婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林

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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 剣の実力チェックが終わった後は昼休憩だ。

 貴族学校の学食は、広い食堂で豊富なメニューから好きな物を選んで食事をするシステムだ。

 広い場所でみんなと食事をしたり、テラスもあるけど。オレ達4人は秘密の話をする為に、個室でお昼を摂る事にした。

 シレネも誘おうかと思ったけど、仲良く話せる相手を見つけた様だったので、そっとしといた。

「なかなか素敵な部屋ですの」

 程よく広すぎず、秘密の話にはピッタリだ。

 今から話す内容は他の奴らには聞かせられない。だから普段側にいる護衛や召使いらも、今は外に出てもらってる。

「これ、美味しいですの!」

 オレが頼んだのは魚料理だった。侯爵家のメインは肉だ。冒険者として摂る食事は少しのパンと野菜。魚料理なんて、滅多にお目にかかれない!

 感動でマナーもそっちのけで、夢中で食べ切ってしまった。

 隣のジェードが、ソースついてるよ、とナプキンを渡してくれた。口元を拭くオレに、ジェードが身を寄せて来た。

「違う、ここだよ」

 拭いていたところと反対側をジェードがナプキンで拭いてくれた。一瞬、綺麗な緑色の瞳と視線が合って。次の瞬間、パッとお互いに距離を開けた。

「あ、ありがとうございますの」
「い、いや、僕の方こそ」

 思いのほかジェードの顔が近かった事に、何だかオレはドキドキした。

「そろそろ話し合いをしようよ~!」
「そうだ。それに2人とも近いぞ」

 スペッサとトンガリ君の言葉に、オレはドレスのポケットから魔法のガラス玉を取り出した。中には闇属性が込められている。

 防音魔法を念じて、その部屋に防音壁を繰り出した。スペッサが、使ってくれて嬉しいって喜んでいる。そう、これはスペッサがプレゼントにくれた物だ。すごく重宝してる。

「とても助かってますの。ありがとうございますの」
「良かった。欲しければまた言ってね」

 オレの6属性は世間的には公表されてない。衝撃が強いからだ。だからオレが魔法を使おうとしたら、こんな風に隠れ蓑を使う方がいい。

 スペッサはそれを知っていて、ガラス玉を6個プレゼントしてくれたんだ。

「じゃあ、どうやって穏便に婚約解消するか意見が欲しいですの」

 そう。やっと4人が堂々と集まれる様になったのだ。話すことはオレとジェードの婚約解消についてだ。

「仲が悪いフリしてケンカするのは~?」
「今日こんなにベッタリしてたのに、不自然じゃないか?」

 スペッサとトンガリ君の言葉に、確かにと思う。どうせ婚約解消するなら、朝腕を組んで婚約者アピールする必要は無かったかも。

 そもそも何でジェードはそんな事をしたんだろう。ジェードを見ると、彼は何か考え事をしていた。

「ジェード様?どうされましたの?」
「あ、さっきのヴィラトリア嬢の短剣の腕が凄かったなと思って…まるで実践で腕を磨いたみたいな」

 ギク。ジェードには孤児院での剣の練習を見られてる。その時は普通の剣だったから大丈夫だと思ったけど。

 オレの心臓がバクバクしてるなか、トンガリ君が、オレがいかに剣の練習を一生懸命鍛錬していたかを力説してくれた。その勢いに、ひとまず納得はしてくれたみたいだ。ホッと安堵する。

「じゃ、じゃあ、婚約解消の件なんですけど、良い案がありますの」

 オレは慌てて話題を変えた。



「婚約破棄?本気かい?」

 オレの提案にジェードが目を丸くした。オレが自ら中等部最終学年の卒業パーティーで、婚約破棄されたいと願い出たからだ。

 確か妹のやっていたゲームでは、悪役令嬢が卒業パーティーに婚約破棄されていた筈。それが中等部か高等部か分からないけど、さすがに18歳になってからの平民落ちは勘弁して欲しい。

