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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 翌日は休みだった。

 なので、オレは久しぶりの冒険者スタイルで孤児院にやって来た!

「ラナ!冒険行こうぜ!」

 ウキウキで孤児院のドアを開けたオレの目に飛び込んで来たのはー。

「リア!久しぶり!」

 ニッコニコの笑顔に、何故かきっちり冒険者スタイルに身を包んだリッチだった。暫くこっちでは見てなかったから、本当に久しぶりだ。

「リッチ?その格好は…」
「僕も貴族学校に入学したからね。父上から許可をもらったんだ。だから僕も今日からパーティにいれてくれる?」
「え゛」

 どういう事?目線だけ、近くにいたラナに向ける。ラナは肩をすくめた。あっちも訳が分からないみたいだ。

 リッチをスルーして、今度はその背後にいる護衛達に目を向ける。みんな、諦めた様な表情で軽く首を振ってきた。

 いつまで経っても返事しないオレにリッチが、しゅんと項垂れながら尋ねて来た。

「…ダメ?」
「ダメというか、いや、お前貴族だよね?わざわざ何で危ない目に遭いに行くの?」

 リッチの後ろで、護衛達が大きく頷く。リッチに何かあれば、彼らの責任だ。可哀想すぎる。

 普段のリッチなら、そういうのを察してこの辺で引く筈だ。なのに今日は違った。

 すごく必死に、まるで縋りつく様にオレに迫ってくる。

 オレは相変わらず帽子を深く被って顔を隠してるのに、まるで覗き込むように、リッチの必死な目がオレを見てきた。

「ワガママだってのは分かってる。でもお願い。今日だけでもいいんだ、頼むよ」
「何でオレらと?護衛らと組めば…」
「君じゃないと意味がないんだ!」
「…っ」

 それがまるで愛の告白みたいで。オレはまるで胸が震えるみたいな衝撃を受けた。

 自分の胸の奥が。ドキドキして。やけに自分の鼓動が大きく聞こえた。

「リッチ、あの」

 何て言っていいか分からず、目線を上げると、リッチの向こうの護衛と目があった。いつものキツめの護衛だ。ものすごい目力でオレを睨んでる!こわっ。

 暫く成り行きを見ていたラナが、ならこうしようぜ、と提案を出してきた。

「オレとリア、リッチでパーティは組んで。そっちの護衛もそのままついて来なよ。リッチは絶対危ない事はしない。それでどうだ?」
「わかった!ラナありがとう!」

 嬉しそうに目の前のリッチが笑った。

 身長も伸びて少し顔つきも男らしくなってきて。ジェードの時はお上品な態度で、爽やかな笑顔のくせに。

 リッチの時は、年相応に感情豊かで。本当に楽しそうに、嬉しそうに笑うんだ。

 リッチの笑顔ひとつで、また鼓動が少しだけ早くなった気がした。



◇◇◇



 リッチと護衛を引き連れてやって来たのは、王都近くの森だった。

 ラナと薬草や動物系の獲物を狙う時によく来る場所だ。獰猛な動物や魔物は出ないから、オレ達子供でも冒険しやすい場所だ。

「この森には初めて来たよ」

 後ろをついてくるリッチが呟く様に感想を漏らした。

「貴族は馬車だもんな」
「うん。この森は通らずに草原側から通る事が多いよ」

 そんな話をしてると、目の前から2体のウルフが姿を現した。

「出たな。リッチは護衛の後ろに」
「わかった。気をつけて」

 リッチが護衛に護られるのを確認してから、オレとラナは駆け出した。

 パーティを組んで3年。今では互いの強みと弱みを把握してる最高の相棒だ。

「奥を止める!」
「任せた」

 オレは水色のガラス玉を取り出し、氷魔法を発現した。一体のウルフの足元を氷漬けにする。唸りながら動こうとするが、勿論動きは封じられている。

 その間にラナが大剣を振り上げ、もう一体のウルフに斬りかかった。その隙にオレは無属性と火魔法を練り上げ、ラナの大剣に火属性を宿す。そして、オレの小剣にも。

「行くぞ!」
「おう」

 あとは簡単だった。このウルフは火に弱い。ラナとオレの剣で一体目を簡単に倒し、今度は二体目に取りかかる。いくらかダメージを喰らわせたところで、オレはリッチを振り向いた。

「リッチ、トドメさすか?」

 オレの言葉に、それまで心配そうな顔をしていたリッチがハッと表情を変えた。

「途中から…いいの?」
「もちろん。パーティだろ?」
「そうそう、気にすんな」

 オレとラナの言葉に、リッチはちょっと泣きそうな、感動した様な表情を浮かべた後、ありがとうと言いながら、顔を伏せた。

 その後は、リッチの繰り出した炎の渦で、ウルフを討ち取った。

「リッチは火属性なんだな」
「うん、僕の家系は火属性が強いんだ」
「ふーん」

 リッチの家系というと、王族に連なるものかな?ふとそんな事を考えながら、オレ達は冒険を続けた。



◇◇◇

 

 冒険者ギルドの中には、簡易的なシャワーがある。いつも、ラナと2人、そこでシャワーを浴びて帰るのが日課だ。孤児院の水の節約になるしな。

 個室で軽く水浴びして髪を乾かしてると、コンコンとノックされた。

「ごめん、まだ使ってる」
「リア、僕だよ」
「リッチ?待ってて」

 慌てて服を着て、帽子だけ被ってドアを開けた。シャワーを浴び終わったのか、リッチの茶色の髪が少し濡れていた。

「リッチ、髪が」

 ガラス玉を手に、もう片手を伸ばして、風魔法で乾かしてるやる。オレより背が高いから、ちょっと背伸びしないと届かない。

 自然と見上げる形になるから、せっかく顔を隠す為に被った帽子もあまり意味がない。逆にオレを見下ろす形になったリッチが、オレを抱きしめてきた。

「え?なに?」

 リッチは無言のまま、オレの帽子をそっと脱がせた。

「もう一度、リアの顔をちゃんと見たかったんだ」

 そう言って来たリッチは眩しいものを見る様に、目を細めた。

 そしてー。

 チュッ。軽いリップ音。

 いま、リッチの唇が、オレのおでこにー。

「リア。今日はありがとう。やっと決心がついたよ」
「え?な、なにが?」
「なんでもない。先に行くね」

 抱きしめていたオレを解放すると、リッチはそっと帽子を被せてくれた。

 混乱したままのオレが顔を上げると、既にリッチの姿は無かった。
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