婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林

文字の大きさ
上 下
24 / 75
第二部 乙女ゲーム?中等部編

しおりを挟む
 上の配慮か知らないが、漏れなくオレ、ジェード、スペッサ、トンガリ君、それにシレネ、王子もメガネ君までも同じクラスだった。

 嫌な予感しかしないよ~。

 朝からの出来事でオレがグッタリしてる間に、オリエンテーションは終わり、授業が始まった。



 貴族学校は、貴族の子供が立派な貴族になる為に通う学校だ。

 最低限な知識やマナーは各家で行うが、更に高度な知識やマナー。社交性の勉強や同年代の交流はここで学ぶ。

 卒業後、能力に合わせて騎士や魔術士、城内勤めとして働く。もちろん家督の跡取りとして各領地に戻ったり、令嬢はそのまま結婚するケースも多いそうだ。

 だからか令嬢は、剣や魔法に関しては手を抜く奴らが多いらしい。

 まさしく今も。

「私こんなの出来ませんわ」
「野蛮ですもの」

 渡された剣を次々と令嬢達が放り出していく。

 オレ達のクラスは全員がどの程度、体力や実力があるかチェックの為に、剣の練習場所に集められていた。

 男女、ズボンに着替えて運動できる状態だ。そして、これから剣の実力を先生に見せるぞという時に令嬢達のボイコットが始まったのだ。

 その様子をトンガリ君が汚い物を見る様に冷たい視線を向けている。多分、女のこういう所が嫌いなんだろうな。

 複雑な表情のオレに、何を勘違いしたのかジェードが声をかけて来た。

「ヴィラトリア嬢も、もしキツければ無理はしないで」
「いえ、大丈夫ですの」

 そういえば、ジェードと会ってから剣の練習が取りやめられたから。オレが剣を習ってたのをジェードは知らないんだ。

「ちょっとだけ習ってましたの。それより、シレネをフォローしてあげて欲しいですの」
「シレネ?あぁ、そうだね」

 本当はオレがフォローしてあげたかったけど。王子に目をつけられたっほいからね。シレネのフォローはジェードにお願いした。

 ジェードがシレネの側に行き、話しかけるのが見えた。クラスで浮き気味のシレネも、優しい雰囲氣のジェードに話しかけられて、安心した表情を浮かべている。良かった。

「ふん、自分の婚約者が他の女の元に行って悔しいんじゃないのか?」

 嫌味な声がした。振り向けばメガネ君だった。何だ?こいつ。

「いいえ、別に」
「ふん、お前はいつも男を侍らせてるんだろ?なのに自ら戦う必要があるのかな?銀髪の小悪魔嬢」

 くっくっ、とメガネ君が馬鹿にする様に笑った。

 銀髪の小悪魔嬢。その言葉で分かった。前にオレが誕生日でやらかした醜態を知ってるんだと。

 オレの側にいたスペッサとトンガリ君も、殺気だつ。あの頃は本当にガキだったコイツらも、今は自分達がやった行動がどれだけオレに迷惑をかけたか自覚している。

 だから人前では、以前ほどベタベタはしてこなくなった。なのに、その噂はいつまでもオレについて回る。

 オレより先にブチギレたのはトンガリ君だった。

「ヴィラ嬢はそんな軟弱じゃない!」
「ふん、騎士の名家コーラル家も腑抜けとはな」
「何だと!?」
「トンガリ君、やめてくださいの」

 オレが止めた事でトンガリ君は押し黙った。オレや家を侮辱されて悔しそうだ。

 メガネ君が、トンガリクンとは誰だ?と聞いてきたが無視した。

「そんなに言うなら、ワタクシの相手を貴方がしてくださいの」
「はぁ?何故この俺が令嬢の相手を?」

 メガネ君は明らかに馬鹿した表情を浮かべる。

「怖いんですの?ワタクシも多少は剣を習いましたの。ワタクシが本当に守られてるだけか貴方自ら確かめたらいいですの」
「…………言ったな?後悔するなよ」

 メガネ君が殺気だって、剣を抜いた。反射する光の加減で上等な剣だと分かる。

 オレも本気で相手をする為に、腰に刺していた2本の短剣を抜いて両手で構えた。

「おい!ブラウ!何をしている!」

 邪魔して来たのは王子だった。その登場にメガネ君がホッと安堵の息を吐いたのが見えた。
 
「ネフリティス様。そこの令嬢が自ら自分の強さを確かめろと言って来たのです」
「そうですの。だから邪魔はしないで下さいの」
「な、お前、本気か?」