「本気ですの。婚約を取りやめるなら早い方がいいですの。学校にいる間しかチャンスは無いですの」
「そうだけど、どうやって?」

 ジェードは複雑そうな表情だ。

「良い案がありますの」

 オレは自分が考えた案。正確にはゲームのシナオリをなぞった案を提示した。それにジェードが悲鳴をあげた。

「僕が浮気するの!?シレネ嬢と!?」
「正しくは、ワタクシに意地悪される可哀想なシレネを、ジェード様が庇って守ってあげるんですの」
「何で僕が?僕は君の婚約者なんだから、僕が庇い守るならヴィラトリア嬢の方だろ!?」

 いつも貴公子然としてるジェードにしては、珍しく声を荒げた。まるでリッチの時みたいに感情剥き出しで怒ってる。

「そ、それは、ワタクシがこれからシレネを苛める。正確には厳しく注意するから…」
「なら、シレネ嬢に非があるんだろう?君は理由も無く他人を非難する人じゃない。それ位、僕だって分かる」
「……ありがとうございますの」

 ジェードの厚い信頼が嬉しい。でも、そんな事を言ってたら、いつまで経っても婚約解消出来ないよ…。

「ジェード落ち着け。ヴィラ嬢が言ってるのは、あくまで苛める、厳しく注意するフリだろ?」
「分かってるけど、それで婚約破棄なんてやり過ぎだし、ヴィラトリア嬢だって傷物にならないか?」

 ジェードが言ってる事は最もだ。そこにスペッサが、大丈夫~!と会話に入って来た。

「確かに婚約破棄なんてイメージ最悪だけどさ~。ボクがすぐヴィラと婚約するから大丈夫~」
「俺だって、ヴィラ嬢にすぐ婚約を申し込むぞ」

 スペッサとトンガリ君の間はバチバチだ!2人の言葉に、ジェードは押し黙ったまま、顔を伏せる。

 そしてー。

「少し…考えさせて」

 元気なさそうに、そう返事した。



◇◇◇



 昼食後は魔法の実力チェックの時間だった。皆、魔法の属性や魔力量は家で事前に測っているけど、稀に変化する事があるらしい。

 なので、基本はココで再チェックをするらしいけどー。

「お久しぶりです。ヴィラトリア嬢」
「先生!お会い出来て嬉しいですの!」

 オレ達の魔法担任は、スペッサの叔父。オレとライバンの先生だった魔術師だ。

 オレが6属性という稀に見ない貴重性。なのに魔力量が子爵程度という微妙さから、どうにか学校での魔法チェックを回避出来ないかと魔術団に相談したところ、オレの事情を知っているスペッサの叔父が配属されたそうだ。

 金持ちのワガママ。そう言われそうだけど、これはどうしても譲れなかったんだ。

 ベルデラは侯爵家としてのプライド。
 オレは注目されるのを避けたくて。

 なので、オレはトルマリン主流の水と、1番タイプが多い風の2属性程度で通すつもりだ。その為なら、侯爵家の権力を無駄遣いするのもいとわないぞ!

 オレが先生と談笑している時にその騒ぎは起きた。

 人数も多いから数人の魔術師達で属性や魔力量をチェックしている中。1人の生徒が触れた水晶が激しい光を放っている。魔力量が膨大な証だ。

 その色彩は金。

 貴重性の高い聖属性とされている色だ。その色が強く輝きを増して、辺り一帯を金の光に染めた。

「こ、これは!」
「眩しいですの」

 オレも含め、周囲がざわめく。光が落ち着いた時。水晶の前には1人の少女が立っていた。

 シレネだった。

「遣わされし聖なる乙女…」

 誰かがそう呟いた。皆がつられる様に、遣わされし聖なる乙女だ、と口々に騒ぎ出す。

 世の中に悪しきエネルギーが蔓延る時、神は世界を救う為に1人の少女を世に遣わす。

 そんな奇跡の存在。

 それが今、現れた。
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