で。

 オレが時折シレネに冷たく当たると、すかさずシレネを庇ってフォローして、オレを批判する。

 完璧で作戦通り、の筈なのに。今までの自分の居場所が誰かに奪われていくような喪失感があった。

 あぁ、そうか。

 いつの間にか、オレはみんなと一緒にいるのが当たり前になってたんだ、と思い知らされる。

 でも、オレは悪役令嬢だから。きっと最後は嫌われて姿を消した方がいいんだ。

 無理やり、そう思い込ませる。

 そしてオレは。

 学校内を1人で過ごす事が増えた。
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