 メガネ君が狼狽える。剣で侯爵令嬢を怪我させたら一大事。でも話の流れで引くに引けない。たがら王子からの仲裁は望むところというとこだろう。

 でも、そうは問屋が下さないよ。

「ピカリンコメガネ!貴方の言った言葉は全令嬢、全女性に対する侮辱行為ですの!」
「な、なんだと?」
「令嬢は男に守られてるのが当たり前。貴方はワタクシにそう言いましたの!」
「そ、それは、お前が」
「本当にワタクシが、女性が守られてばかりの弱い存在か。逃げずにワタクシの剣を受けなさい!」

 ぶちっと何かが切れた音がした。多分メガネ君の堪忍袋だね。

「言ったな!かかってこい!」
「あ、おい、ブラウ!」
「第三者は引っ込んでなさいの!トンガリ君!」
「任せろ!」

 トンガリ君が王子を羽交いにして、後ろに引きずる。スペッサも正面から押して王子をオレ達から引き離した。

「生意気な令嬢め!かかってこい!」

 メガネ君が全部言い切る前に、オレは全速力で駆け出した。

 実際の実践では相手は獣や魔物。こっちのタイミングは待ってくれないんだよ。

 いきなりのオレの短剣にピカリメガネは焦りながらも反応した。左から来た短剣を剣で受け止め、右からの短剣は身を引いて避けた。

 なかなかいい反応だけど、まだまだだ。

 相手が反撃で横に振った剣をオレはしゃがんで避けると、今度は思い切りジャンプして高く跳んだ。そしてはらったままだったメガネ君の腕を足蹴にして、更に高く跳んだ。デカいリボンもふよふよと揺れた。

「なっ!」
「遅いですの!」

 空を舞ったオレを、驚愕の表情で見上げてくる。その顔をオレは思い切り踏んづけた!

「ぐあっ」

 そのままメガネ君は後ろに倒れる。オレは回転しながら華麗に着地した。

 そしてー。

「これが実践なら死んでますの」
「…まいった」

 首筋に当て短剣に観念したのか。仰向けに倒れ、頭側からオレに覗き込まれた状態で、メガネ君は降参を口にした。

 周囲で様子を見ていたクラスメイトはポカーンとしてる。ジェードやシレネさえもだ。

 見た目がド派手なちびっ子令嬢が、短剣両手に同級生の男子と戦って顔を踏んづけたんだ…無理もないか。

 そんな中、トンガリ君とスペッサが嬉しそうに駆け寄って来てくれた。

「さっすがヴィラ嬢だ!やはり稽古は続けていたんだな!」
「ヴィラ!すごいね~!かっこ良かったよ!」
「トンガリ君、スペッサ…」

 いたたまれない空気の中、真っ先き駆け寄ってきた2人に胸があったかくなった。

 気持ちに余裕が出来たオレは倒れたままだったメガネ君の手を引っ張り起こした。シレネの時みたいに埃もはらってやる。

「ヴィラトリア嬢は…本気で剣を学んだんだな」
「はい。やっぱり最後に自分の身を守るのは、自分自身ですの」
「そうか。すまなかった」

 メガネ君が頭を下げてきた。先ほどと違って誠意を感じる。オレの中の怒りもおさまっていた。

「もういいですの。女だってやる時はやるんだって分かってくれたらいいですの」
「あぁ、悪かった。ところで…」

 言い淀みながら、こちらを伺う様に見てくる。

「ピカリンコメガネとは…誰の事だ?」
「……………」

 オレは誤魔化す為にとびっきりの笑顔を浮かべた。

「ワタクシ、メガネをしている方が好きなんですの。知的で素敵で。特に貴方の様な素敵なメガネ姿にうっとりしてしまって。もし迷惑なら次から気をつけますの」
「……いや構わない」

 顔を真っ赤にしたメガネ君は、ひび割れたメガネを中指で直しながら、照れたように言った。

「そうか。メガネが好きなら仕方ない。俺の事は好きな様に呼んでくれて構わない」
「え?」

 そうして、彼のあだ名は公認でメガネ君になった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚

竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。 だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。 耳が聞こえない、体も弱い。 そんな僕。 爵位が低いから、結婚を断れないだけなの? 結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...